日本生態学会宮地賞 選考経緯および選考理由
第15回(2011年) 日本生態学会宮地賞

受賞者:
   天野 達也(農業環境技術研究所)
   瀧本 岳(東邦大学理学部)
   三木 健(國立台湾大學海洋研究所)

選定理由

天野達也氏
 天野達也氏は、鳥類の採食行動の意思決定に関わる行動生態学的研究と、既存データを用いたマクロ生態学的、景観生態学的研究の2種類の研究に取り組んできた。鳥類の採餌行動の意思決定にかかわる研究では、個体ベースモデルを用いて、マガンは限られた情報下で、群れで採食することの損得をもとに、行動の意思決定を行なっていることを明らかにした。また、このモデルを応用し、マガンによるコムギの被害を軽減するために、効果的な具体策を提言した。一方、チュウサギを対象とした研究では、複数の時間スケールにおける採食経験に基づいて、パッチ内移動やパッチ間移動に関する意思決定を行っていることを明らかにした。既存データを用いた解析では、階層ベイズモデルや種間比較法など、この分野ではこれまでほとんど使用されてこなかった手法を用い、鳥類の個体数減少の傾向や温暖化による植物の開花時期の早期化に関する証拠を提示した。これらの成果は、Ecological Monographs, Ecology, Proceedings B, Journal of Applied Ecology, Biological Conservation など、インパクト・ファクターの高い雑誌に掲載されている。さらに、研究成果の一部は、生物多様性総合評価や、経済協力開発機構の農業環境指標として採用されるなど、社会的に重要性が認知されている。以上、天野氏は基礎科学と応用科学のバランスのとれた若手研究者であり、日本生態学会宮地賞の受賞者として相応しいと判断した。

瀧本岳氏
 瀧本岳氏は、種分化を主とした進化生物学と群集生態学を中心に、数理モデルを用いた理論研究において顕著な業績をあげている。主著は、Ecology, Evolution, American Naturalist, Theoretical Population Biology,などに、共著も、Nature, Ecology, Oecologia, Oikos, Molecular Ecologyなど国際的な専門誌に掲載され、総被引用回数は候補者のなかでも群を抜いている。瀧本氏は、まず進化生物学において、性選択による同所的種分化のメカニズムを共著者とともに理論的に提示し、このテーマの発展に大きく貢献している。また人間活動による生息環境の均質化が種分化のプロセスを逆行させる可能性(speciation reversal)をモデルと広範な分類群のレビューにより検討し、新たな生物多様性喪失の要因を提唱した。一方、群集生態学においても、生活史で異なる生態系を移動する動物群(両生類や水生昆虫など)の資源供給に応じた適応的な移動が群集動態を安定化する効果、系外資源が消費者を通じて系内資源に引き起こす間接効果が系外資源の供給と消費者の応答の時間スケールで決まること、促進的な種間相互作用がはたらく場合の局所種数−地域種数関係の検討、さらに数理モデルと自らおこなった安定同位体分析により生態系サイズ(島面積)がバハマ諸島の陸域群集の食物連鎖長を決める主要因であることを示すなど、群集研究における新鮮かつ多角的な視点を提示した。現場の視点から問題提起をおこない、現実に即した理論構築を大切にする瀧本氏の姿勢は、多くの委員の共感を集めた。また日本生態学会においても、Ecological Research 編集委員、生態学会大会企画委員を務めている。以上の理由から、瀧本氏を宮地賞候補者として推薦することに決定した。

三木健氏
 三木健氏は、生物多様性と生態系機能の関係について、特に分解者群集(主に微生物)の生態系における役割を中心に、数理モデルを用いた理論研究において顕著な業績をあげている。主著は、PNAS, Ecology Letters, Freshwater Biology, Ecological Modelling, FEMS Microbiology,などに、共著も、Oikos, Journal of Animal Ecology, Limnology and Oceanography, Microbes and Environment, Advances in Oceanography and Limnology, Theoretical Population Biology,など理論誌の枠を超えて多彩な国際的専門誌に掲載されている。これは、三木氏の年齢を考慮するときわめて高い生産性と評価できる。三木氏の主要な業績は、それまで一次生産者を中心に展開してきた生物多様性と生態系機能の関係に関する研究の流れに対して、微生物を主とした分解者群集の生物多様性の役割を理論的に評価したものである。一次生産者と分解者をセットとしてモデル化することで、微生物群集の多様性が一次生産者由来の生態系機能の変動を安定化する効果(緩衝作用)を持つことを理論的に指摘し、一般的な仮説として提出した。三木氏は、一連の業績のなかで、ゲノミクスの進展により進歩の著しい微生物生態学の成果を理論に取り込むことで、生態系における生産者と分解者の多様性の役割を総合的に評価する枠組を構築し、海洋と陸域の両生態系を視野にいれたスケールの大きなアプローチを推進した。関連する公募シンポジウムや企画集会、日本生態学会誌の特集により、微生物群集の重要性を広めることに貢献した。以上の理由から三木氏を宮地賞候補者として推薦することに決定した。

選考委員会メンバー:辻和希,津田みどり,永田 俊,井鷺 裕司,久米 篤,宮下 直(委員長),宮竹貴久,谷内茂雄,吉田丈人


第14回(2010年) 日本生態学会宮地賞

受賞者:
   土居 秀幸(Carl-von-Ossietzky University Oldenburg)
   東樹 宏和(産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門)
   細川 貴弘(産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門)

選定理由

土居秀幸氏
 土居秀幸氏は生態系における食物網・物質循環に焦点を当てた研究を中心に様々なテーマで精力的に研究活動を展開しています。主著がOikos、Oecologia、Biology Letters、Global Change Biologyに掲載されたほか30代前半にして発表論文数は50を超えています。主な研究スタイルは安定同位体分析技術を用いた研究で、最も重要とされる業績は、食物連鎖長の決定要因として長年議論されている生産的空間仮説を支持する証拠を、既存例より遥かに小規模の生態系である、ため池において安定同位体分析で示したことです。また、河川における食物網の構造の変異性のパターンを上流から河口にかけ詳細かつ網羅的に明らかにした研究、河川生態系において化学合成細菌由来の有機物の底生食物網への寄与を世界で初めて示した研究なども主要業績にあげられます。また気候変動による植物・動物フェノロジーの変化やその遺伝的多様性と関係にも研究のスコープを延ばしています。生態学会大会におけるポスター賞受賞を経験しているほか、各種研究集会の企画運営などでリーダーシップを発揮し、日本語総説執筆など啓蒙活動にも積極的です。多岐にわたる研究活動全体を総括した上での将来に向けた新たな研究の展望に期待し、委員の満場一致で氏の推薦を決めました。

