2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
  時間順 | 内容一覧


2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
目次にもどる

[要旨集] ポスター発表: 景観生態

8 月 26 日 (木)
  • P1-169: ハルニレの生育適地はどこか?_-_栃木県栗山村土呂部地区の事例_-_ (野宮, 新山)
  • P1-170: 氾濫原プールにおける稚魚生息場利用に関する研究 (山下, 中越)
  • P1-171: 宍道湖の典型的な岸辺生息場における底生無脊椎動物群集 (倉田)
  • P1-172: 沖縄本島東岸における海草藻場の時空間変動に対する陸域生態系の影響 (石橋, 仲岡, 近藤)
  • P1-173: 長野県上伊那地方の水田地域における越冬期の鳥類群集と土地利用との関係 (津森, 大窪)
  • P1-174: 水生昆虫による松本市のため池の評価 -カメムシ目,コウチュウ目,トンボ目を指標として- (山本, 土田)
  • P1-175: 港北ニュータウンにおけるモウソウチク林の分布拡大 (湯本, 倉本)
  • P1-176: 名勝としての海岸マツ林を構成しているクロマツ個体の年輪成長速度 (藤原, 岩崎)
  • P1-177: 温暖化に伴う潜在自然植生の変化 (楠本)
  • P1-178: 景観構造が管住性ハチ類の種多様性に及ぼす影響:武庫川流域における調査 (遠藤, 森島, 勝又, 北垣, 西本, 橋本, 中西)
  • P1-179: 高速道路における中型獣のロードキルと道路周辺環境との関係 (大竹, 飯塚, 佐伯, 藤原)
  • P1-180: 四万十川上流域梼原町FSC認証植林地における強度間伐施業の生態的効果 (木島, 中越)
  • P1-181: 農地における水系の生態学的評価 (足達)
  • P1-182c: 東京湾における海草藻場の長期空間動態 (山北, 仲岡, 近藤, 石井, 庄司)
  • P1-183c: 京都市周辺二次林のマツ枯れ後の動態 (呉, 岡田, 清水, 安藤)
  • P1-184c: ため池のトンボの種構成に及ぼす環境要因の影響 (浜崎, 山中, 中谷, 田中)
  • P1-185c: 景観の変遷とイノシシ被害の広がり (酒井, 中越)
  • P1-186c: 屋敷林の構造_-_地域による相違_-_ (竹原, 村田, 平吹, 福岡, 三浦)
  • P1-187c: 屋敷林と鳥類群集の関係 (村田, 竹原)
  • P1-188c: 長野県白馬村におけるカタクリ,カンアオイ類の生育立地特性とその変化 (藤原, 尾関, 前河)

12:30-14:30

P1-169: ハルニレの生育適地はどこか?_-_栃木県栗山村土呂部地区の事例_-_

*野宮 治人1, 新山 馨1
1森林総合研究所

 ハルニレは、冷温帯河畔林の構成種で、しばしば氾濫原に優占林を形成する。北海道を除けば、目立つ種ではないものの、その分布は鹿児島県にまで広がっている。しかし、氾濫原は平坦かつ肥沃であるため農地利用や開発が進み、歴舟川(北海道)、外山沢川(奥日光)、梓川(上高地)などで報告されている林分を除いて、自然度が高く成熟したハルニレ林を観察することは困難である。そのことが理由の一つとなって、ハルニレの更新特性や生育適地の解明が遅れている。
 そこで演者らは、小さな集落を含んだおよそ16km2の集水域を対象に、比較的サイズの大きなハルニレの分布を明らかにし、地形的な生育適地を考察した。調査地は、栃木県栗山村土呂部地区の全域である。土呂部地区は、9本の小河川が本流の土呂部川に流れ込み、本流周辺の民有地(集落、畑、採草地、人工林、および共有地)を囲むように国有林(人工林、2次林、および天然林)が分布している。施業履歴は比較的明らかで、国有林における大規模な炭焼きは戦前の10年間だけである。
 調査には小型のGPSと簡易測量を併用し、胸高直径40cm(およそ70年生)を超えるハルニレ352個体(MAX = 134cm)の分布を確認した。地形図から小河川の縦断面を作成した。3本の小河川では、河床勾配と氾濫原の幅を測量し、ハルニレの分布と比較した。
 その結果、胸高直径60cmを超える個体は、自然度の高い小河川の下流域や、集落の共有地などに多く残っていた。地形的には、小河川と本流の合流点や、河床勾配が緩傾斜に変わる区間といった、砂礫の堆積作用が卓越する区間がハルニレの生育立地であると考えられた。現在では集落や畑として利用されている土呂部川周辺の氾濫原には、人為の加わる以前であれば、ハルニレの卓越する河畔林が成立していたと推察される。


