2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] 口頭発表: 行動・社会生態

8 月 27 日 (金)
  • O2-U01: 野生ニホンザルの栄養状態の季節変化 (室山, 金森, 北原)
  • O2-U02: 生理メカニズムに起因した危険な行動 (千葉, Conover D.)
  • O2-U03: 半倍数性社会性昆虫におけるSymmetrical Social Hybridogenesisの存続条件 (山内, 山村)
  • O2-U04: 捕食者特異的な誘導防御形態戦略 (岸田, 西村)
  • O2-U05: オーストラリアモンスーン熱帯におけるセアカオーストラリアムシクイの繁殖戦略 (上田, ノスキー)
  • O2-U06: 淡水域におけるケミカルコミュニケーションがもたらす被食者2種の生存率・行動・形態変化の比較 (高原, 神松, 山岡)
  • O2-U07: ヒシバッタ類における自切のコスト (本間, 西田)
  • O2-U08: 環境中の背景雑音がミナミハンドウイルカの音声に与える影響 (森阪, 篠原, 中原, 赤松)
  • O2-U09: 有限集団における協力の進化:1/3則 (佐々木)
  • O2-U10: 待ち伏せ型捕食者サシバにおける採食パッチの選択と放棄 (呉, 藤田, 樋口)

09:30-09:45

O2-U01: 野生ニホンザルの栄養状態の季節変化

*室山 泰之1, 金森 弘樹2, 北原 英治3
1京都大学霊長類研究所ニホンザル野外観察施設, 2島根県中山間地域研究センター, 3森林総合研究所野生動物研究領域

有害鳥獣捕獲によって捕殺された野生ニホンザルを用いて、栄養状態の季節変化と性差および地域差(島根・房総)を調べた.栄養状態の指標として、体重、上腕周囲、胸囲などの形態学的測定値と皮厚(上腕後面、大腿後面、肩甲骨下部、腹部)、および腸間膜(大網を含む)脂肪重量を計測した.多くの形態学的な指標と、腹部の皮厚、および腸間膜脂肪重量は、島根個体群の個体のほうが房総個体群より大きかった.皮厚と腸間膜脂肪重量はオスよりメスのほうが大きく、メスがオスよりも多く脂肪を蓄積していることを示していた.メスについては、多くの測定値が明確な季節性を示し、体重、胸囲、腹部皮厚、および腸間膜脂肪重量は秋に最大となった.対照的に、オスについてはほとんどの測定値において季節性が明確ではなく、わずかに大腿後面と肩甲骨下部の皮厚のみが夏に最大値を示した.形態学的測定値のほとんどがお互いに相関したが、皮厚の中にはほかの計測値と相関しないものもあった.これらの性差は、妊娠や授乳といった繁殖にかかわることに対してメスのほうがエネルギーをより多く蓄積する必要があることに起因すると考えられた.


09:45-10:00

O2-U02: 生理メカニズムに起因した危険な行動

*千葉 晋1, Conover D. O.2
1東京農大 生物産業, 2State Univ. of New York at Stony Brook

 捕食の危険にさらされた動物の行動には、しばしば個体ごとの一時的なエネルギー要求量(生理コンディション)の変化が影響する。たとえば、採餌行動の場合、空腹の個体ほど豪胆に、満腹の個体ほど臆病に採餌する傾向にある。個体群ごとの遺伝的なエネルギー要求量(生理メカニズム)にもしばしば変異がみられるが、生理的視点から個体群レベルで行動を比較した例は極めて乏しい。
 本研究では、生理メカニズムに変異がみられるトウゴロウイワシの仲間Menidia menidiaの行動を、個体群レベルで比較した。ここでは、エネルギー要求量の大きい北方個体群(Nova Scotia, NS)は、要求量の小さい南方個体群(South Carolina, SC)よりも、捕食者に対して豪胆に採餌すると仮説立てた。さらに、NS群の行動は常に豪胆であるかどうかを確かめるため、餌のない状態での行動も比較した。
 捕食者モデルを用いてM. menidiaに恐怖を与えたところ、NS群はSC群よりも素早くシェルターに隠れた。その後、シェルターの外に餌を投入すると、NS群はSC群よりも素早くシェルターを離れ、採餌を行った。しかし、餌を投入しなかった場合、逆にNS群はSC群よりもシェルターを離れる時間が遅くなった。NS群がシェルターを離れた時間は餌条件によって有意に変化したのに対し、SC群では差がなかった。
 本研究の結果は、遺伝的な生理メカニズムの違いは、M. menidiaの採餌行動に個体群変異をもたらすことを示している。ただし、エネルギー要求量は単純に豪胆・臆病を決定していなかった。個体群レベルでの餌条件に対する行動差は、異なる時間スケールの危険(長期間でのエネルギー枯渇vs短期間での捕食)の程度差に起因していると考えられる。