東樹宏和氏
 東樹宏和氏は、生物種間の軍拡競走的共進化の研究で顕著な業績を上げています。長い口吻を持つツバキシギゾウムシとその寄主植物であるヤブツバキの関係においてゾウムシの口吻が長いほどツバキの果皮を穿孔しやすく、種子に産卵を成功する確率が高くなる一方、果皮が厚いツバキほど種子の防衛に成功しやすいことなどを明らかにし、自然界での実証は困難とされてきた「軍拡競争」の実態を明らかにしました。実証過程において、東樹氏は、口吻長-果皮の厚さの相関関係、口吻長と果皮厚の生態学的機能、相互関係の地域変異、選択圧の地域変異など多角的に調査・分析し、信頼性の高い実証結果を提示した点は高く評価できます。また、同氏は「軍拡競争」はこれまで考えられていたよりも短時間で起きること、数キロメートルという小さな空間スケールでも起こりうることなどを示し、この分野の研究を国際的にリードする業績を上げ続けています。さらに、「共進化はなぜ始まるのか?」などの課題に理論的に取り組みつつ、実証研究を発展させるなどバランスの良い研究アプローチは今後のより一層の活躍を予感させます。氏の研究スタイルは量より質であり、論文数は応募者の中では6と最も少ないもののそれらはすべてがThe American Naturalist, Evolution, Biology Letters, Molecular Ecology, Journal of Evolutionary Biology など著名な国際的学術雑誌に発表されたもので、被引用回数は計56回に上っています。さらに主要な外国語教科書にも論文が引用されるなど、研究成果はすでに「古典」の域に達している感さえあります。東樹氏はまた、日本生態学会誌に総説を2本発表し、大会におけるシンポジウム・自由集会(企画集会)でも演者を7回務め、ポスター発表では 最優秀賞を2回受賞しているなど日本生態学会においても積極的に活動しています。これらの業績は宮地賞受賞に値するとの委員の満場一致の認識で氏を推薦することにしました。

細川貴弘氏
 細川貴弘氏はカメムシと体内共生微生物の相互作用系に関する進化生態学的研究に取り組んでいます。主要な成果としては、マルカメムシの腸内共生細菌において宿主と共種分化、ゲノム縮小、加速分子進化が生じている事実を動物の腸内共生細菌では初めて明らかにした研究、マルカメムシ類2種の間で共生細菌を入れ替える実験を行い細菌が宿主の寄主植物適応および害虫化に関与することを明らかにした研究、通常は昆虫寄生細菌であるWolbachiaが吸血性のトコジラミでは栄養を供給する相利共生細菌に転じていることを発見した研究などがあります。これらの成果は、PLoS Biology, Proceedings of the Royal Society of London B, Biology Letters, Molecular Ecologyなど著名国際誌に多数掲載され海外でも高い評価を得、総引用件数は96回にも達しています。生態学会大会でもポスター賞を複数回受賞しており、各種研究集会の企画をするなど学会の運営や啓蒙活動にも積極的です。若手の羨望の的になるこれら業績は高く評価されながらも、実は過去に本賞の受賞を逸した経緯がありました。氏の研究スタイルは生態学的に興味深い体内共生に関する新事実と現象の裏にある至近的メカニズムをミクロ生物学分野の最新分析テクニックを駆使し次々と明らかにしていくというものですが、発見事実に対する生態学的位置づけが十分行われていないとの疑問が委員から示されたのが理由でした。今回の再応募では推薦者によりこれも生態学者の近未来像のひとつとしての位置づけが行われました。委員会では位置づけは正当であると判断され、細川氏を宮地賞候補者として推薦するのに相応しい人物との一致した結論が下されました。

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆,杉本敦子,辻和希(委員長),津田みどり,永田 俊,井鷺 裕司,久米 篤,宮下 直


第13回(2009年) 日本生態学会宮地賞

受賞者:
  岸田 治(京都大学生態学研究センター,学術振興会特別研究員)
  西川 潮(国立環境研究所環境リスク研究センター,研究員)
  森 章(横浜国立大学大学院環境情報研究院,特任教員(助教))

選定理由

岸田治氏
 岸田氏は,エゾアカガエル幼生とエゾサンショウオ幼生をモデルとし,捕食者−被食者系での形態的な可塑性(主に誘導防御戦略)について,進化生態学的な研究を進めてきた.飼育実験によって両生類幼生に見られる形態的な可塑性の存在を実証し,その遺伝的な基盤の存在を示し,また,適応的意義と生態学的な機能を検証するなどにオリジナリティに富む研究業績を上げてきた.さらに最近は,分子手法をもちいた研究にも取り組むなど高い研究意欲を示している.実証研究を主体しながらも理論背景について十分に検討されており,研究の質は非常に高く評価できる.これらの進化生態学的な研究成果は, Ecology, Journal of Animal Ecology, Evolutionary Ecology Research, Oecologia, PLoS ONE, Ecological Research など国際的に著名な学術学会誌に発表され,英語論文は8報の被引用回数は延べ40回に達している(Web of Science 調べ).
 岸田氏の両生類幼生に見られる形態的可塑性に関する研究の達成度は高く,水族館職員として身につけた技術を駆使した飼育実験のオリジナリティも高く評価できる.よって,選考委員会は,同氏を第13回(2009年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定した.

西川潮氏
 西川氏は,ザリガニの食物網における役割,エコシステム・エンジニアとしての役割を野外実験等によって明らかにし,ザリガニが河川生態系におけるキーストーン種であることを立証した.在来種間の関係は相互に強く結びついているものの関係が複雑なためキーストーン種の判別は難しいとされてきたが,西川氏の一連の研究は,在来キーストーン種の役割を明瞭に示したもので,キーストーン種研究を大きく前進させたものと評価できる.また,西川氏はこのザリガニが河川生態系におけるキーストーン種であることを基盤に在来ザリガニと侵入種の相互関係,保全生態学においても活発な研究活動を行っている.主要な研究業績は Ecology, Oecologia, Oikos, Ecological Research など著名な学術雑誌に発表され,英語論文は15報にのぼる.主要論文は著名な生態学の教科書に引用されるなど,被引用回数は118回にのぼっている(Web of Science 調べ).
 西川氏はザリガニが河川生態系におけるキーストーン種であることを立証した研究の達成度は高く,被引用回数は40回にも達する論文があるなど研究のインパクトも高く評価できる.よって,選考委員会は,同氏を第13回(2009年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定した.

森章氏
 森氏は,主に亜高山帯林の森林動態についての研究をすすめてきた.亜高山帯林には雪害による枝葉の枯損から,風倒,大規模な山火事まで,様々な空間スケールでおこる自然撹乱がある.森氏は,樹木の空間分布や個体群構造,枝の伸長・生死のパターン,植生分布などを野外観測することで,これらの自然撹乱およびそれが引き起こす環境変化が,森林群集の動態や樹木の生活様式にどのように影響するのかを明らかにしてきた.研究成果は, Forest Ecology and Management, Tree Physiology, Ecoscience などの国際誌に多数発表され,英語論文は26報,主要論文の被引用回数は93回に達している(Web of Science 調べ).
 幅広い空間スケールでおこる撹乱体制とその影響を,個体,林分,景観レベルという体系で整理した森氏の一連の研究実績は手堅く,地球環境変動等による高標高,高緯度地域の森林生態系の変化を包括的に明らかにする上でも今後重要になると考える.よって,選考委員会は,同氏を第13回(2009年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定した.

