2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] 口頭発表: 個体群生態

8 月 27 日 (金)
  • O2-Y01: 密植されたヒノキ苗個体群における平均地上部重、地下部重と密度との関係 (小川)
  • O2-Y02: 針葉樹実生の定着に対する倒木の有効性と立地環境の関係 (勝又)
  • O2-Y03: 春日山原始林における移入種ナギとナンキンハゼの分布とその要因解析 (前迫, 名波, 神崎)
  • O2-Y04: 春日山原始林に侵入したナギとナンキンハゼの個体群構造の空間的差異 (名波, 前迫, 神崎)
  • O2-Y05: ()
  • O2-Y06: 秋田スギ天然更新林分における更新様式の解析 1.群落構造と栄養繁殖様式 (蒔田, 阿部, 三嶋, 高田, 澤田)
  • O2-Y07: 秋田スギ天然更新林分における更新様式の解析 2.SSRマーカーによる更新動態の解析 (三嶋, 平尾, 高田, 阿部, 蒔田, 澤田)
  • O2-Y08: 葉緑体DNA多型を用いたケヤキの地理的変異の解析 (生方, 上野, 平岡)
  • O2-Y09: マスティングの波及効果:ノルウェー南部で観測された階層的時系列データの解析 (佐竹, オッター, スベラ)

09:30-09:45

O2-Y01: 密植されたヒノキ苗個体群における平均地上部重、地下部重と密度との関係

*小川 一治1
1名古屋大学大学院生命農学研究科

 樹木をはじめとする植物の自己間引きの3/2乗則に関する研究は、地上部に関した研究例がほとんどであり、地下部に関した研究例はほとんどない。本研究では、地下部も考慮して、密植されたヒノキ苗個体群における平均個体サイズと密度との関係を解析した。
 平均地上部重と密度との関係は内藤の式(1983)で近似された。この式において自己間引き指数は3/2に近い値を示し、地上部においては3/2乗則が成立しているとみなせた。平均地下部重と平均地上部重との相対成長関係から、平均地下部重と密度との関係が誘導された。この誘導式において自己間引き指数は3/2より小さい値を示した。これは、相対成長係数が1より小さいためであった。
 以上の結果をもとに、平均地下部重/平均地上部重比と密度との関係を吟味した。


09:45-10:00

O2-Y02: 針葉樹実生の定着に対する倒木の有効性と立地環境の関係

*勝又 暢之1
1千葉大学大学院 自然科学研究科

立地環境の相違が,針葉樹実生の定着サイトとなる腐朽倒木の有効性にどのような影響を与えるのか,さらにそれが群落動態にどのような影響を及ぼすか明らかにするために,富士山亜高山帯針葉樹林の閉鎖林分,林冠ギャップならびに風倒跡地において,腐朽段階ごとに倒木量を測定し,これを利用するシラベ(Abies veitchii)ならびにトウヒ(Picea jezoensis var. hondoensis)実生の分布量ならびに定着位置を調査した.
 倒木の総量は攪乱の有無,規模を反映して閉鎖林分,林冠ギャップ,風倒跡地の順に多くなった.しかし,実生定着が認められる腐朽段階は限られており,その倒木量は閉鎖林分ならびに林冠ギャップでは同等,風倒跡地では相対的に少なかった.シラベ実生の分布は閉鎖林分ならびに林冠ギャップでは倒木上で多く,地表面では少なかった.これに対し風倒跡地では倒木上よりも倒木直近の地表面に多く分布していた.トウヒ実生はどの立地においても倒木上に多く分布した.林冠ギャップならびに風倒跡地ではトウヒ実生にも倒木直近の地表面で分布が多くなる傾向が認められた.しかし,シラベに比べればその程度は小さく,定着に適した腐朽段階をもつ倒木量の減少に合わせて実生分布量が少なくなっていた.
 これらの結果から,閉鎖林分ならびに林冠ギャップにおいては腐朽倒木上が定着セーフサイトとなるが,風倒跡地においては倒木上ではなく,倒木直近の地表面が定着セーフサイトとして機能すること,つまり針葉樹実生の定着に対する倒木の有効性は普遍的なものではなく,立地環境の相違によって変化することが明らかとなった.さらに腐朽倒木の存在と実生分布の結びつきが強いトウヒは風倒跡地のような立地環境では排除され,その更新が阻害されることが示唆された.