10:00-10:15

O2-U03: 半倍数性社会性昆虫におけるSymmetrical Social Hybridogenesisの存続条件

*山内 淳*1, 山村 則男1
1京大 生態学研究センター

膜翅目昆虫の性は半倍数性性決定によって決まることはよく知られており、受精卵から生じる2倍体の個体はメス、未受精の卵から生じる半数体の個体はオスとなる。さらに真社会性の種では、2倍体のメスは繁殖を行う女王と繁殖をせずに労働のみを行うワーカーへと分化する。近年一部のアリなどについて、メスにおけるカーストの分化が遺伝的に制御されており、しかもSymmetrical Social Hybridogenesis(以下SSH)というメカニズムが存在することが明らかになってきた。これはある遺伝子座上の2つの対立遺伝子(仮にAとBと呼ぶ)について、ホモ接合になっているメスは女王となりヘテロ接合となっているメスはワーカーとなる現象である。このシステムでポイントとなるのは、AAメス(あるいはBBメス)がAオス(あるいはBオス)のみと交配した場合には、そのコロニーはワーカーが現れないために存続できない。また、AAメス(あるいはBBメス)がBオス(あるいはAオス)のみと交配した場合には、そのコロニーは次世代の女王を生み出すことができない。このことから、SSHの下では集団がA遺伝子とB遺伝子をともに持っており、しかもメスは多回交尾を行っている必要がある。しかしそれは、A遺伝子とB遺伝子がともに存在して多回交尾が行われてさえいれば、SSHが存続できるということを保証するわけではない。そこで本研究では、SSHの存続条件を主にシミュレーションによって調べた。解析ではメスは多回交尾によって複数のオスから精子を受け取るが、交尾相手の遺伝型の組成は集団中のAオスとBオスの比率に基づく二項分布に従うとした。交尾の後に女王はコロニーを創設して次世代の王、女王とワーカーを産むが、次世代の繁殖虫(王と女王、あるいは女王のみ)の成功度はワーカー数に対する増加関数であると仮定した。これらの仮定に基づき様々な状況を想定して解析を行ったが、SSHが存続できる状況はかなり限定的であることが示唆された。


10:15-10:30

O2-U04: 捕食者特異的な誘導防御形態戦略

*岸田 治1, 西村 欣也1
1北海道大学大学院水産科学研究科

 多くの生物は捕食リスクに応じて、行動や形態を条件的に変化させる(誘導防御戦略)。被食者は様々なタイプの捕食者からの捕食の危険に瀕している。被食者は、それぞれの捕食者種に特異的な防御を誘導するのだろうか? また、どのような条件の下で、捕食者種特異的な防御の誘導が進化するだろうか? 捕食者種特異的な誘導防御が進化する条件として以下の3つが推論される。
  (1) 異なる捕食者が異なる捕食様式を有する。
  (2) 被食者が、異なる捕食者を区別する。
  (3) 捕食者種に特異的な誘導反応は、対応した捕食者種に対して効率のよい
    防御として機能する。
 本研究では、エゾアカガエル幼生の捕食者誘導形態をモデルとし、捕食者特異的誘導形態防御とその進化条件について実証的な研究を行った。進化条件(1)より、異なるタイプの捕食者種として、エゾサンショウウオ幼生(丸のみタイプ)とルリボシヤンマのヤゴ(かじりつきタイプ)を選定し、形態誘導実験を行った。カエル幼生は、異なる捕食者に対して異なる形態反応を示した(サンショウウオ存在下では膨満形態を、ヤゴ存在下では尾鰭の高い形態を発現した)。さらに、それぞれの形態反応を誘導する際に要する刺激の条件が異なっていることから、進化条件(2)が満たされることを示した。次に、誘導された表現型の適応性に関し、条件(3)を仮説として捕食実験を行ったところ、それぞれの特異的な形態をもつ個体は、対応した捕食者種に対して捕食されにくいことが明らかとなった。
 以上の結果に加えて、本研究では、環境の変化に応じて、これらの捕食者特異的な形態反応が柔軟に変化することを明らかにした。つまり、環境中の捕食者種の交替にあわせて2つの誘導形態が相互に変化すること、また、捕食リスクの緩和に応じて誘導形態がもとの非防御形態へと戻ることを示した。自然の池群集では、捕食者の種構成や個体数は時間的に大きく変化する。エゾアカガエル幼生の柔軟な誘導形態反応は、細かい時間スケールでの捕食環境の変化に対応した適応と考えられる。


