日本生態学会賞 選考経緯および選考理由

第9回(2011年)日本生態学会賞

受賞者:
中静 透(東北大学大学院生命科学研究科・教授)

選定理由

中静透氏
 中静透氏は、ともすれば静的に捉えられがちであった極相林の更新過程を、構造の空間的・時間的不均一性や生物間相互作用などの動的要因を加味して解析する新たな研究アプローチを開拓した。モザイク構造をもつ森林生態系の動態や維持メカニズム解明のため、多数の森林研究者と連携し、異なる気候帯における森林を対象に長期大面積調査プロットを設置し、森林動態を解析する指導的な役割を果たした。大面積にわたる樹木の毎木調査を数年おきに行うとともに、送受粉、種子散布、芽生えの発生と生存、デモグラフィー、生物間相互作用などを多様な樹種を対象に徹底的に行い、森林構造、攪乱、生活史、生物間相互作用などが群集の構成や多様性に影響を与えることを明らかにした。また、中静氏が組織した一連の共同研究を通して、多数の若手研究者を育成し、日本の森林生態学研究を世界レベルに引き上げた点も高く評価できる。さらに、中静氏は原生的な森林生態系だけでなく、人為インパクトを受けた森林における生物多様性の変化やその回復過程、森林生態系の持続可能性についても研究を行っている。人の生活がどのように生物多様性に依存し、変化させてきたのか、生物多様性を失うことがどのような影響をもたらしうるのか、多様性を維持しつつ持続的に森林を利用するにはどのような視点が重要か、といった課題について、自然科学と社会科学の両面から切り込む研究も進めている。これらの取り組みは、生物多様性保全に関する科学的枠組みの構築にとどまらず、政策提言のうえでも大きな貢献を果たしている。中静氏が行ってきた一連の研究のインパクトの高さは、論文の被引用回数がすでに2300回を超えていることからも明白である。以上のように中静氏は、温帯林や熱帯林など多様な森林を対象に、森林の動態、樹木の生活史、森林管理方法と生態系サービス、生物多様性維持機構などに関して卓越した業績を残してきており、日本生態学会賞の受賞に十分値すると考えられる。

選考委員会メンバー:辻和希,津田みどり,永田 俊,井鷺 裕司,久米 篤,宮下 直(委員長),宮竹貴久,谷内茂雄,吉田丈人


第8回(2010年)日本生態学会賞

受賞者:
重定 南奈子(同志社大学文化情報学部・教授)
寺島 一郎(東京大学理学系研究科・教授)

選定理由

本賞のすべて他薦による立候補者5名のうち、委員会は本年度の受賞候補者として重定南奈子氏と寺島一郎氏の両名を推薦することとしました。選考の経緯は以下の通りです。

重定南奈子氏
 重定南奈子氏は、主に数理的手法を用いた生態系全般にわたる研究で傑出した業績をおさめています。これまで幅広い研究対象を手がけ、現時点で100編以上にわたる学術論文・記事、20数編余りの著書及び翻訳の執筆をしています。氏は物理科学における反応速度論の数理的な取り扱いを出発点とし、力学系平衡点の安定性解析に基づく生態系の構造に関する一連の研究を、古典的なR. Mayの研究と同時期に世界に先駆けて展開しました。重定氏のライフワークは生物集団の空間分布に関する研究でありますが、連続時間・連続空間を記述する反応拡散方程式の枠組みを用いて生物集団の空間分布の問題に取り組み、今日的な問題である生物集団の侵入と伝搬の数理科学という新分野を創出したパイオニアの1人です。特に、P. M. Kareiva と共著で著した論文は、昆虫個体の移動分散をランダムウォークならびに拡散過程として記述したもので、ISI調べで200を超える被引用回数を持つなど、生態学における移動分散に関する数理的研究の古典論文となっています。また、松枯れ病を引き起こすマツノザイセンチュウを媒介するカミキリの個体群動態のモデル解析で被害地域拡大の予測に貢献したほか、研究対象はバクテリアのコロニーパターン、サンゴや植物の形態形成、環境攪乱が種多様性に及ぼす効果、魚類の繁殖生態等多岐にわたり、教科書や一般書も多数著し啓蒙活動においてもリーダーシップをとっています。