10:00-10:15

O2-Y03: 春日山原始林における移入種ナギとナンキンハゼの分布とその要因解析

*前迫 ゆり1, 名波 哲2, 神崎 護3
1奈良佐保短期大学・生態, 2大阪市大院・理・生物, 3京大院・農・森林科学

春日山原始林特別天然記念物指定域(34o41'N, 135o51'E;298.6ha)に発達する照葉樹林は、奈良公園一帯のニホンジカ個体数の増加を背景に,近年、大きな負荷を受けている(前迫2001,2002; 立澤ほか 2002;山倉ほか2001)。2003年度大会において,移入種であるナギPodocarpus nagi(約1200年前に春日大社に献木されたのが起源とされる中国地方以南分布種)およびナンキンハゼSapium sebiferum(約60年前に奈良公園に街路樹として植栽された中国原産種)が原始林域に侵入していることを報告した。その後,さらに調査域を拡大し,両種の分布に関する定量的把握と分布特性の解析を試みたので報告する(なお,個体群構造については名波ほかが報告)。
2002年4月に奈良公園側の春日山原始林域西端から調査を開始し,2003年11月までに約90haを踏査した。当年生実生を含む全個体または個体パッチの位置をGPSを用いて記録し,その後,両種の分布をGIS (Arc view)を使用してサイズ別に地図上に示した。
林冠タイプをギャップ,ギャップ辺縁,疎開林冠および閉鎖林冠に区分し,個体数比率を算出した結果,ナンキンハゼ(N=9131)はそれぞれ74.2%, 11.0%, 13.4%, 1.5%,ナギ(N=7566)はそれぞれ5.0%, 6.9%, 48.9%, 39.3%であり,ナンキンハゼの侵入とギャップ形成との対応が明確であった。また両種の個体数とシードソースからの距離との関連性を検討した結果,ナギは3方位(NW-N, N-NE, E-SE)においてそれぞれ負の有意な相関が認められた。一方,ナンキンハゼはいずれの方位においても有意な相関は認められなかった。両種の分布特性から,照葉樹林における移入種の分布・拡大について考察する。


10:15-10:30

O2-Y04: 春日山原始林に侵入したナギとナンキンハゼの個体群構造の空間的差異

*名波 哲1, 前迫 ゆり2, 神崎 護3
1大阪市大院・理・生物地球, 2奈良佐保短期大学・生態, 3京大院・農・森林科学

奈良公園東部に位置する春日山原始林は都市域に残された貴重な照葉樹林であるが、現在、ナギとナンキンハゼの侵入および分布拡大が進行している。原始林内の約90 haを踏査し、両種の定着個体の分布およびサイズを記録した。
確認された個体数(総数は前迫らが報告)の割合をサイズ別に見ると、ナギの場合、樹高130 cm以下の個体が51.8%、樹高130 cm以上かつ胸高直径10 cm以下の個体が41.3%、胸高直径10 cm以上の個体が6.9%であった。ナンキンハゼの場合はそれぞれ90.1%、9.0%、0.9%であった。胸高直径10 cm以上のナギの個体は104地点で確認されたが、その69.2%において、下層にナギの稚樹が生育していた。ナンキンハゼの場合は、胸高直径10 cm以上の個体が確認された地点において、稚樹も同時に確認されたところは少なく、31地点中3地点(9.7%)にとどまった。陽樹であるナンキンハゼの稚樹は親木の下での更新が難しいと考えられる。
ナギの胸高直径10 cm以上の個体の分布を見ると、原始林の東側、つまり分布拡大を開始したと考えられるエリアから遠い場所には少なく、調査域内にナギの侵入の時間的なグラディエントが表れていると考えられた。このことはナギの種子の分散力が小さいことや個体の成長速度が遅いことに起因すると思われる。一方ナンキンハゼの場合は侵入の歴史が浅いにも関わらず、分布拡大を開始したと考えられる奈良公園から遠いエリアにも胸高直径10 cm以上に成長した個体が確認され、分散力の大きさ、あるいは成長速度の速さが反映されていると考えられる。
ナギとナンキンハゼは原始林内の広い範囲に既に多数の個体が定着していることが明らかになったが、両種の生活史特性の違いから、分布拡大のプロセスは大きく異なると考えられる。


10:30-10:45

O2-Y05:

(NA)


10:45-11:00

O2-Y06: 秋田スギ天然更新林分における更新様式の解析 1.群落構造と栄養繁殖様式

*蒔田 明史1, 阿部 知行1, 三嶋 賢太郎2, 高田 克彦2, 澤田 智志3
1秋県大・森林科学, 2秋県大・木高研, 3秋田県森技セ

 秋田県には樹齢200年を越すスギ高齢林分が残存しており、「天然秋田スギ林」と称せられている。しかし、こうした林の由来や更新特性については、必ずしも明らかになってはいない。古文書に植栽記録のある地域も一部あるものの、そのほとんどは天然更新に由来すると考えられている。しかし、実在する天然林が実生更新に由来するものなのか、それとも、多雪地に特有の伏条や立条(萌芽)更新などの栄養繁殖に由来するものなのかについては結論が出ていない。
 そこで、本研究では、スギ林の更新特性を明らかにすることを目的とし、栄養繁殖による更新様式に注目して調査を行った。調査地は、秋田県琴丘町上岩川地方のスギ天然更新林分である。一般にスギの天然更新は困難であるといわれるが、この地方では粗放的ではあるが、栄養繁殖を利用したスギ択伐天然更新施業が行われ、全国的にも特異的な施業として注目されてきた。この地域において林冠の状態の異なる調査区を3カ所設定し、毎木調査を行うと共に、現地で判別できる物については個体間のつながりを記載した。群落は小径木の多い明らかなL字型のサイズ分布を示したが、小径木の多くは栄養繁殖によるものではないかと推論された。発表では、このような群落構造の特徴と共に、栄養繁殖様式や幹下部からの出枝様式などの形態的特徴を報告する。