10:30-10:45

O2-U05: オーストラリアモンスーン熱帯におけるセアカオーストラリアムシクイの繁殖戦略

*上田 恵介1, ノスキー リチャード2
1立教大学・理・生命理学, 2チャールズ・ダーウィン大学

 セアカオーストラリアムシクイ Marulus melanocephalus は、オーストラリア北部の熱帯域に広く分布する。この科の鳥には、ヘルパーのつく協同繁殖が広く知られており,本種でもオーストラリア東南部の亜種では,頻度は高くないがヘルパーの報告がある.しかし北部熱帯域に生息する本亜種の研究はこれまで行われたことがなく,地域間の比較研究が待たれていた。演者らは1995年4月から1996年の3月、及び1996年の8月に、オーストラリア北部のDarwin近郊、Holmes Jungle Nature Parkで本種の社会構造についての研究を行なった。本種は、乾季には2羽から9羽のグループ生活をしていた。4月に巣立ちビナを連れた家族群を観察していることから,このグループは基本的に家族群と思われた.しかし時には2つ以上のグループがいっしょになって20羽近い合同群になることもあった。成熟したオスは赤と黒の美しい羽色を持つが、この時期のオスの中では赤と黒の生殖羽をもっているものは少なく、群の構成メンバーのほとんどは褐色の♀タイプの個体であった。雨季に入った9月下旬以降、約50haの調査地内に生息する14群86羽を捕獲して、個体識別用の足環を装着した。群れは12月以降、徐々に崩壊しはじめ、つがい形成がはじまった。最終的に調査地では30つがい(標識個体50羽、未標識個体10羽)がなわばりを持って繁殖に入った(1.7 ha/つがい)。この30つがいのオスのうち、赤と黒の生殖羽を持つオスは15羽(50.0%)で、13羽(43.3%)がメス的色彩、2羽(6.7%)が中間的な羽色の個体であった。結果的に、この地域の個体群にはヘルパーがいる証拠はなかった。捕食を受けた巣の親鳥は、ペアで次々と巣作りを繰り返した。一方、生殖羽のオスは他のなわばりへ頻繁に侵入し、メスに求愛を行なった。オスの生殖突起は生殖羽のオス、非生殖羽のオスとも異常に肥大し、精子競争の激しさを予測させた。


10:45-11:00

O2-U06: 淡水域におけるケミカルコミュニケーションがもたらす被食者2種の生存率・行動・形態変化の比較

*高原 輝彦1, 神松 幸弘2, 山岡 亮平1
1京都工芸繊維大学・院・工芸科学, 2総合地球環境学研究所

水域には様々な捕食者・被食者が生息しており、生物由来の化学物質(情報化学物質)を介した多種多様な相互作用(ケミカルコミュニケーション)が存在すると考えられる。カエルの幼生は捕食者の匂いなどに由来する化学物質を受けて行動や形態を変化させ被食を回避する。本研究ではカエル2種(ニホンアマガエルHyla japonica・ツチガエルRana rugosa)の幼生が捕食者由来の化学物質を受けてどのような反応を示すかを調べた。ギンヤンマAnax partenope juliusの幼虫(ヤゴ)あるいはヒブナCarassius auratus var.由来の化学物質が溶け込んでいる飼育水を与えたとき、ニホンアマガエルはそれぞれに対して活動時間を減少させた。一方、ツチガエルではヤゴの飼育水を与えたとき活動時間が減少したが、ヒブナの飼育水を与えたとき活動時間の変化はみられなかった。幼生の活動時間の長さと被食率の関係を調べた結果、ヤゴ由来の化学物質を受容してニホンアマガエルが活動時間を減少させることはヤゴの捕食を回避する有効な行動変化であることが示唆された。ニホンアマガエルはヒブナの飼育水に常時さらされると生存率が低下したが、ツチガエルの生存率は影響を受けなかった。ニホンアマガエルはヤゴの飼育水に一定期間さらされると尾ビレの幅が広くなり、ヒブナの飼育水にさらされると尾ビレの幅が狭くなった。以上の結果、ヤゴとヒブナに由来する化学物質はカエル幼生の行動や形態および生存率を変化させることが明らかになった。ヒブナ由来の化学物質がニホンアマガエルとツチガエルに及ぼす影響の違いは、それぞれがヒブナに対する異なる対捕食者戦略をもつことによるものと考えられる。捕食者由来の情報化学物質の受容により示すカエル各種の反応は、それぞれが共存してきた捕食者に応じて進化してきた結果であると考えられる。