寺島一郎氏
 寺島一郎氏は、門司・佐伯や篠崎のパイプモデルなど植物群落内での光利用に関する理論体系を植物体内というミクロスケールの光利用に適用した画期的研究により生態学の幅を広げたパイオニア的研究者であるとともに、植物生理学・形態学と生態学を結ぶ希有な存在です。個葉の光合成測定における葉の微細構造の重要性を明らかにし、ストレス環境下では計算によって求めた葉内CO2濃度(Ci)が過大推定となることがあると指摘したTerashima et al. (1988)は、これまでに310回以上引用されています。研究対象は幅広く、物の葉が何故緑色であるのかという問題について斬新な論文、曽根らとの共同でのパイプモデルと樹形のダヴィンチ則についての重要な論文、群集生態学関連では長嶋との共同研究による個体サイズの二山分布の成立要因、背揃現象の記載、植物生理学関連では、光阻害の発生機構やCO2拡散におけるアクアポリンの役割、光合成の温度順化などにおいて顕著な業績があります。これらは国際的な著名誌を中心に100本以上の論文として発表され、総引用回数は3600回を超えています。これらの一連の研究は、単に植物生態学における大きな貢献に止まらず、今日、盛んに行われている地球環境レベルの植生計測手法の学問的基礎となっており、日本と世界の植物生態学の発展に多大なる貢献をしました。また、啓蒙活動においても多数の日本語の教科書に携わっています。

5名の立候補者はいずれも日本生態学会における重鎮として確固とした地位を確立しているほか、近年社会的に重要な保全生物学でもオピニオンリーダーとしての活動をしています。しかし寺島氏と重定氏は研究業績面で国際的にも抜きん出ていると委員会は判断し、原則1名の受賞者の枠をこえ2名を推薦することとしました。なお、本委員会では、受賞者の高年齢化を防ぐため今後も原則1名の枠に治まりきらない場合は2名以上を推薦することを躊躇しない方針で行くことなどが議論されました。

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆,杉本敦子,辻和希(委員長),津田みどり,永田俊,井鷺裕司,久米篤,宮下直



第7回(2009年)日本生態学会賞

受賞者:
和田英太郎(独立行政法人海洋研究開発機構フロンティア地球環境研究センター生態系変動予測プログラムディレクター,京都大学名誉教授)
加藤真(京都大学大学院人間・環境学研究科・教授)

選定理由

和田英太郎氏
 和田氏は「安定同位体生態学」と呼ばれる生態学研究の新しい分野を切り拓いた.この分野は,地球環境変動下における生態系や人間活動による生態系の歪みの解析などに発展し,現在の生態学では不可欠な分野に成長しているおり,氏の生態学の発展,深化における貢献は際立っている.
 和田氏の生態学に関連した研究業績は,おもに二つに区分することができると思われる.ひとつは,食物連鎖過程を通してみられる生態系における安定同位体比の変動パターン(規則性)を発見し,その機構に対する理解の深化に貢献したことである.これらの業績は,「安定同位体生態学」と呼ばれる新しい生態学研究分野の創出につながった.近年出版された初めての国際的な教科書であるStable Isotope Ecology (by BrianFry, Springer 2006)においても,同氏の貢献は高く評価されている.この新しい方法論は,我が国の生態学研究者の間でも,近年,急速に普及しており,陸域・水域を問わず,食物網や食性研究の不可欠なツールとなっている.この業績に関連する和田氏の主要論文4報(NATURE 292: 327-329 (1981); GEOCHIMICA ET COSMOCHIMICA ACTA 48(5): 1135-1140 (1984)など)だけでも,その総被引用件数は1301件に達し,和田氏の研究の国際的なインパクトの大きさが裏付けられている.
 和田氏の研究業績のもうひとつの注目すべき側面は,安定同位体比の分布や変動に基づいて,生態系に対する人間活動の影響を解明する新しい方法論の提案を行った点にある.上述の研究のいわば「応用編」ともいえる研究を琵琶湖̶淀川水系などで展開し,研究成果は Oecologia, Functional Ecology など主要な国際誌に多数公表されている.
 また,和田氏は,学際的な新領域の開拓を通じて,多くの優秀な若手研究者を育てた.IGBP,未来開拓,総合地球環境学研究所のプロジェクト研究などのリーダーとして,当該分野の研究展開における指導的役割を果たした.