11:00-11:15

O2-Y07: 秋田スギ天然更新林分における更新様式の解析 2.SSRマーカーによる更新動態の解析

*三嶋 賢太郎1, 平尾 知士1, 高田 克彦1, 阿部 知行2, 蒔田 明史2, 澤田 智志3
1秋田県立大学 木材高度加工研究所, 2秋田県立大学 森林科学, 3秋田県森林技術センター

 スギ天然林の更新には、実生更新のみならず、伏条・立条更新が大きな役割を果たしていると考えられている。特に、日本海側の多雪地域では個体のサイズや立地条件よって、下枝が毎年の雪圧の影響を受けて地面に接し、伏条化することが知られている。本研究ではスギ天然林の更新様式の実態解明を行うことを目的として、秋田県のスギ天然更新林分おいて実生、伏条、立条といった更新様式ごとの遺伝的・空間的広がりを野外調査及びゲノム解析によって調査した。
 秋田県琴丘町上岩川地域のスギ天然更新林分内に、立地条件の異なる2か所の調査区(P1:30×30m、P3:20×20m)を設定した。さらにそれぞれの調査区内に小調査区(PC1、PC3)を設定した。P1及びP3内の樹高1.3m以上のスギ個体について樹種、位置、サイズ等を調査すると共に、針葉サンプルを採取してゲノム解析を行った。ゲノム解析には5種類のマイクロサテライトマーカーを用いた。PC1及びPC3については、全スギ個体を対象に上記の解析を行った。その結果、P1とP3調査区で異なる更新・繁殖構造が認められた。本発表では、これらの更新・繁殖構造の違いと立地環境との関係を検討すると共に、PC1及びPC3の個体を用いて行ったより詳細な更新・繁殖構造の解析結果を報告する。


11:15-11:30

O2-Y08: 葉緑体DNA多型を用いたケヤキの地理的変異の解析

*生方 正俊1, 上野 真一2, 平岡 裕一郎3
1林木育種センター, 2林野庁, 3林木育種センター九州育種場

ケヤキは、本州、四国、九州、朝鮮、台湾、中国大陸に天然分布している、利用価値の高い広葉樹の一つである。天然林の遺伝資源を効果的に保全・管理していく上で,地理的な遺伝変異を明らかにすることは重要である。今回は、ケヤキの葉緑体DNAの多型をPCR-RFLP法を用いて解析した。被子植物においては,葉緑体DNAは,母性遺伝するとされており,種子の散布によってのみ移動が可能であることから,地理的変異を解明するのに適しているといわれ、コナラ属(Petit et al.、1993)、ブナ(Okaura and Harada、2002)、アラカシ(Huang et al.、2002)等を用いた報告がある。
材料は、福島、新潟県から熊本、宮崎県に生育し、林木育種センター本所、関西育種場および九州育種場につぎ木で保存されている320個体と韓国産の9個体、計329個体である。成葉から抽出キットを用いて全DNAを抽出した。葉緑体DNAのatpB – rbcL領域をPCR増幅し、制限酵素Taq_I_で切断した。MetaPhor Agarose(BMA社)ゲルによる電気泳動の結果、日本産320個体中、9個体が他の311個体とは異なるハプロタイプを示した。これらの9個体の産地は、九州の福岡県、大分県、熊本県であり、三県が接する地域に集中していた。さらに韓国産の個体は、すべてこの9個体と同じハプロタイプだった。気候等の変化に伴う地史的なケヤキの分布変遷が、葉緑体DNAハプロタイプの地理的変異に影響していることが示唆された。


11:30-11:45

O2-Y09: マスティングの波及効果:ノルウェー南部で観測された階層的時系列データの解析

*佐竹 暁子1, オッター ビヨーンスタット2, スベラ コボロ3
1京都大学生態学研究センター, 2ペンシルバニア州立大学, 3ノルウェー作物研究所

多くの植物の開花および種子生産レベルは、著しく年変動し個体間で同調することが知られている。これはマスティングとよばれ、ブナ林では5から7年に一度の大量種子生産が観察される。植物の繁殖にみられるこのような時空間変動は、階層間の相互作用を通じて、種子捕食者や寄生者個体群のダイナミックスを左右する。そこで我々は、植物(rowan)ー種子捕食者(apple fruit moth)ー寄生者(wasps)から成る三者系を対象にして、植物のマスティングの波及効果をノルウェー南部で観測された階層的時空間データから読みとった。簡単な個体群動態モデルの解析とロジスティック回帰の結果、植物の繁殖レベルの時空間変動が、numerical responseとfunctional responseの双方を通じて種子捕食者・寄生者個体群の変動を引き起こしていることがわかった。また、種子量の年変動指数(CV)が大きい植物集団ほど、種子の捕食率は低かった。この結果は、植物のマスティングは確固とした適応的基盤を備えているという従来の仮説を支持する。さらに、植物の種子生産レベルにはノルウェー南東部で3年周期、南西部で2年周期の変動傾向があることを示し、繁殖パターンは生息地の環境条件の相違によって、柔軟に変化する可能性を議論する。