11:00-11:15

O2-U07: ヒシバッタ類における自切のコスト

*本間 淳1, 西田 隆義*1
1京大院・農・昆虫生態

自切は、捕食者に襲われた際に体の一部を犠牲にして捕食を回避する行動であり、いくつかの分類群においてみられる。自切の研究は、自切後の個体の運動能力に及ぼす影響について主にトカゲにおいて研究がなされてきたが、昆虫類におけるそれは、ナナフシ等における自切後の組織再生の生理的研究に限られてきた。そこで本研究では、後脚の切断という明らかに大きなコストを負いそうなバッタ類(ヒシバッタ)の自切行動が、その後の運動能力にどの程度影響してくるのかを定量化した。また、その際、捕食者に対する防衛戦術の異なる(行動的防衛と物理的防衛)近縁種の比較によって、自切行動の、他の捕食回避戦術への影響を評価した。
その結果、どちらの種においても跳躍能力に関しては、明らかな低下が見られた。しかし、巧みな跳躍(行動的防衛)により捕食回避を行うハラヒシバッタは、跳躍前の動きによって、その低下を補うという行動の変化が現れた。一方、非常に固い前胸背板や側棘物理的防衛)を採用しているトゲヒシバッタでは、じっとして跳躍による回避を遅らせるという変化を見せた。これらの結果は、自切のコストを、おのおのが採用している防衛戦術に合わせて補っていることを示している。


11:15-11:30

O2-U08: 環境中の背景雑音がミナミハンドウイルカの音声に与える影響

*森阪 匡通1, 篠原 正典2, 中原 史生3, 赤松 友成4
1京都大学大学院理学研究科動物生態学研究室, 2京都大学大学院理学研究科動物行動学研究室, 3常磐大学コミュニティ振興学部, 4独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所

鯨類は水という、音が最も伝達効率のよい棲息環境において複雑な音声コミュニケーションを行っている。ミナミハンドウイルカは小型鯨類で、群を形成し沿岸域に年間を通じ定住する種である。この種の発するホイッスルは、純音で周波数変調し、特に群の結合を維持するための機能を持つと考えられている。発表者らの先行研究により、このホイッスルに地域間差異が存在することがわかっており、棲息環境の違いによってもたらされたものである可能性が示唆された。この種の棲息する沿岸海域において非常に高レベルで存在する背景雑音がホイッスルに与える影響を調べるため、ホイッスルの使用周波数と、周波数変調の程度を測定し、それぞれの海域ごとの背景雑音と比較した。ミナミハンドウイルカが定住している小笠原諸島(OGA)、伊豆諸島御蔵島(MIK)、および熊本県天草下島諸島(AMA)において、イルカが頻繁に利用する水深15-30mの場所で背景雑音の録音を行った。また、イルカのホイッスルは、アドリブサンプリング法により、様々な時間、場所、録音機材を用いて収録し、Avisoft-SASLab Pro for Windowsで解析を行った。イルカが実際にホイッスルに用いている周波数帯域を調べるために、各ホイッスルを長さで19等分し、各点の周波数を測定した。得られた20点の周波数を海域ごとに集めたものをその海域の使用周波数とした。ホイッスルの周波数変調率は、前述の20点の周波数を用い、McCowan & Reiss (1995)に倣い算出した。その結果、背景雑音が高いレベルで存在するAMAでは、低い周波数で周波数変調の少ないホイッスルが使われ、背景雑音が低いレベルのMIK、OGAでは、高い周波数も多く、周波数変調も大きいホイッスルが用いられていることがわかった。周波数変調は雑音に簡単に消されてしまうため、背景雑音レベルの高い海域では、周波数変調の少ないホイッスルがより遠くまで正しく情報を伝えられると考えられ、ミナミハンドウイルカは棲息環境中に存在する背景雑音レベルに応じて最適なホイッスルを発していることが示唆された。