選考委員会メンバー:河田雅圭,齊藤隆(委員長),柴田銃江,杉本敦子,竹中明夫,辻和希,津田みどり,永田俊,松田裕之


第12回(2008年) 日本生態学会宮地賞

受賞者:
   石井博(東京大学大学院農学生命研究科)
   鏡味麻衣子(東邦大学理学部生命圏環境科学科)
   沓掛展之(総合研究大学院大学先導科学研究科)
   森田健太郎(水産総合研究センター北海道地区水産研究所)

石井博氏
 石井氏は、虫媒花植物と訪花昆虫の相互作用を研究し、送粉生態学の分野で、花の寿命、花序内の花の性比、花被の大きさ、訪花昆虫行動にかんして、野外実験や室内実験により多角的に研究し、それを一般理論として捉えようとする意欲的な研究を続けている。特に、個々の訪花昆虫が同じ種類の花を連続で訪れるという「定花性行動」を解明するため、昆虫の視覚や記憶メカニズムの制約という至近要因と究極要因の関係、昆虫の適応戦略が植物の繁殖に与える作用の解明という、訪花昆虫の動植物相互作用という研究分野を超えた課題に意欲的に取り組んでいる。彼の研究成果はFunctional Ecology、American Journal of Botany, Evolutionary Ecology, Behavioral Ecology and Sociobiologyなどの一流の学術誌に多大の貢献をなし、9報で70回の被引用件数を数え、関連研究者に極めて高く評価されている。毎年コンスタントに論文を発表し、東北大で学位取得後、北大、カルガリー大学、東京大学と研究拠点を移動しながら、確実に業績を残している理論と野外研究の両面にわたる研究実績は高く評価される。
 以上の諸点から、宮路賞候補に相応しい候補者として推薦する。

鏡味麻衣子氏
 鏡味氏は富栄養化に伴う湖沼生態系の食物網の変化の研究の一環として、ツボカビが大型植物プランクトンに寄生し、ツボカビを動物プランクトンが捕食することによって食物連鎖に組み込まれるという経路を発見し、Mycoloopと名付けた。これは、これまでの物質循環のスキームに新たな物質の流れの経路を加えるものであり,内外の報道でも注目されたという。実験と野外調査をともに担ってきた点を含めて、その独創性は高く評価できる。論文はProc.Royal Society London B, Limnology and Oceangraphyなどの一流誌に掲載されており、この概念の定量化のために蛍光染色などの細胞生理的手法など多様な技術を駆使した研究姿勢を含めて、その独創性と将来性を評価する。
 以上の諸点から、宮路賞候補に相応しい候補者として推薦する。

沓掛展之氏
 沓掛氏は霊長類・哺乳類の行動生態学者として優れた研究成果をあげ、宮地賞の歴史に新たな研究分野を加えることができた。霊長類の繁殖行動における対立解決行動の比較生態学研究では、霊長目31種について同種雄間の群れサイズと繁殖成功の偏りと群れサイズの関係を明らかにした世界で初めての成果をあげた。PrimatesやAmer. J. Primatologyなどの霊長類学の一流誌に掲載されており、Primatesに出した論文は同誌の中で格段に高い被引用件数を勝ち得ており、通算して19報で50件近い引用を得ている。ミーアキャットを対象とした協同繁殖における血縁個体間の繁殖の偏りは、さまざまな敵対行動の産物であることを明らかにし、哺乳類の繁殖行動学の分野に新たな知見をもたらした。また、この1年間の業績の進展も目覚ましいものがある。
 以上の諸点から、宮路賞候補に相応しい候補者として推薦する。

森田健太郎氏
 戦後、わが国の河川には土砂管理のための砂防ダムが多数建設されてきた。砂防堰堤は河川を分断化するため、そこに生息する魚類に多大な影響を及ぼしていると考えられる。森田健太郎氏は、北海道の河川において優占種であるイワナなどを対象にして、砂防堰堤建設による生態リスクを調べた。砂防堰堤の建設後、イワナの生息密度は低下するため、成長増大に伴う早熟化が進行し、回遊性が喪失することが明らかとなった。移動性や成長率については、遺伝的な変化も確認された。砂防堰堤は群集構造にも影響を及ぼすため、イワナの生態的地位が変化し、それに適応して食性や顎形態が変化することも示唆された。また、個体群動態のコンピュータシミュレーションによって、砂防堰堤建設の30年後から絶滅リスクが増大することを明らかにした。さらに、野外における生息状況の調査からも、生息場所が狭く、砂防堰堤の設置年代が古い場所ほどイワナの生息確率が低くなることを解明した。野外研究と理論研究をともにこなし、進化生態学の基礎研究から保全に関する応用研究までをEvolution、Conservation Biology、Journal of Applied Ecology、Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences、Ecological Modellingなどの一流の学会誌に次々に出し続け、彼の主要な論文20報の被引用回数は延べ170回以上に達する。サケ科魚類の保全の重要性を科学的にアピールし続けた彼の研究活動は高く評価できる。
 以上の諸点から、宮路賞候補に相応しい候補者として推薦する。

<選考経緯>

 今回は7名の自薦・他薦の応募者に恵まれた。全員が優れた業績をあげており、過去の受賞者と比べても、絶対評価としては全員が受賞対象といえるのではないかという意見が多かった。その意味では、本賞は本学会において優れた若手研究者を顕彰する登竜門として、完全に定着したと評価できるだろう。「原則として3名」を選ぶという趣旨を踏まえ、候補者を3名に絞る努力を重ねたが,上記4名はいずれも候補者の条件を十分に備えていると評価され,4名とも候補者とすべきであるとの意見で一致した.
 今回候補者に残らなかった応募者も、別の年に応募すれば十分候補者に残ったかもしれない。また、今後さらに業績を積み重ね、最近出した論文が被引用度指数を増した未来を評価すれば、十分に候補者に残ると期待できる応募者もいる。本委員会としては4名に絞らねばならなかったことを残念に思う。
 今回の候補者も、以前にも応募して落選した経験を持っている。今回候補者に残らなかった応募者も、大変優れた成果をあげている。さらに成果を重ねて、繰り返し応募されることを期待する。
 選考過程において、選考委員にきわめて多忙な委員が多く、論文を精査して評価することに限界があった。外部レビューを行えば、この問題は解決するものと思われる。

選考委員:松田裕之(委員長)、粕谷英一、河田雅圭、工藤岳、齊藤隆、柴田銃江、杉本敦子、竹中明夫、東正剛



第11回(2007年) 日本生態学会宮地賞
受賞者:
  大園享司(京都大学大学院農学研究科)
  佐竹暁子(Dept. of Ecology and Evolutionary Biology, Princeton University)

選考理由

大園享司氏
 落葉落枝などの有機物の分解は、森林生態系の炭素や養分循環と深く結びついており、生態学における非常に重要な研究分野であるにも拘らず、いまだ不明な部分が多い。大園享司氏は、有機物分解における物質動態の視点から、温帯林における落葉の分解過程と分解に関わる菌類の生理生態的な試験を、多種多様な樹種と菌類について約10年間地道に継続してきた。それによって、様々な落葉の分解過程をリグニンや窒素などの構成比から統一的に把握した一方で、分解にともなう菌類群の遷移と落葉構成成分の変化の相互関係を実証的に示した。そして、落葉分解が進むにつれて有機物構成成分比(リグニン/セルロース比やリグニン/窒素比など)が異なる樹種間で収斂するメカニズムを、分解の各段階に関与する菌類群集の資源利用様式の違いによって説明した。成果は、Ecological Research誌をはじめ、Canadian Journal of Botany, Mycoscience誌などなどの学術誌に45編に及ぶ原著論文として掲載されている。複雑な有機物分解のメカニズムを丁寧に解きほぐしたこれら一連の研究は、森林生態系のしくみを理解する上で大きな前進と言える。
 宮地賞選考委員会は、生態系における物質循環の中で重要であるにもかかわらず研究が遅れている分解系の問題と取り組む大園氏の業績を高く評価し、同氏を宮地賞受賞候補者として選定した。