 以上のように和田氏は,研究業績,国際性,指導性,いずれの点においても高く評価でき,選考委員会は,同氏を第7回(2009年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定した.

加藤真氏
 加藤氏は昆虫,植物,水生生物と広範な分類群を対象とし生物多様性と生物間の相互作用を解明する研究を精力的に展開している.加藤氏の研究スタイルは,熱帯林から海岸までさまざまなハビタットに生息する生物を直接観察によって調べ,生態学的新知見を得ようと追求するもので,生態学の原点であるナチュラリスト的視点に貫かれている.
 このような研究スタイルによって,加藤氏は,熱帯林における送粉共生系の種間関係の同定,機能,空間分布,動態,進化的意義について大きな研究成果をあげている.特に裸子植物だが被子植物と祖先を共有するグネツムが,ガとのunspecializedな虫媒送粉共生関係にあることを発見し,被子植物の花とともに共進化した長い口吻を持つガの出現後に進化したと推定,送粉の起源を示唆した研究は高く評価されている.また日本においては,外来送粉種の侵入の在来送粉群集への影響を報告し,さらには潜葉虫とそれをめぐる多様な寄生蜂群集の構造と動態を明らかにする,など生物多様性と相互作用網に関する一連の研究は Nature, 米国科学アカデミー紀要,Oecologia, American Journal of Botany, Population Ecology, Ecological Research など国際的に著名な学術雑誌を中心に100本以上の英語論文を発表し,総引用回数は700回を超えている(Web of Science 調べ).
 また,加藤氏は,熱帯林(主にサラワク)の研究において,当該分野の研究展開における指導的役割を果たしてきた.さらに,多くの日本語による解説や著作によって生物多様性の重要性を唱え,啓蒙に努めた点も見逃せない業績である.

以上のように加藤氏は,研究業績,国際性,指導性,いずれの点においても高く評価でき,選考委員会は,同氏を第7回(2009年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定した.

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆(委員長),柴田銃江,杉本敦子,竹中明夫,辻和希,津田みどり,永田俊,松田裕之



第6回(2008年)日本生態学会賞
  該当者なし

選考経過並びに日本生態学会賞選考に関する提言
 今回は4名もの被推薦者に恵まれた。いずれも本学会の第一線で活躍されている優れた研究者であり、かつ、研究業績だけでなく、後進の指導、学界活動や社会貢献においても献身的で多大な貢献をした被推薦者が含まれていた。にもかかわらず、該当者なしとする残念な結果となった。評価基準について再度議論した結果、生態学の普及・発展に特に目覚ましい貢献を顕彰する賞としては本学会に功労賞が既にあり、あくまでも「生態学の深化や新たな研究展開に指導的役割」という観点で評価したとき,応募はされていないけれどもより高い優先順位で受賞すべき方々が他にいらっしゃるのではないか,といった議論があった.そのうえで投票を行ったところ、残念ながら、全員一致で該当者なしとする結論を得た。今後は適切な候補者が漏れなく選考対象となるような具体的な制度改革が必要である。