11:30-11:45

O2-U09: 有限集団における協力の進化:1/3則

*佐々木 顕1
1九州大学 大学院 理学研究院 生物学専攻

 協力の進化を有限集団における反復囚人のジレンマゲームで解析する。反復囚人のジレンマゲームにおいて、ゲームの反復回数が十分大きければしっぺ返し(TFT)と裏切り(all-D)はともに進化的に安定になる。無限集団サイズの進化動態ではTFTとall-Dは双安定となり、一方が多数を占めると他方は侵入できない。このような双安定なゲームの進化動態を有限集団で考え、all-Dの集団に1個体だけで生じたTFT突然変異が集団に固定する確率を拡散近似により求める。この固定確率が中立遺伝子の固定確率よりも大きくなる、つまり協力が実質的なダーウィン進化によって広がるための条件は、頻度依存淘汰の閾値頻度(両戦略の適応度が等しくなる頻度)が1/3以下になることである(協力進化のための1/3則)。つまり、突然変異で生じたばかりのときは少数者不利の自然淘汰にさらされる戦略も、頻度が1/3に達する前に有利に転じるのであれば、逆風をはねのけて集団に固定する可能性が高い(中立突然変異よりも高い頻度で固定する)。しかしそれ以外の場合、たとえば集団の半数を占めてやっと有利に転ずるような戦略が、1個体の突然変異体から集団への固定に至るのは非常に困難である。ESS(進化的安定戦略)概念の有限集団への拡張についても論ずる。(Nowak, Sasaki, Taylor and Fudenberg, Nature 428, 646-650, 2004).


11:45-12:00

O2-U10: 待ち伏せ型捕食者サシバにおける採食パッチの選択と放棄

*呉 盈瑩1, 藤田 剛1, 樋口 広芳1
1東京大学 生物多様性科学研究室

日本の南西端に位置する石垣島は、個体数の減少が懸念されている猛禽類サシバの日本における主要な越冬地である。サシバは毎年10月から翌年の3月まで、石垣島の主要な農地環境である牧草地で採食する。
演者らは、まず、この地域での越冬期を通したサシバの生息地利用と食物品目などを2002年から2004年に調査した。ラジオテレメトリーや色足環によって個体識別を行ない、のべ6羽の個体追跡を行った結果、すべての個体が越冬期を通して行動圏を農地内に維持していた。一個体の一日の行動圏面積は、越冬期内の時期によって変化し、最小0.09 km2、最大 0.48 km2だった。サシバの越冬期における食物の95%以上がバッタ類であった。サシバは、止まり場に止まり、その周辺で発見した食物動物を採食する、待ち伏せ型の採食様式をとる。調査地のサシバが止まり場として利用したのは、スプリンクラー、電柱、防風林だった。
行動圏内の利用様式に注目すると、観察された採食行動の95%は、牧草地での採食だった。牧草地一区画あたりの面積(2700_から_8100 m2)は、サシバの行動圏にくらべて小さく、サシバは、一日のあいだに何度も採食のために待ち伏せする牧草地の選択と放棄を繰り返していた。牧草地では刈り取りが年4回から6回行われているが、この刈り取りの繰り返し期間は牧草の品種、牧草地の立地、栄養条件などによってちがっているため、サシバの行動圏内にはさまざまな草丈の採草地がモザイク状に存在していた。そこで、演者らはサシバによる牧草地の選択と放棄過程に注目し、牧草の刈り取り、草丈、牧草地の配置、待ち伏せ場所であるスプリンクラー数、そして食物であるバッタの密度などが、サシバの採食パッチ選択と放棄にどう関わっているのかを解析した。今回は、これら越冬期におけるサシバの生息地利用と、その利用様式に関わる採食パッチ選択と放棄に影響する要因について報告を行う。