佐竹暁子氏
 樹木の資源収支動態をモデル化してシュミレーションを行うと、カオス的・非同調的応答が発生するが、実際の森林では樹木間の同調性が広い範囲でみられる。佐竹暁子氏は、この広域同調の原因の1つとして送粉系に着目し、樹木の繁殖が花粉不足を通じて空間的に同調することを理論的に示した。このカオス結合系モデルは、ノルウェーの長期モニタリングデータを用いた実証研究や捕食者の影響を考慮した研究へと発展し、その研究成果はOikos、American Naturalist、Ecology、Journal of Ecology、Journal of Theoretical Biology、Ecological Researchなどに掲載されている。それらの論文は内外の多くの野外及び理論研究者に引用され、それを通じて佐竹氏の研究はさらに発展し、今や森林動態論における重要なモデルの1つとなっている。このように、佐竹氏の一連の研究は理論と野外研究の相互作用が成功をおさめた典型的なモデルケースとしても高く評価できる。
 宮地賞選考委員会は、佐竹暁子氏によるカオス結合系モデルの開発とその応用的成果を高く評価し、同氏を宮地賞受賞候補者として選定した。

選考委員:東正剛(委員長)、粕谷英一、工藤岳、柴田銃江、竹中明夫、松田裕之




第10回(2006年) 日本生態学会宮地賞
受賞者:
  相場慎一郎(鹿児島大学理学部地球環境科学科)
  加藤元海(愛媛大学沿岸環境科学研究センター)

選考理由

相場慎一郎氏
 相場氏は,屋久島の照葉樹林やボルネオ島の熱帯雨林を対象として,10年以上にわたる継続的研究をおこなってきた.樹木の形態やアロメトリーと生活史特性やデモグラフィーとを関連づけ,樹木の多様性維持に関するすぐれた考察をおこなった.ボルネオ島では,栄養塩レベルの異なる基質と標高の違いを利用して,個体群の動態を栄養循環や温度条件の変化と組み合わせて解析している.貧栄養の基質では,樹木の多様性や生産力が低くなると同時に,森林の垂直分布が圧縮された形になる.森林の生産力は,樹木の成長速度と関係があるものの,樹木の死亡率や新規加入速度との関係はうすい.しかし,樹木の多様性はむしろ,個体群の回転速度と相関をもつことを実証的データで示した.こうした知見は地球温暖化などの予測にも重要な示唆を与えている.
 これらの研究成果は,Journal of Ecology,Plant Ecology, Ecological Researchなどの国際誌21編に発表されている.  相場氏は,個人で実施がむずかしい大規模な野外研究を共同研究によっておこなっているが,この共同研究の中でも主体的に研究をおこない,積極的に成果を公表してきたと評価できる.また,基礎的な研究を長期にわたり継続して重要な成果を得たことも評価したい.
 以上のように,相場氏は,長期にわたって森林生態系における物質循環と樹木の個体群動態にかかわる研究を実施し,すぐれた成果を得ていることから,宮地賞の候補として最適であると評価し,ここに推薦する次第である.

加藤元海氏
 加藤氏は,人為的撹乱に対する生態系の反応について研究を進めており,理論と野外研究を融合した研究を精力的に展開している.とくに,湖沼生態系の富栄養化にともなう水質の変化に注目した研究が興味深い.湖沼では,人間生活の結果として栄養塩負荷が増加し,水の澄んだ貧栄養状態から,突然アオコが大発生する濁った状態に富栄養化することがある.この不連続的な富栄養化が起こると,水質の回復はしばしば非常に困難になるため,不連続的な富栄養化についての予測は湖沼生態系を保全管理するうえで重要である.加藤氏は,シミュレーションに用いるパラメータとして野外観測や実験にもとづく実測値を用い,適用範囲が広く,予測精度の高い簡潔明瞭な湖沼生態系モデルを開発した.その結果,富栄養化が起こる可能性は湖沼の水深と密接な関連があり,とくに中程度の水深をもつ湖沼で不可逆的な富栄養化が起きやすく,いったん富栄養化が進むと水質の回復がもっとも困難になることを明らかにした.
 これらの研究は,基礎研究として質が高いだけでなく,具体的な保全を指向した応用研究として価値の高いものとなっている.研究の成果は,Ecology, Proceedings of the Royal Society of London, Oikos, Theoretical Population Biology, Ecological Researchなどに12編の論文として掲載されている.
 以上のように,加藤氏は,個々の湖沼において実際の保全管理に直接適用できる生態モデルの構築にすぐれた業績をあげており,宮地賞の候補として最適であると評価し,ここに推薦する次第である.


選考経過
 今回は6名の方から応募あるいは推薦があった.応募者あるいは被推薦者の年齢幅は30歳から36歳で,前回(29歳から32歳)に比べてやや広くなった.6名のうち2名は助教授の職についていたが(35歳と36歳),ほかの3名は博士研究員(COE研究員をふくむ.30歳,32歳,36歳),残りの1名は不明(30歳)だった.
 6名のうち,他薦は2名,自薦は4名だった.研究対象は,森林生態系を扱うものが2件,水域生態系をあつかうものが2件,特定植物種を対象としたものが2件だった.自薦の1名については,応募書類の中で,受賞対象となる研究内容の具体的な記述がほとんどなく,論文目録も別刷もつけられてなかった.インターネットなどを通じて調べた結果,おそらく論文は存在しないものと思われた.審査委員会の段階では調査不能と判断され,今後このような応募があった場合は,事務局段階で応募者に直接確認するのが望ましいだろうとの判断がなされた.
 選考は,候補者の研究業績を1名ずつ吟味し,発表されている論文の質と量,研究の独自性や発展性などについて検討した.候補者を絞るにあたって,分野にかたよりが生じないように配慮すべきという意見がある一方,その点は考慮する必要がなく,あくまでも研究業績の内容を問うべきという意見があった.また,学位取得後まだ常勤の職についていない研究者を優先した方がよいのでは,という意見もあった.これらの点について深い議論をすることにはならなかったが,研究業績を中心に検討した結果,2名に絞られた候補者の研究対象は大きく異なっていた.また,2名のうち1名は定職についており,もう1名は博士研究員だった.
 候補者を2名に絞る過程に大きな困難はなかった.候補となった2名の研究は,研究内容の独自性や汎用性,研究の取り組みへの主体性などの点でほかの候補者の研究よりも明らかにすぐれていた.研究の独自性とは,視点や方法の斬新さであり,汎用性とは,研究内容が特定の狭い分野に限られず,広く適用可能であることを意味している.取り組みへの主体性とは,たとえば共同研究の場合,当事者の積極的な役割が明確であることである.2名のうち1名(相場慎一郎)は,森林生態系における物質循環と樹木の個体群動態にかかわるすぐれた長期研究を展開しており,もう一名(加藤元海)は,湖沼生態系で実際の保全管理に直接適用できる生態モデルの構築にすぐれた業績をあげている.
 近年,若手研究者の質の向上はめざましいものがある.研究成果が海外の一流誌に掲載されることは珍しいことではまったくない.今回,候補に選定されなかった研究者の多くもその例にもれず,研究の質が低いわけでは決してない.今後,研鑽を積む中で,また後日,宮地賞にぜひ応募してほしいと願っている.
 一方,大学院重点化にともない,最近,博士研究員を中心に若手研究者の数は急増している.そうした中で就職をめぐる競争は,生態学研究者の間だけでなく,異なる生物学諸分野の研究者との間でも熾烈をきわめている.宮地賞が生態学の若手研究者を励まし,よりよい研究をおこなうことを促進し,結果として職を得ることに貢献すれば幸いである.そのためには,今後も賞の選考を厳正におこない,賞の存在価値を高めていく必要があると思われる.

