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会長からのメッセージ −その22−

「スケッチ」

 今回はいつも付けている挿し絵について、どんなふうに描いているかの内輪話です。風景の絵は、大体葉書スケッチブックに描いています。これは葉書大の画用紙が2−30枚リングで閉じてあるもので、値段は2−300円で手頃なものです。紙質は普通の画用紙的なものから、ややざらつき気味のもの、つるつるのものなどがあります。画材店で適当に何種類か選んできて、描いています。描くのはボールペンです。ボールペンというのは、冬には寒さでインクが出にくく、野外でのスケッチではペンに息を吐き掛けながらで描けないという情けないことになります。夏には「だま」が出来て、インクが太くでるところができてしまう。一言でいって、推奨するに足るほどのものではない。でも僕は昔から使っていて、いつも持ち歩いてもいるし、慣れてもいるのでつい使ってしまう。もし今から画材を揃えようとするヒトにはピグマペンというのがお奨めです。これは永沢まことさんが推奨されています。太さもいろいろあるようです。

 ペンで描くと描き損じたときに消せないじゃないですか。という心配をされますが、消しゴムで消しているようでは、なかなか絵が完成しないので、とにかく大胆にぐいぐい描く。消したい線も消さずにその上にぐいとまた別の線を入れる。とにかく短時間で描ききるということにする。

 それで、ペンで描いたもののうち、気に入った絵には後で着彩する。その場でしてもよいが、それだと絵の具とか水とか筆とか一式が必要です。それでたいてい後でということになる。着彩は透明水彩絵の具を用います。小学校のときに使った絵の具は不透明水彩絵の具です。どう違うかというと、良くは知らないのだけれど、透明水彩は塗っても、下の線なんかは隠れない(程度問題であまり厚くぬれば別ですが)。したがって、ボールペンの線なんかもそのまま見えている。白い色はあまり使わずに、白は紙の色で表現する。絵の具はあまり混ぜないで、下の色を生かすように塗り重ねる。不透明水彩は、どちらかというと油絵的な使い方ができて、色を混ぜて表現する。

 最も大きな違いは、透明水彩では絵の具が減らないことで、10年、20年ともつ。不透明水彩だと、1枚絵を描くとなくなってしまう。

 本職の水彩画家は透明水彩を使って居られる方が多いようだが、不透明水彩の方もある。力強さを表現するのは不透明のほうがよいのだろう。いわゆる植物画、単に植物を描いた画ということではなくて、植物の種名まで解るように描いたもの、は透明水彩で描くことになっているようだ。牧野富太郎先生の図鑑の巻頭を飾っている植物スケッチや牧野さんと同年代の五百城文裁の高山植物の図も透明水彩のようである。文裁の絵は、私は写真版でしかみたことがなかったが、標本画ではなく生態的な図であり、高山植物らしく植物の根方からは雲がわきあがっているような迫力ある図柄であった。あこがれていた実物の絵との対面は、矢原さんや酒井君を小石川の植物園に尋ねていったときにあっけなく実現した。机の上に、どういうわけか無造作に広げてあったからである。わき上がる雲とみていたのは、絵についた雨の染みであった。

 面白いことに、鳥や哺乳類は不透明水彩で描かれることが多いようだ。藪内正幸さんの「庭に来る鳥」とか「動物のおやこ」、Audubonのアメリカの鳥なんかの絵もみんな不透明絵の具である。対象物の厚みとか質感によるのだろうな。 それで、着彩は筆に水を含ませ、絵の具を付けてさっと塗る。(当たり前の記述ですね)。筆は普通の絵筆です。いろんなものがあります。細かい絵を描くときは面相筆というのを使います。結構何本も揃えていますが、普段使うのは少数に限られてきますね。色は後から塗るのだから、そのときの気分でかなり適当に塗ります。植物を採集してきて、目の前において描くときは別。このときは結構まじめに着彩する。

 と、書いてみたけれども、今回のは当たり前の記述で、読まされても面白くなかっただろうな。どうもすみません。

▲私の研究室の窓からみた白山です。