お知らせ

生物系三学会 中四国支部大会(香川大会) 公開シンポジウム
中国・四国地域に潜む多様な環境と生物
地球環境の縮図「JaSPaシステム」


世話人:小林 剛・山田佳裕(香川大学 農学部)

 中国・四国地域は大まかにさらに3つの地域に区分することができます。比較的冷涼で多雪な日本海側,温暖で少雨の瀬戸内,そして比較的高温で多湿な太平洋側です。それぞれが異なる自然環境を持っており,そこに生活する生物や私たちの暮らしにも違いをもたらしています。このこと自体はよく知られていますが,南北の距離にしてわずか200〜300km,緯度にしてわずか2〜3。という範囲の中に,このように異なる気候区や生物相,そして産業および文化圏が含まれている地域は,アジアだけでなく世界的にも珍しいということは,まだあまり知られていないようです。
 中国・四国地域を取り囲んでいる日本海,瀬戸内海そして太平洋というタイプが大きく異なる3つの海は,この地域全体を強く特徴づけるとともに,地域内の環境と生物の多様性に大きく貢献しています。また,この地域の海や山は地域内の分断と相違をうながす一方で,大気や河川,我々を含む生物の活動によって,ある係わりや繋がりが形成されています。私たちはこのように特徴的な中国・四国地域の生態系(システム)を,日本海(Japan Sea)・瀬戸内海(Seto-Inland Sea)・太平洋(PacificOcean)の頭文字に基づいて,「JaSPaシステム(ジャスパ・システム)」と名付けました。
 このシンポジウムでは,中国・四国地域の環境と生物をJaSPaシステムという考え方に基づいて,あらためて見直してみたいと思います。今後の自然環境と生物の保全,新たな研究展開,そして教育・産業のさらなる発展について,皆さまとご一緒に考える機会となれば幸いです。

日時・会場

日時:2011年5月14日(土) 16:30〜18:30
会場:香川大学 幸町北6号館 611講義室(香川県 高松市幸町1-1)
アクセス・宿泊についてはこちらをご覧ください。
参加費:無料(公聴自由)

講演会プログラム

S-01 中国・四国地域の環境や生物の特徴を「JaSPaシステム」として見直してみよう

  • 小林 剛(香川大学 農学部)
     Kobayashi T : Alternative view on the ecosystems of Chugoku-Shikoku district as a 'JaSPa system'
  •  この講演では,上の趣旨に補足を加えながら,1)中国・四国地域の自然環境の特 徴,2)それに基づいた植物の構造や機能の特徴,3)その特徴に注目した植物の新た な研究アプローチの提案,などをお話ししたいと思います。とくに,1)と2)ではこ の地域内の地史・地形,大気・気象,植物の遺伝的変異そして人間活動の影響に注目 し,3)では植物に対する地球環境変動の影響を明らかにするための野外操作実験な どに話題を拡げてみたいと思います。最後に,生物や環境の研究とその成果を通して 地域ごとの産業・生活の特徴をとらえなおしたり,今後の研究だけでなく産業・生活 の地域間のさらなる連携を目指す活動も含めて「JaSPaシステム」であるという考え 方をご紹介したいと思います。

  • コメント 鶴崎展巨(鳥取大学 地域学部)
    JaSPaシステムに特色ある昆虫相が生じる理由とそれに基づいた今後の研究アプロー チへの提言
  • S-02 JaSPaシステムの利用:水質の多様性から生物を診る

  • 中野孝教(総合地球環境学研究所)
     Nakano T: Diagnose geographical diversity of biota from water-quality
  •  どんな生物も水なくして生命活動を維持できないが,水の量や質は人間活動や周囲の自然環境によって大きく変化する。したがって,水が変わればその影響はただちに 生物に及ぶことになる。ところが,水と生物を構成する成分は互いに大きく異なっているので,両者の関係を物質的にとらえるのは意外に難しい。いっぽう物質を構成す る元素には,多くの場合,異なる質量をもつ安定同位体が存在する。安定同位体比は元素の指紋として利用できるので,水循環や生態系の研究に盛んに利用されている。 そのレパートリーは,近年の分析機器や技術の進歩によって飛躍的に多くなっている。

    生物多様性の研究にとって,生物の地理的分布はもっとも基本的な情報である。河川水や地下水の水質も地域によって大きく異なっている。この水質の地理的多様性をも たらしているのは,流域に降る雨や雪,地質および人間活動である。西南日本は,降水量や地質の南北変化が日本の中でもっとも明瞭に見られる地域なので,その違いは 水質に反映されると考えられる。水質成分の中でも,ストロンチウムの多くは地質に,いっぽう鉛の多くは大気に由来することが,それらの安定同位体比を用いた研究 から明らかになってきた。

     大学共同利用機関法人である地球研では,各種の安定同位体機器を整備すると共に,各地の大学と連携しながら水質地図作りを行っている。本講演ではとくに地質由 来元素に注目し,安定同位体を用いて水と生物との関係を検討した例を紹介する。JaSPaシステムは,水質を介して生物多様性のダイナミクスを研究する上で魅力的な 地域であり,本講演を機に,同地域の大学や関連機関の研究者と地球研が連携した研究を期待したい。

  • コメント 山田佳裕(香川大学 農学部)
    水診断の有効性とJaSPaシステム
  • S-03 JaSPaシステムにおける3つの海(日本海・瀬戸内海・太平洋)の違いとつながり

  • 一見和彦(香川大学 瀬戸内圏研究センター 庵治マリンステーション)
     Ichimi K: Characteristics of physiological and biological ecosystems of Japan Sea, the Seto Inland Sea and Pacific Ocean
  •  海洋では植物プランクトンを主とした一次生産者によって上位栄養段階生物が支えられている。本講演では3つの海の海洋構造とその一次生産性を中心にその特徴を紹 介する。日本海の上層には対馬海流が流れているが,数100m以深には「日本海固有水」と呼ばれる栄養物質に富んだ冷水塊が存在している。これより供給される栄養物 質の量が一次生産量を左右すると考えられているが,これは大陸からの季節風を主体とした気象に大きく制御されている。また四国南部に位置する土佐湾も栄養物質に富 んだ水塊を深層に抱えており,太平洋を流れる黒潮の接岸によってもたらされる勇昇流によって栄養物質が供給される。すなわち黒潮の接岸度合いによって一次生産量は 大きく変動すると考えられる。両海域に比べると,瀬戸内海は非常に浅く,多くの島と海峡部が連なる非常に複雑な海底地形を成しており,海域環境が非常に多様である ことから,生息する生物種も非常に多様である。一方で沿岸に大小の都市を抱えており,人間活動に起因する多くの栄養物質が主として陸域から河川を通じて負荷される ことから,その負荷量の多少によって瀬戸内海はこの50年ほどで大きく生物環境を変化させてきた。すなわち,日本海と太平洋海域の生物生産が主として地球規模の気象 変動に制御されているのに対し,瀬戸内海はこれに加えて人為的な影響も非常に大きい特徴がある。

  • コメント 安渓遊地(山口県立大学 国際文化学科)
    生物と文化の多様性を守るために:JaSPa共同体から得られるもの・得るべきもの

  • お問い合わせ

    小林 剛(香川大学)
     〒760-8522 香川県高松市幸町1-1 香川大学教育学部生物学教室
     生物系三学会中国四国支部 香川大会準備委員会
     E-mail: t-koba@ag.kagawa-u.ac.jp [ @(全角) は @(半角)に置き換えてご送信ください ]
    シンポジウム2011年5月 JaSPaシンポジウムポスター