選考委員会委員(五十音順):占部城太郎,粕谷英一,工藤 岳,中静 透,東 正剛,樋口広芳(委員長)




第9回(2005年) 日本生態学会宮地賞
受賞者:
   吉田丈人(Cornell University, USA)
   深見 理(Landcare Research, New Zealand)

選考理由

吉田丈人氏
 従来,進化と生態学的現象は時間的に異なるプロセスだと考えられていたが,近年,生態学的な時間スケールにおいても生活史形質などに迅速な進化過程が観察されるようになった.このため,進化や生態学的現象を理解するためには,両方のプロセスを考慮する必要があると認識されるようになったが,実際の研究において両過程の関係を明確に示した例は少ない.吉田氏は,藻類(餌)とワムシ(捕食者)からなる実験個体群において,藻類の迅速な進化が個体群動態の重要な駆動要因となること明らかにした.
 具体的には,一連の研究で,藻類には異なる遺伝型があり,捕食に対する抵抗性と栄養塩を巡る競争能力にトレードオフがあること発見し,個体数変動を記述する数理モデルを使って,迅速な進化過程がないときには個体数変動の周期は短く,進化過程があると周期が長くなることを示し,藻類とワムシからなる実験個体群において,この理論的な予測を実証した.この主要業績は,Nature, Proceeding of the Royal Society of London (B) に掲載されている(受理を含む).
また,吉田氏は野外個体群の動態,分布などの研究にも取り組み,その業績は,Ecological Researchをはじめ Ecology, Oecologia, Ecology Letters などに合計19本の英語論文がある.
 以上のように,吉田氏は,32歳の若さであるのかかわらず,目を見張るような活躍振りであり,宮地賞の候補として最適であると評価し,ここに推薦する次第である.

深見 理氏
 深見氏は,群集の形成に関して重要だとされてきた生態系の生産性,生息地の大きさ,種供給源の大きさにおいて歴史性(移入の順序)の役割を詳細に分析し,種多様性の決定要因としての群集形成過程(歴史性)の重要性を明らかにした.
 具体的には,淡水微生物を用いた実験により,移入順序が変わることによって,生態系の生産性と種多様性の関係が正の相関,単峰型,U字型,無関係などに変わりうることを示した.また,群集形成の歴史と生息地の大きさの関連では,生息地が小さいときほど歴史性が種多様性の決定に重要であること,群集形成の歴史は種供給源の大きさと相互に作用しあい複数の空間スケールで種多様性に影響すること,を室内実験,数理解析などを駆使して明らかにした.これらの主要業績は,群集生態学の基本概念の発展に大きく寄与したものとして,Nature, Ecology, Population Ecology に掲載されている(受理を含む).
 また,深見氏は,群集構造の類似性が種多様性と生態系機能の関係に果たす役割,撹乱の起きる順序が群集構造に及ぼす影響など群集生態学を中心にした研究に取り組み,その業績(合計11本)が, Oikos, Trends in Ecology and Evolution, Advances in Ecological Researchなどに掲載されている.
 以上のように,深見氏は,32歳の若さであるのかかわらず,目を見張るような活躍振りであり,宮地賞の候補として最適であると評価し,ここに推薦する次第である.

選考経過
 今回は5名の方から応募があった.応募者の年齢幅は29歳から32歳で,前回(29歳から43歳)に比べて若年層にシフトし,年齢幅が狭くなった.若手への奨励賞である「宮地賞」として,今回の応募者の受賞資格年齢について論議の余地はなかったが,応募者の年齢幅が狭すぎる印象があり,より広い年齢層から(常識的な線として40歳まで)の応募が望ましいとの意見で出席委員が一致した.
 選考は,各候補者の研究業績を1名ずつ吟味し,これまでの受賞者に照らして,水準を超えているかどうかを議論した.その結果,5名のうち3名が受賞水準を超える研究業績をあげていると評価され,この3名から2名を選ぶための討議に移った.
 最終討議では,主要業績のオリジナリティ,独自性(指導教員の影響力の大きさ),研究課題の生態学における重要性などについて議論された.その結果,これらの点において,選出した2名の候補者がもう一人の候補者より優れていると評価された.
 選出した2名の候補者にはいくつかの共通点があった.それは,(1)主要業績では,生態学の主要課題にかかわる理論を主体的に検討し,淡水微生物を使った室内実験で検証するという研究スタイルを持つこと,(2)その研究成果が Nature誌に掲載されたこと,(3)ポスドクとして海外で研究していることである.選考委員会は,若手会員がこのように質の高い業績をあげ,国際的に高く評価されていることを喜ぶ一方で,nature誌あるいはそれに相当するような学術雑誌に研究業績が掲載されることが受賞に必須であるかのような印象を与え,候補者の自薦,他薦行動に対するネガティヴな影響を懸念している.
 選考委員会としては,多様な研究課題,研究スタイルを奨励することが日本の生態学の発展に欠かせないと考えている.特に一見効率が悪いとおもわれる野外調査を主体とする研究において努力を重ねている会員を奨励したい.しかし,前回の受賞者と今回の候補者は,室内実験と理論を主要業績とする30歳前後の研究者となり,宮地賞受賞者の多様性を狭める傾向につながりかねない.そこで,より多様な研究者を奨励するように宮地賞を性格づける努力を続けることを次年度以降の選考委員会にお願いしたい.

選考委員会メンバー: 占部城太郎、大澤雅彦、加藤真、河田雅圭、齊藤隆(委員長)、中静透、樋口広芳

大澤委員,中静委員は選考委員会に欠席したが,メイル連絡によって,選考に関わった.




第8回(2004年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   近藤倫生(京都大学生態学研究センター)
   松浦健二(Department of Organismic & Evolutionary Biology, Harvard University)

受賞理由
 宮地賞選考委員会を、2003年10月6日東京で開催しました。甲山、椿、河田、斉藤、加藤、菊沢の6委員全員が出席し、次の2名を宮地賞受賞候補者に選考いたしました。2名の氏名および選考理由を以下に報告します。

近藤倫生氏
生物多様性と系の安定性、生産力と攪乱等との関係について、分かりやすいモデルを用いて解析し、長年の懸案を解決する独創的な仮説を提唱したこと。
生物多様性と安定性の関係に関しては、多くの野外研究者の直感や経験的事実は、複雑性が増すほど安定であることを支持してきたが、理論では食物網が複雑になるほど不安定になることが予測され、「多様性のパラドックス」とされてきた。近藤氏はこの問題に対して、生物が利用可能な資源の量に応じて、「適応的に資源の利用方法を切り替える」という行動をとるならば、食物網構造が複雑になるほど食物網の柔軟性が増大するために、環境変動をよりよく緩衝し、結果として食物網はより安定になることを理論的に突き止めた。これは従来のパラドックスを見事に解決したものと評価することができる。この研究成果はScience誌に報告され、最近の業績であるにもかかわらず国際会議への招待など既に高い評価を受けつつある。また生物多様性と攪乱、生産力との関係を解析した研究においては、従来からよく知られている中規模攪乱仮説をも包含したより包括的な理論的解析がなされていて、その後の実証研究にも大きな刺激を与えており、これまた高く評価できる。以上のような近藤氏の研究は、Science, American Naturalist, Journal of Theoretical Biologyなどの一流国際雑誌に既に11報掲載されており、30歳の若手としては目を見張るような活躍振りである。以上のような理由により、若手を奨励する宮地賞の候補として最適であると評価しここに推薦する次第である。