 そこで、以下の2つの選考過程の改定案を提案する。
  1. 今までの他薦による推薦に加えて、候補者名だけでもよいから、選挙で選ばれた全国委員(本選考委員を含む?)一人一人に1名以上の候補者を挙げていただき、票数などを伏せた上で被推薦者リストを選考委員会での選考対象とする。
  2. 詳しい推薦理由がなければ評価できないことから、また本賞は膨大な研究業績を持つ者が対象となることから、審査委員以外に内々に意見を聞く外部レビューを認める。
 これらの改定により、より広い被推薦者を選考対象とし、かつ、詳しい評価報告を踏まえた選考が可能になるものと思われる。あるいは、過去の被推薦者については数年間に限り自動的に選考対象とする案も出された。今回もこれらの制度を適用するよう動議が出されたが、推薦〆切後に今回の推薦制度を変えることは、常任委員会などの承認が必要なことを考えると非現実的であるとの理由で見送られた。
 第3回選考委員会の選考経緯 によれば、この改定案が想定する被推薦者は全国委員などを務めていると思われ、「『互選』のようになってしまう」という欠点をもつとされるが、いまだに推薦委員会が実現していない経緯に鑑み、現行の推薦制度と併用することにより、最も現実的な方法と思われる。
 また、このほかに、学会賞は他の2賞と異なり、自薦他薦だけでは候補者を募ることができないこと、業績評価が多岐にわたることから、9名の委員を選んでも全員で議論する以上各賞選定時に要する議論の時間が短縮できるわけではない。そのため、学会賞選考委員と他の2賞の選考委員を分けるべきであるとの意見があった。  また、今後は9名の委員を同時に招集することには困難が予想される。多くの委員を維持するよりも、外部レビューを活用するほうが有効と思われる。
 さらに、功労賞と学会賞、宮地賞と大島賞の違いが会員によく理解されていないことがある。それぞれの賞について細則を設けるだけでなく、各賞の性格が同時にわかるような形で推薦を募る文章が必要であろう。  最後に、これは宮地賞、大島賞にも該当するが、選に漏れた推薦者にも落選理由を周知すべきという意見もあった。繰り返し応募することで受賞する可能性の高い被推薦者の機会は維持すべきである。

選考委員:松田裕之(委員長)、粕谷英一、河田雅圭、工藤岳、齊藤隆、柴田銃江、杉本敦子、竹中明夫、東正剛


第5回(2007年)日本生態学会賞
受賞者:
 山村 則男(京都大学生態学研究センター・教授)

選定理由
 京都大学生態学研究センター教授・山村則男博士は日本を代表する数理生態学者の1人であり、採餌戦略、繁殖戦略、性選択、社会行動などの行動生態学的研究で優れた業績を上げている。例えば、フンバエの最適交尾時間に関するG. A. Parkerの有名な研究の矛盾点に気づき、交尾時間や採餌時間を最適化モデルではなくESSで説明した論文は国際的にも高い評価を受けている。また、他の生態学分野の研究者とも積極的に協同し、種分化機構、種間関係、生物多様性などに関する研究でも独自のモデルを組み込み、優れた成果を数多く上げている。これらの成果は71編の原著論文としてNature、Ecology、Evolution、American Naturalist、TREE、Ecological Researchなどの国際誌に発表されている。
 さらに、ゲーム理論を生態学に応用したメイナードスミスに学び、その手法を逸早く日本に紹介した研究者であり、進化的安定戦略理論に関する日本の第一人者と評価されている。ゲーム理論を含む数理モデルを分かり易く解説する能力に長け、「繁殖戦略の数理モデル」や「動物生態学」などの著書を通じて多くの野外生態学者に数理モデルの有効性を理解させてきた貢献度は極めて大きい。
 日本生態学会賞選考委員会は、行動生態学やその他の生態学分野における独創的な理論研究および啓蒙活動における大きな貢献を高く評価し、山村則男博士を日本生態学会賞受賞候補者として選考したことを報告する。

選考委員:東正剛(委員長)、粕谷英一、工藤岳、柴田銃江、竹中明夫、松田裕之




第4回(2006年)日本生態学会賞
受賞者:
 松本 忠夫(放送大学・教授)

