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会長からのメッセージ −その30−

「相撲の結末」

 土曜日はセンター試験の監督業務があたった。この大学では今まで、センター試験の結果は利用させて貰っていたが、会場ではなかった。いわばただのりをしていたので、今年から会場となるのもやむを得ない。朝の8時45分から夜7時まで拘束で全科目を監督することになっている。夕方最後の時間に、一番神経を使う英語のヒアリングがあった。僕は受験生と同じようにイヤホンをつけ、時計をみながら、何番の問題が何時何分何秒に始まったかを記録する係りだったので、居眠りをしないかとことさら緊張した。幸いなにごともなく終わりました。ヒアリングの問題は実用英語というような問題である。筆記の英語も、昔ふうの難しいエッセイなどでなく、実に実用的な英語である。こういう英語を学んで置けば、外国旅行をするときなど便利だろうな。もっとも、高校で英語を学ぶのはこういうことなのか?という疑問もある。僕は英語を勉強するというのは、比較言語学というと大げさだけど、論理学のようなものだと思っていた。特に、われわれの日本語によるものの考え方、と知らず知らず比較することで、日本語(国語ではない)能力をも鍛えているのではないか。学校では古文とか微積分とか生物進化など、役に立ちそうにもないことを教えるのに意義があると思っている私にとっては、こんな役に立つことを学校でやっていてよいのか、という気がした。しかし、もっとも基本的なあいさつ、Hi!とかNice to meet you!などという英語を習ったことがない私が言ってもしようがないか。(中学校ではGood morning. How do you do?と教わった。)

 日曜日早朝は、自宅で仕事。古いデータをいじり回してなんとか使おうと苦闘している。そして、その後は新春囲碁大会である。朝から夕方まで、囲碁漬けの予定。会場の中央公民館には参集者60名。ふつうこういう会場だと紫煙が立ちこめて大変だが、ここは禁煙でありがたい。最初の相手はS四段。手合いは先。この人とは2子置いて負けたことがある。結構うまく打ち回して、途中で相手の大石が死んでしまい、投了となる。2人目の相手は、S三段、去年負けた相手だ。途中で無理手がたたって必敗の碁となるが、ごちゃごちゃやっているうちに逆転したみたい。相手が長考を続けているうちに、時計が落ち、時間切れ勝ちとなった。次の相手は、S五段、この人には3子置かされている、が、正式の手合いは2子である。途中、黒地のなかに白が入り込んできて、コウ争いとなったが、活きを譲ってコウを打ち抜いて優勢となったみたい。というわけで、結局、4勝1敗。準優勝であった。頭に血が上って、暑い。しかしなんだか頭はすっきりと爽快感がある。ジョギングや相撲をとった後のようだ。

 相撲の話をするんだった。お正月に来た青年は24歳。漁師になろうと思って、水産高校を出ました。マグロ延縄実習というので1と月くらい海に出たこともあります。結構重いマグロがばんばん掛かりますという。漁師に知り合いがいればよいなと思ったけれども、船酔いがきついので止めました。でも力は強そうだ。マグロは1トンもあるんだろう?いや、そんなのは滅多になくて100kgくらいです。それでも私より重いじゃないか。立ち合いさっと僕がもろ差しになった。組み勝ったはずだけど勝手が悪い。僕は普通右から上手投げとかすくい投げにいくから、頭の位置は相手の右側にくる。ところが今回は頭が相手の左側になっている。どうも右からの投げが打ちにくい。そこで左からゆさぶってみたが、左からだと自分の方へ呼び込むようになって勝手が悪い。下手をすると自分の腰がくだけそうだ。そこでともかく寄りたてることにした。ぐんぐん前進すると相手の腰がすこしゆらいだ。ここだと体をあずけて寄り倒してしまった。やった!勝ったぞ勝ったぞと僕は芝生の上を走り回った。2番目は投げつけてやろうと欲をだしたのが悪く、予想したように相手を自分のほうへ呼び込んでしまった。相手の体重がかかり、持ちこたえられずにどうと倒れた。その後も2番とって結局勝敗は2勝2敗であった。さすがに4番続けてとると息があがってしまった。芝生の上に倒れ込んで、荒い息をしながら空を見上げた。北陸の冬には珍しく、お正月の青い空が広がっていた。

▲早稲田の前の高田牧舎というところの会議室を大島康行先生の肝いりでお借りし、広瀬さんを盟主とする謀議を繰り返した。そのいきさつは大島先生の追悼文に書いた。先生がなくなられてからはや1年が過ぎた。