松浦健二氏
シロアリを対象にして、微生物を介した個体認識、菌核菌との関係などを簡単ではあるが説得力に富む巧妙な実験で証明するなど独創性の高い研究を展開しつつあること。
松浦氏はヤマトシロアリの卵塊中に、高い頻度で球状の物体が存在することを発見し、これがシロアリ卵に擬態して巣内に共生する新種の菌核菌であることを明らかにした。これは菌類の擬態とその適応的意義をしめした始めての研究である。またビーズ玉を用いた巧妙な実験によりシロアリの化学的、物理的な卵認識メカニズムを明らかにするとともに、それを利用したシロアリ防除手法なども考案している。従来明確な答えのなかったシロアリの巣仲間認識メカニズムについて、松浦氏はコロニー個体間の頻繁な栄養交換により、腸内共生バクテリアがコロニー個体間では酷似しコロニー間では異なることを示し、また糞を巣材として利用することからバクテリアの代謝産物が体表に付着することを示し、腸内バクテリア組成が同巣認識に影響することをはじめて明らかにした。このほか、単為生殖によるコロニー創設の発見、共同雌間の関係解明、単為生殖能力と性配分の関係など、松浦氏の研究は新しい発見とその理論的発展など独創性の高い研究が多い。以上のような研究はEcological Researchをはじめ、Oikos, Animal Behavior, Journal of Theoretical Biologyなど一流の国際誌に9報掲載されており、しかも全てが松浦氏を筆頭著者とするものであり、29歳の若手研究者としては申し分のない研究成果である。以上の理由から宮地賞の候補として最適であると評価しここに推薦する次第である。

選考委員会: 菊沢喜八郎(委員長)、甲山隆司、椿宜高、加藤真、河田雅圭、齋藤隆

 

第8回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  菊沢喜八郎
2003年10月6日




第7回(2003年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   工藤慎一(鳴門教育大学学校教育学部・助教授)
   三浦 徹(東京大学大学院総合文化研究科・助手)

 選考経緯および選考理由
 2002年10月31日(木)に東京大学教養学部15号館会議室において、選考委員全員出席のもとに第7回(2003年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補者選考委員会が開催されました。応募者(被推薦者を含む)9氏のそれぞれの生態学における業績を考量した結果、選考委員会としては次の2氏を第7回(2003年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定いたしましたので、選定理由とともにご報告いたします。

工藤慎一氏
   ツノカメムシ類、ツチカメムシ類、ハムシ類などの昆虫における親の投資、特に産子後の保護行動の研究において、それを生活史進化全体の観点からとらえて研究した。そして、雌親による子の保護の進化要因における「時間的に限られた餌資源」仮説、クラッチ内での不平等な親の投資についての「位置効果」仮説、同じ餌を利用する複数捕食者間での「襲い分け」仮説などといったいくつもの興味深い仮説の検証を行った。ヒラタヤスデ類は雄親が卵の保護を行うという興味深いものであるが、その行動の適応度損益と配偶者選択との関係についても研究している。これらの研究の際に、行動生態学のみならず、量的遺伝学、種間比較法さらには行動生理学的手法を組み合わせて大きな成果をあげている。現在はコーネル大学の研究グループとの共同で世界各地のツノカメムシ類のサンプルを用いた大規模な分子系統を構築中であるが、それが完成すると工藤氏の生活史研究がいっそうの重みを持つことになろう。なお、工藤氏は学会活動においても、自身がめざしてきたようなアプローチを積極的に広め活性化をはかることに大きく貢献している。

三浦 徹氏
 社会性昆虫のシロアリ類は熱帯雨林において大きく繁栄しているが、その中で大規模かつ整然とした採餌行進をするコウグンシロアリ類を対象にしてワーカー間の分業についてフィールド研究をした。そして、この複雑な集団行動は発育齢および性に応じて諸タスクが割りふって遂行されていることを詳細な観察により発見した。一方、このシロアリに近縁のテングシロアリ類において、兵隊カーストが小ワーカーカーストからの脱皮変態によって出現することを発見し、シロアリのカースト分化の研究に新たな視点を投入した。さらに、オオシロアリを対象にしてその兵隊カースト分化の際に幼若ホルモンが関与する遺伝子発現の研究を世界に先駆けて行い、その成果は個体相互関係の重要性を明確に指摘したもので、国際的に大きく注目された。最近では、複雑な生活史をもち集団生活を行い真社会性の種もみられるアブラムシ類、そしてシロアリと同様にすべてが真社会性のアリ類における社会統合メカニズムを分子生物学の手法で研究しいくつもの成果をあげつつあり、分子社会生態学の確立をめざしている。

コメント
 宮地賞の授賞は毎年2名以内と決められています(細則第1条)。今回は9名もの応募者あるいは被推薦者がありかつてない激戦でした。また、それらの方々の研究分野および年齢は広いもので、学会誌や大会での発表にも熱心に取り組まれていた方がほとんどでしたので、選考委員会としては2名にしぼるのがたいへんでした。このことは、生態学会における宮地賞授賞の意義がますます確たるものになったものと受け止めております。
 今回の選にもれた応募者についても、選考委員会としてはほとんどの方々が受賞に肉薄する業績を持っておられると判断しております。そこで、今回あるいは以前の選考において選にもれた候補者の方々には、さらに業績を重ねて宮地賞へ再応募されることを強く奨めたいと思います。  また、選考委員会は、現在の生態学会には宮地賞の授賞対象となる若手がさらに多数存在するという認識をもっています。そして、生物科学における生態学の地位をより確固としたものにしていくために若手受賞者をより多く輩出することが必須であると考えています。全国委員の皆様には、次回以降の募集に際しましても、若手に対して積極的な応募を促していただきたく、また候補者を推薦してくださいますようお願い申し上げます。

選考委員会: 粕谷英一、菊澤喜八郎、甲山隆司、椿宜高、松本忠夫(委員長)、鷲谷いづみ

 

第7回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  松本忠夫
2002年10月31日




第6回(2002年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   宮竹貴久(岡山大学農学部・助教授)
   鎌田直人(金沢大学大学院研究科・助教授)

 選考経緯および選考理由
 2001年10月13日(土)に東京大学農学部1号館会議室において、選考委員全員出席のもとに第6回(2002年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補者選考委員会が開催されました。応募者4氏のそれぞれの生態学における業績を考量した結果、選考委員会としては次の2氏を第6回(2002年度)「日本生態学会宮地賞」受賞候補として選定いたしましたので選定理由とともにご報告いたします。

宮竹貴久氏 
 分断選択を受けたウリミバエ集団間の生殖隔離機構が時計遺伝子の多面発現による交尾開始時刻のずれによるものであることを分子遺伝学的、生態学的手法を組み合わせて明らかにした研究は、種分化には欠かせない生殖隔離が選択の結果として生じうること、それが遺伝子の多面発現を介したものであることを明瞭に具体的に示した研究として生態学の発展に大きく貢献するものである。その研究については国際的にも高い評価を受けており、近年、種分化に関する書籍や総説に頻繁に引用されている。また、害虫駆除事業という実践的な現場での仕事を生態学の新たな展開にもつながる基礎科学的な業績の契機とした点も高く評価される。