選定理由
 松本忠夫氏は,シロアリ類を中心に社会性昆虫の進化や森林生態系内での役割について傑出した研究業績をあげてこられた.1970年代には,マレーシア・パソの熱帯雨林でシロアリ類の個体数密度,現存量,炭素量,窒素量,カロリー量,呼吸量などを綿密に測定し,熱帯雨林におけるシロアリの優占性と物質循環に果たす役割を,世界に先がけて具体的な数値で明確に示した.1980年代には,シロアリとその近縁系統であるゴキブリ類における社会性の進化に注目して研究を進めた.この過程で,それまで単独性と考えられていたオオゴキブリ類で家族性の種を発見し,とくに,シロアリの祖先系統と考えられていたキゴキブリ類に生態的に近いクチキゴキブリ類での亜社会性の発見は,世界の注目を集めることになった.1990年代に入って,各種ゲノム計画の進展とともに扱いが容易になった分子生物学的手法をいち早く取り入れ,ゴキブリ類,シロアリ類,アリ類の社会構造や系統関係の解析に取り組んだ.とりわけ,塩基配列判読による分子系統解析にとどまらず,ディファレンシャル・ディスプレイ法などのさらに高度な分子生物学的手法を導入し,社会性昆虫研究の究極的な課題であるカースト分化機構の解明にまで,研究を発展させた.
 研究成果は,Oecologia, Sociobiology, Proceedings of the National Academy of Sciences (USA), Ecology, Evolution, Journal of Molecular Evolution, Ecological Researchなどに81編の論文としてまとめられている.
 松本氏は,多くのすぐれた著書,教科書を執筆あるいは編纂され,生態学教育の発展にも多大の貢献を果たされた.また,そうした学術上の功績を背景に,日本生態学会で幹事長をはじめ,全国委員,編集委員などを歴任され,学会の50周年時には50周年記念事業委員長として事業のとりまとめに尽力された.社会性昆虫学の国際組織であるInternational Union for the Study of Social Insects(国際社会性昆虫学会)では会長を4年間つとめられ,とくに2002年に札幌で開催された第14回大会では大会会長として活躍された.日本学術会議では,第18期,19期の会員として生態・環境生物学研究連絡委員会およびSCOPE専門委員会を運営し,関連分野の発展に大きく貢献された.
 以上のように松本氏は,研究業績,国際性,指導性,いずれの点においても高く評価でき,選考委員会は,同氏を第4回(2006年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定した次第である.

選考経過
 今回,受賞候補者の推薦は2件あった.もう一人の被推薦者もすばらしい研究業績をあげておられ,また生態学会の中での活躍もめざましい.このどちらの方を生態学会賞の候補者として選ぶかは,たいへん難しい仕事であった.
 選考の過程では,生態学会賞とは何なのか,これまで受賞されてこられた方はどのような選定基準で選ばれたのか,功労賞とはどの点で違うのか,などの議論がなされた.生態学会賞でも生態学会に対する貢献が重要な評価基準になるのではないか,とも考えられたが,もし今後,そうした点を考慮して選定していくとなると,ある年齢層に達した人たちを対象に「持ち回り的に」候補者選びをすることにもなりかねない.それは避けるべきであり,生態学会賞の質や存在価値を高めるためには,やはり研究業績を中心に選定していくべきであろう,という点で合意した.
 さてしかし,その基本合意にたって被推薦者2人の研究業績を検討してみると,研究分野が異なるだけに甲乙つけがたいものがあり、選考委員の中でも意見が大きく分かれた.結果的に年齢の若い方が選考にもれたが,今後のさらなる活躍を期待する意味では、生態学会賞はむしろ年齢の若い方を優先すべきではないか,という議論もあった.しかし最終的には,生態学と生態学会の発展に今後も指導的立場としてさらにご活躍いただくことを期待して,松本氏を生態学会賞候補者として選定するに至った.選考にもれた方についても、来年以降に再度推薦されることが強く望まれる。
 以上のような経過ではあったが,本選考委員会は,生態学会賞の質や存在価値の向上のために,今後,より積極的な受賞候補者の推薦が必要であろうとの合意を得た.そのためには,昨年の生態学会賞の選考経過の中にも記されているように,多くの被推薦者の中から候補者を選出できるよう,推薦委員会のようなものを設置するする必要があるのではなかと考えられる.ただし,その場合でも現在の公募制度は残し,また,推薦委員会委員の選定にあたっては分野などに片寄りが生じないよう配慮する必要がある.今後,全国委員会などで議論し,よりよいあり方が検討されることを望みたい.

