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会長からのメッセージ −その5−

「会長退任のあいさつ(12月28日)」

 あと数日で、日本生態学会会長を退任することになりました。2年間、日本生態学会のためにどれだけのことができたか、心もとない限りです。しかし、日本生態学会の活動自体は、ますます活発になっています。学会の活動が伸びていく状況の中で、会長をつとめることができたことを、とても嬉しく思っています。

 盛岡で開催された日本生態学会大会は、福岡大会と同様に2000人規模の参加者を集めました。内容の点でも、とても刺激的な大会でした。大会を準備された関係者の方々にあらためてお礼をもうしあげます。私は会長として、ポスター賞受賞者ひとりひとりに賞状を手渡しましたが、どの研究も魅力的であり、若手研究者による研究がさまざまな分野で伸びていることを実感することができました。

 2年前の会長就任時のあいさつで、若手の職や、キャリアパスを増やすための条件整備に取り組みたいと書きました。盛岡大会では、日本学術振興会の幹部に来ていただいて、特別研究員事業と科研費に関するフォーラムを開催しました。残念ながら参加者が少なかったのですが、若手を含む参加者には好評でした。会長を降りてからも、この課題には引き続きとりくみたいと思います。

 11月に行われた事業仕分けでは、特別研究員事業を含む若手研究者支援事業にきびしい評価が下され、次年度の特別研究員内定者の予算すら確保されるかどうかわからないという状況が生まれました。この事態に対して、日本植物学会など他の学会の会長と連絡をとり、文部科学大臣に要望書を提出しました。若手研究者問題に関する資料を集めていましたので、要望書では具体的な数字やグラフの根拠を示しながら、若手研究者支援の必要性を説明することができました。その結果、22年度予算において特別研究員事業費は増額されることになりました。これは嬉しいニュースでした。

 私の大きな役割は、法人化を実現することだと考えていました。定款案を準備し、いつでも法人化の申請ができる状況は整えました。しかし、政権交代によって、法人化をめぐる社会状況は大きく変化しました。新政権の下での法人改革の動きを見定める必要があります。これまでは、自民党政権下で作られた新公益法人制度への対応を準備してきました。しかし、新政権の下で、新たな枠組みが検討される可能性があります。このため、12月の常任委員会で、2年程度の見送りを提案しました。1年後には、新政権の下での方針がはっきりしてくると思われます。その時点で学会としての対応を再度検討することを考えれば、法人化の申請は早くても2年先にならざるを得ません。

 2010年10月には、生物多様性条約第10回締約国会議がアジアで開催されます。この会議に向けて、3月21−22日に、名古屋大学トヨタホールでCOP10プレコンファレンスを開催します。このCOP10プレコンファレンスは、環境省・DIVERSITAS・名古屋大学主催、日本生態学会・自然史学会連合などが後援する形で開催されます。日本生態学会はこの会議の準備に積極的に関わってきました。現在、プログラムを決定するために、国際的な調整を進めているところです。東京大会直後の日程での開催ですが、多くの会員の方々にご参加いただければと願っています。

 2010年9月には、東アジア生態学会連合(EAFES)の大会が韓国で開催されます。この大会に向けて、日本からも組織委員を選び、準備を始めているところです。東アジア3国の協力関係を発展させることは、これからの日本の生態学にとってとても大切だと思います。EAFESの会合に出て、韓国・中国の生態学会関係者と親しく議論する機会を持つことができました。EAFESとの関わりには継承性も必要なので、今後も、次期会長の指示を仰ぎながら、9月の大会に向けて準備を進めていきたいと思います。

 会長に就任したとき、「会長からのメッセージ」を書くことは、もっと楽にできるだろうと考えていました。しかし、実際に会長になってみると、意外にもこれが結構むつかしいことがわかりました。ブログと違って、会長という立場で書く文章なので、やはり会長としての責任を意識してしまいます。結果として、これが5回目のメッセージです。情報公開という点では、不本意な成績を残してしまいました。執行部の活動を学会員にオープンにするには、常任委員会の議事録を作って公表するのが良いかもしれません。このような公式な文書が先にあれば、もっと気楽に「会長からのメッセージ」を書けるだろうと考えました。しかし、議事録作成も実現しないまま、会長をおりることになりました。この点は、おわびします。

 会長が学会全体を牽引するというような、世にはやりの「トップダウン」というやり方は、やらない方針で会長をつとめました。その結果、これまでの中で、一番何もしなかった会長だったのではないかと思います。それでも大過なく2年間の任期を終えることができたのは、事務局や執行部の方々をはじめ、多くの関係者の方々のおかげです。2年間ご協力いただいた方々にお礼をもうしあげます。2010年が生態学会にとってますます充実した年となることを願い、会長退任の挨拶とさせていただきます。

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