鎌田直人氏
 ブナアオシャチホコガはおよそ11年周期で大発生し、ブナの葉を旺盛に摂食してブナ林に大きな被害を与える害虫である。そのブナアオシャチホコの個体群動態を15年以上にわたって追跡し、その変動要因を植物の防御機構、捕食者や病害生物との生物間相互作用などの点から整理した鎌田氏の研究は、日本の生態学における個体群長期変動研究の先駆けとして宮地賞受賞に値するものである。今後さらに研究を発展させ、これまでの研究で抽出された変動要因が実際にどのように係わりあいながら11年の周期をつくりだすのかをより定量的に明らかにし、個体群長期変動研究分野を引き続きリードしていくことを期待したい。

 宮地賞の受賞は毎年2名以内と決められています(細則第1条)。今回選にもれた2名の応募者についても、選考委員会としては、今後さらに業績を重ねることで宮地賞の受賞に値するものと考えています。今回およびこれまでの選考において選にもれた候補者にも、次回以降の宮地賞への再度の応募・推薦を強く奨めたいと思います。また、選考委員会は、現在の生態学会には宮地賞の受賞の対象となる若手が多数存在するにもかかわらず、応募されていないという認識をもっています。一方で、生物科学における生態学の地位をより確固としたものにしていくためには若手の受賞者をより多く輩出することが必須であると考えています。全国委員の皆様には、次回以降の募集に際して若手に積極的に応募を促すだけでなく、候補者をご推薦をくださいますようお願い申し上げます。

選考委員  巖佐庸 粕谷英一 中静透 松田裕之 松本忠夫 鷲谷いづみ(委員長)

第6回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  鷲谷 いづみ
2002年3月28日


第5回(2001年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   田中嘉成(横浜国立大学環境科学センター・客員助教授)
   酒井章子(Smithonian Research Institute,日本学術振興会海外特別研究員)

 選考経緯および選考理由
 締め切りの時点で4名の候補者がおられました.うち3名は自薦,1名は他薦でした.今回宮地賞の公告文と細則を改訂して自薦による応募を促すようにしたことの効果が表れたと思われます.資料を選考委員会委員の全員に送付し,また候補者のそれぞれについて選考委員の2名ずつがとくに詳細に論文を検討しました.
 11月30日に,東京大学農学部で選考委員会をもちました.
 まずそれぞれの候補者の研究内容やオリジナルな点,国際性,今後の展開の可能性,分野の主要課題,分野の中での本人の業績の位置付け,などについて詳細に検討を行いました.
 宮地賞の対象範囲についても議論しました.価値の確立したまとまった業績をあげた中堅研究者にするか,若手で精力的に研究を展開している研究者にするかは,いずれも意義があり総合的に判断するべきものとしました.
 また昨年の委員会にて議論になった生態学会での活動歴についても検討しました.
 今回の候補者は4名とも宮地賞に十分に値すると判断しました.

 審議の結果,上記の2名を第5回宮地賞の候補者とすることになりました.

 田中嘉成さんは,学部時代から現在にいたるまで一貫して,量的遺伝学にもとづいて適応進化を捉えなおす理論的・実験的な研究を追求してきました.量的遺伝学の手法を用いて,性選択,社会進化,生活史進化など,生態学・行動学的現象の進化と取り組み,社会選択仮説など,国際的に評価される仮説をいくつか提唱しました.また新しい突然変異に有害性がある場合の遺伝分散の評価なども重要な業績です.それらの研究業績は American Naturalist, Evolution, Genetica などに多数掲載されています.
 田中さんは,この分野では国際的なレベルにある中堅の研究者といえます.
 また最近は環境中の化学物質の影響評価を生物集団の絶滅リスクで評価する方法を開発したり,有害突然変異の蓄積による集団絶滅の可能性を解析するなどオリジナルな研究を展開しています.
 その一方で,田中さんは生態進化を量的遺伝学の定式化で迫るアプローチについて啓蒙活動を精力的に行ってきました.日本の生態学者の多くは,量的遺伝学にもとづくアプローチを,田中さんの書かれた総説論文かもしくは田中さんが訳されたファルコナーの「量的遺伝学入門」を読んで学んだといってもよいと思います.このことも高く評価されました.

 酒井章子さんは,熱帯における植物ー送粉者相互作用について野外調査を行い,最近,興味深い論文をAm. J. Bot.などに発表している若手研究者です.京都大学の生態学研究センターの熱帯林研究グループの主要メンバーとして精力的に研究をすすめてきました.東南アジア湿潤熱帯に特有な群集レベルでの一斉開花現象について,長期間かつ大量の樹木のフェノロジー観測により,その実態を初めて明らかにしました.熱帯樹木の一斉開花について,酒井さんは,送粉促進仮説が重要と唱えています.ことに,送粉者を共有する樹木が同期して開花することによって,種を越えた同期の利益がもたらされるとする魅力的な仮説を提唱しました.
 その検証は今後の課題ですので価値の確定した業績とは言えませんが,今後の熱帯林研究をリードする有力な仮説となることは間違いありません.
 このほか,ショウガ類の送粉特性をはじめ,熱帯の植物の送粉者とのかかわりについても精力的に研究をすすめています.
 以上のことより,将来有望な若手研究者と判断されました.

 最終的に残らなかった他の2名の候補者も,それぞれの分野でオリジナルな研究を展開し非常に多数の優れた論文を執筆しており,宮地賞の候補者として十分に値する研究者です.
 また前回の選考において有力であった候補者で,今回は応募(推薦)されていない方がいるとの意見が出されました.ですから今回最終的に残らなかった候補者も,次回に再応募(もしくは再推薦)していただきたい,と思います.

第5回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  巌佐 庸
2001年3月29日


第4回(2000年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   工藤 洋(東京都立大学理学部・助手)
   安井行雄(国立環境研究所・特別研究員)

 選考経緯および選考理由
 応募者は4名でした.そのうち1名が自薦,3名が他薦でした.受賞候補者推薦用紙と各候補者の主要論文5編を選考委員6名にあらかじめ郵送し,これらの資料を精査していただきました.1999年11月11日,東京大学大学院農学生命研究科樋口研究室で選考委員会を開催しました.5名の審査委員(可知,川端,国井,東,樋口)が出席し,1名(矢原)が欠席でした.各受賞候補者の研究業績,生態学への貢献,日本生態学会における活動等,慎重に審議を行い,出席者全員の一致をもって,2名を受賞候補者として選考いたしました.なお,この結論は,外国出張のため欠席した矢原氏からの文書による意見も考慮した結果です.

 工藤洋さんは,アロザイム多型を遺伝マーカーとして用い,野外植物の局所集団間や集団内における種子散布の動態を生態的時空間スケールで解析することに成功しました.特に,対象植物の置かれている環境,たとえば,集団間の距離や景観,栄養繁殖か種子繁殖かという散布体の性質に注目し種子散布を解析しました.今後も,植物集団における遺伝子の流れに関する研究に大きく貢献するものと期待されます.