選考委員会委員(五十音順):占部城太郎,粕谷英一,工藤 岳,中静 透,東 正剛,樋口広芳(委員長)




第3回(2005年)日本生態学会賞
受賞者:
 廣瀬 忠樹(東北大学大学院生命科学研究科・教授)

選定理由
 廣瀬忠樹氏は,植物群落の生産構造における窒素利用の意義について早くから注目し,葉緑体,個葉,個体,個体群,群集とさまざまなスケールにおいて展開された研究は,多くの国際誌に掲載され,国際的に高く評価されている.
 窒素利用効率と物質生産、とくに生活型、地上部/地下部比、栄養成長と繁殖成長などの植物器官に着目した光合成産物の分配との関係、群落の生産構造や個体密度、光、栄養塩などを制御した群集構造や種間関係と窒素利用との関係などについて、すぐれた着眼にもとづくモデル系を構築して解明していく手順には定評がある。これらの研究はまさに先駆的なもので,次世代の研究に大きな影響を与え,生理生態学分野の展開,発展に貢献した.
 また,廣瀬氏は国際共同プロジェクトでも指導的な役割を果たした.IGBP(International Geosphere-Biosphere Programme 地球圏―生物圏国際共同研究計画)においては,GCTE(Global Change and Terrestrial Ecosystems 地球変動と陸域生態系)のSSC (科学運営委員会)メンバーになり、国際的に活躍するとともに湿潤モンスーンアジアにおける森林生態系の傾度分析に関するコアリサーチTEMA (Terrestrial Ecosystem in Monsoon Asia モンスーンアジア陸域生態系に及ぼす地球変化のインパクト)を日本からはじめて提案,採択され、現在でも多くの研究成果を挙げていることは特筆に値する.このコアリサーチに関連して Tasks for Vegetation Science シリーズの33巻として出版した Global Change and Terrestrial Ecosystems in Monsoon Asia (T. Hirose & B.H. Walker eds. 1996) は初期のIGBP研究の成果を広く国際的に認知させる一翼を担った。
 さらに,廣瀬氏は,国際的に大きな影響力を持つ学術雑誌(Oecologia, Annals of Botany)の編集委員として活躍し,日本の多くの若手研究者ために海外への登竜門を開き、多くの優秀な後継者を育成した.
 以上のように廣瀬氏は,研究業績,国際性,指導性,いずれの点においても高く評価でき,日本生態学会賞受賞候補者選考委員会は,同氏を第3回(2005年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定した次第である.

選考経過
 選考委員全員は,廣瀬忠樹氏の研究業績,指導者としての実績を高く評価し,同氏を候補者として選定することに多くの議論を費やすことはなかった.
 選考委員会の議論は,「日本生態学会賞」の性格づけと推薦方法をめぐって展開された.宮地賞が奨励賞としての性格を鮮明にし(おもに40歳までの会員を対象),功労賞は学会への貢献を重視し,定年退官後の会員をおもな対象者として想定するならば,「学会賞」は40歳から60歳くらいまでの会員を対象として,受賞後も指導的立場で活躍してしていただける方が望ましい,という意見で出席者の一致を見た.また,受賞後にも生態学会のために活躍していただく人材をできるだけ多く輩出することがのぞましいことから,受賞者を毎年選出できるよう,推薦制度を検討する必要があるとの認識でも出席者は一致した.
「40歳から60歳くらいまでの会員を対象として,受賞後も指導的立場で活躍してしていただける」会員となるとその多くは,全国委員,常任委員などを務めていると思われるので,現在の推薦制度では「互選」のようになってしまうので,推薦されにくいのではないかと思われた.そこで,現在の公募制度は残しながらも,受賞経験者などを中心とする推薦委員会を設置して毎年確実に推薦者を得られるようにすることが望ましい,との見解に達した.
  会長におかれましては,選考委員会の上のような議論をご理解の上,推薦委員会について検討いただきますようお願いいたします.