 安井行雄さんは,雌の多回交尾が進化する条件に関して,遺伝的に生存力の高い雄ほど精子間競争に多くの資源を投資することができることを仮定した新しい理論モデル (good sperm model)を提唱しました.また,雌による多回交尾の進化に関するこれまでの仮説と理論研究を精緻に検討し,実証研究者のための研究指針を提示しました.さらに理論を検証する研究も行なっており,国内外における繁殖行動の進化生態学の研究を担う若手研究者として高く評価されます.

両氏とも,研究成果を一流の国際学術誌に掲載しており,日本生態学会が誇る生態学 研究者であると評価いたしました.

第4回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  川端 善一郎
2000年3月25日


第3回(1999年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   辻 和希(富山大学理学部・助手)
   谷内茂雄(京都大学生態学研究センター・特別研究員)

 選考経緯および選考理由
 今回は応募を締め切った時点で2名の応募者がありました.2名とも他薦でした.両候補者の主要論文のコピーを賞選考委員7名に送り,委員会の前にあらかじめ目を通していただきました.1998年10月8日,東京大学教養学部にて選考委員会を開催し,4名の委員(堀,矢原,可知,大串)の出席のもとに,両候補者の研究業績,仕事の生態学における意義,日本生態学会での活動,宮地賞受賞者候補者としての適性などを含むあらゆる側面について慎重に審議を行い,全員の一致をもって,両名とも宮地賞受賞者としてふさわしいという結論に至りました.なおこの結論は,欠席委員の2名(武田,大沢)からあらかじめ寄せられた意見とも一致するものでした.

 辻和希さんは,実証的なデータと理論的な説明を用いて,社会性昆虫であるアリ類の社会構造とその進化についてさまざまな現象を明らかにされました.特に,コロニーレヴェルと個体レヴェルでの自然選択の測定と両者の意義,性比理論の検討,繁殖をめぐる協同と競争のコンフリクト,生活史戦略の進化など,これまで社会生物学が扱ってきた重要な理論の検証とその発展に大きく寄与されています.また,日本における,社会性昆虫の社会生物学の理論的研究を担う若手の代表として高く評価されています.

 谷内茂雄さんは,これまえで理論的な説明の与えられていなかった捕食者に対する餌動物のシグナルの初期進化の問題点について,簡潔かつ巧妙な数理モデルにより,その論理をみごとに解明されました.また,疫病の伝播モデルや,最近では,植物群集の生産性と多様性の関係についてのモデルも手がけており,今後さまざまな生態現象への数理モデルの適用による理論研究の発展が大いに期待されます.

 両名とも,その成果を一流の国際学術誌に執筆しておられ,日本生態学会が誇る生態学研究者であると判断いたします.

第3回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  大串 隆之
1999年3月29日


第2回(1998年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   酒井聡樹(東北大学理学部・助教授)
   中野 繁(北海道大学農学部付属演習林・助教授)

 選考経緯および選考理由
 今回は応募を締め切った時点で2名の応募者がありました.1名は他薦でもう1名は自薦でした.両候補者の5編の主要論文を賞選考委員8名の全員に送り委員会の前にあらかじめ目を通しました.1月13日に東京大学総合科学部にて選考委員会を開催し,両候補者の研究業績,仕事の生態学での意義,日本生態学会での活動,宮地賞受賞候補者としての適性などを含むあらゆる側面について慎重に審議をし,全員の一致をもって,両名とも1998年の日本生態学会宮地賞受賞者としてふさわしいという結論に達しました.なおこの結論は,所用のため本日の委員会に欠席した2名の委員があらかじめ寄せた意見とも一致するものでした.

 酒井聡樹さんは,樹木や草本の樹形や,種子や花の数やサイズなど植物の繁殖パターンに関するさまざまな現象を,個体の有機物生産と分配という視点で統一的に捉え,新しい理論を展開し,またその予測を野外データによって検証してきました.
 中野繁さんは,河川サケ科魚類の行動生態および群集生態の緻密かつ精力的な野外調査に基づく研究を遂行してきました.生態学の広い領域を結び付ける視座を持っておられます.
 両名とも,国際的なレベルで活躍し,多数の研究論文を国内外の一流の学術誌に執筆しておられ,日本生態学会が誇る生態学研究者であると判断します.

 なお,以下のことが選考委員会の意見としてでました.
 前回に続いて今回もまたごく少数の候補者しか推薦されませんでした.生態学会宮地賞が中堅および若手の研究者の励みになる賞として定着していくには,毎回もっと多くの候補者が推薦される必要があります.
 今回の候補者は両名ともきわめて優秀な方で,生態学研究の中核となる研究機関の助教授をしておられる中堅研究者です.私は,これら両名の様に相当に確立した中堅研究者だけでなく,より若手の,たとえば学位を取得してから数年程度の若手研究者をも宮地賞の候補として考える可能性も必要と思います.受賞者が中堅研究者とするのが望ましいのか若手研究者が望ましいのかは意見の分かれるところで,そのあたりは選考委員会に任されているのかもしれませんが,ともかく応募者がなければ判断のしようもありません.
 また,今回は,2名の内1名は自薦で応募してくださいましたが,これは大変好ましいことと思います.他から認められて推薦されるのを待つといった姿勢でなく,良い仕事をしていると思ったら遠慮なく応募するということができる雰囲気を学会の中につくって行くことも,この宮地賞が若手・中堅の賞として生態学会の中に定着するためには必要なことと思います.
 できるだけ多くの候補者に応募していただけるように,またもっと気軽に応募できるようにするべく,何らかの具体的な手を打つことが必要と感じました.

第2回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  巌佐 庸
1998年3月28日


第1回(1997年)日本生態学会宮地賞
受賞者:
   工藤 岳(北海道大学地球環境研究科・助手)

 選考経緯および選考理由
 1996年12月7日,第1回の選考委員会を開き,委員長を決めた後,審議に入った.
 当初,3件の推薦があった旨,事務局から報告されたが,うち1件については推薦書類が著しく不備であったため選考委員会で議論し,今回は選考対象からはずすことに決定し,残り2名の被推薦者を選考対象とすることにした.
 賞の趣旨その他について,一般的な議論と被推薦者の業績その他について一部議論をした後,読むべき論文別刷り収集に時間を要するため,これからの作業の段取りを決めて散会した.なお,今回は選考対象者が2名であるため,とくに被推薦者ごとに担当委員を置くこととせず,全員で選考にあたることにし,それぞれの判断と意見に基づいて結果を報告し,それを集約して結論とすることになった.
 各委員の意見と集計結果を委員会としての結論(案)として各委員に提示し,受賞者の最終決定をした.

工藤岳氏は,北海道大学大学院地球環境学研究科に在職し,北海道大雪山の高山帯で雪渓の雪解け傾度をモデル系として注目して精力的に研究を推進し,高山植物の葉の季節性の解析や繁殖生態に新しい知見を加えてきた.さらに,北海道の垂直分布からシベリアに至る緯度分布と寒冷域への適応に注目した研究を展開している.豊富な経験に裏打ちされた精力的なフィールドワークの濃度は論文発表への取り組みにも反映されており,この分野の若手研究者として,国際的にも一級の論文生産速度を維持し,現象の記載に止まらず,一般理論へ発展させようとしている.日本の自然を活かしたフィールド系の着実な調査研究を奨励する意味を含めて,受賞候補者とした適任である.

第1回日本生態学会宮地賞受賞候補者選考委員会委員長  西平 守孝
1997年3月28日