選考委員会メンバー: 占部城太郎 大澤 雅彦 加藤 真 河田雅圭 齊藤 隆(委員長) 中静透 樋口広芳
大澤委員,中静委員は選考委員会に欠席したが,メイル連絡によって,選考に関わった.




第1回(2003年)日本生態学会賞
受賞者:
   巌佐 庸(九州大学大学院理学研究院・教授)
   菊沢 喜八郎(京都大学大学院農学研究科・教授)

 選考経緯および選考理由:
 2002年12月17日(火)に東京大学総合文化研究科15号館会議室において、第1回(2003年)「日本生態学会賞」受賞候補者選考委員会が開催されました。候補者として9名の方から推薦された6氏に対して、それぞれの生態学における業績、および啓蒙的役割を考量した結果、選考委員会としては次の2氏がその顕著な研究業績により生態学の深化や新たな研究展開に指導的役割を果たされたものとして、第1回(2003年度)「日本生態学会賞」受賞候補として選定いたしましたので、ここに選定理由とともにご報告いたします。
 なお、当初には菊沢喜八郎氏は選考委員会におられましたが、選考の最終段階に候補として残りましたので、日本生態学会賞細則の第5条により、選考委員会からはずれていただきました。また、今回の選考に際しましては、細則の附則にある「受賞者数は1名をうわまわってもよいものとする」にしたがって、受賞候補者を2名としました。

巌佐 庸氏
 巌佐庸氏は、数理的手法による生態学の理解を国際的に大きく発展させました。多くの実証研究者と連携して行った生物の現実性を取り込んだ新しいモデルの構築は、多大な論文成果となって公表され、数理学者のみならず現場の生態学者にも広く刺激を与えつづけています。このような厳佐氏の国際舞台での活躍は、後に続く若手の研究を大きく活性化させました。具体的な成果としては、森林の動態、サンゴ礁での生物の共存と多様性、野生生物の絶滅リスク評価、空間構造のある集団の進化、配偶者選択、ゲノム刷込みの進化、マイクロサテライト反復数の進化、魚類錐体モザイク形成過程などの諸テーマを広く発展させ、生態学分野の発展に大きく寄与してきました。さらに、日本生態学会会長として、学会の様々な改革を通じて後進をリードしています。また、生態学関連の他学会の役員も多く努め、さらには、数々の著書類において日本の生態学全体の発展にも責献してきました。

菊沢喜八郎氏
 菊沢喜八郎氏は、木本植物の葉の比較デモグラフィーを、緻密な野外観測によって完成させ、重要な種間・系統群内の分化のパターンを明らかにしました。北海道立林業試験場の勤務に向かう前の早朝、毎日緻密に枝先の挙動を観測して得た、菊沢型の葉デモグラフィーダイアグラムに基づくフェノロジーの研究大成は、その後の葉の生理生態学、形態学的な研究に大きな示唆を与えました。さらに、葉の付け替え戦略を、採餌戦略理論に基づいて提唱・展開させて、従来の個葉機能レベルでの説明の限界を明瞭に示すことに成功しました。その後、葉付け替え理論をシュート形態と自己被陰を組み込んだモデルに展開したり、植物種多様性の地理分布理論に発展させるなど、自ら発展させつつあります。「森林の生態」(共立出版)や「植物の繁殖生態学」(蒼樹書房)などの教科書執筆をとおして啓蒙活動を行い、また学会では幹事長等を歴任し、さらに、その魅力的な学会発表は、多くの若手会員の範とされてきて生態学の発展に貢献されました。


選考委員会メンバー:  粕谷英一 甲山隆司 椿宣高 松本忠夫 鷲谷いづみ

第1回 日本生態学会賞受賞候補者選考委員会委員長  松本 忠夫

2003年12月17日