12:30-14:30

P1-170: 氾濫原プールにおける稚魚生息場利用に関する研究

*山下 慎吾1, 中越 信和1
1広島大学大学院国際協力研究科

氾濫原上には,Backwater,Secondary channel,わんど,たまり,side poolなどと様々な名称でよばれる,主流路とは水理状態の異なる水域が存在し,仔稚魚の生育場や出水時における魚類の避難場所などの生態的機能をもっていることが示唆されている.これらのうち,わんどは河道内に存在する止水域のうち,平水時において流水域に開口部を有する水域,たまりは河道内に存在する止水域のうち,平水時において流水域に開口部のない水域を示すことが多い.わんど(特に,淀川にみられるような水制などにより形成された止水域)における魚類の利用状況や保全対策についてはすでに調査検討されているが,孤立水域であるたまりにおける事例は少ない.千曲川におけるBackwater(ここでは,わんど・たまりの混称として使用)の調査事例では,1年に数回主流路と接続するBackwaterと3_-_4年に1回程度主流路と接続するBackwaterでは魚種構成が異なり,1年に数回主流路と接続するBackwaterの種多様性が高いことが示唆されている.そこで,本研究では,主流路との永続的な連結性がないたまりのなかでも,周年の出水により強い影響をうける一時的孤立水域を,Halyk and Balon (1983) を参照して氾濫原プール (floodplain pool) と称し,稚魚の種多様性を反映する空間指標の探索・提示を行った.まず主要な氾濫原プール内における探索では,昼間はカバーからの距離が近い場所を多種の稚魚が利用することがわかった.また,孤立期間における10箇所の氾濫原プールを対象とした探索では,稚魚種数の予測子として,孤立直後は最大水深など,次の接続直前にはカバーなどが選択された.これらの情報を用いて,氾濫原プールにおける稚魚多様性の空間指標の検討を行った.


12:30-14:30

P1-171: 宍道湖の典型的な岸辺生息場における底生無脊椎動物群集

*倉田 健悟1
1島根大学汽水域研究センター

 島根県東部の宍道湖は斐伊川水系の一部であり、これは大橋川を通じて中海に続いている。日本海から海水が遡上する汽水域であるが塩分は3-4psuと低い。宍道湖の周囲はほとんどコンクリート護岸となっていて、陸上から水域への連続性が遮断されている様子が目につく。しかしながら、中にはコンクリート護岸の前方に堆積した砂浜やヨシ帯などもあり、それらが点在している。また、最近では宍道湖西岸において緩傾斜の堤防が設置され、ヨシを植える市民活動も見られている。本研究では、宍道湖の湖岸をどのような場として保全もしくは修復すればよいか、という問いに答えるため、岸辺における生物群集の役割を評価することを試みた。
 まず、宍道湖全体の湖岸の現況を把握し、様々な「岸辺」を分類・整理して集計する作業を行った。2003年5月にボートで湖内を一周し、デジタルビデオカメラで湖岸を撮影した。全ての映像を見ながら、景観が異なると判断される箇所を区切りとして、その湖岸をカテゴリーに分けて記録した。宍道湖を主な河川の河口を境界とした9つの領域に区分してそれぞれの領域に含まれる湖岸の数を数えた。これらのデータから、宍道湖を特徴づけている「岸辺」の主なパターンを抽出し、各々の機能や成立過程などを考慮に入れて「自然形成型」「防災機能型」「環境配慮型」の3つを調査地点とすることにした。
 次に、調査地点を生息場所としている底生無脊椎動物の群集組成を調べるためサンプリングを行った。
 本研究は(財)河川環境管理財団の河川整備基金助成事業および財団法人 日本生命財団の研究助成によって行われた。


12:30-14:30

P1-172: 沖縄本島東岸における海草藻場の時空間変動に対する陸域生態系の影響

石橋 知佳1, * 仲岡 雅裕2, 近藤 昭彦3
1千葉大学理学部, 2千葉大学大学院自然科学研究科, 3千葉大学環境リモートセンシング研究センター

 近年陸域の改変による沿岸生態系の破壊が深刻な問題となっている。海草藻場は重要な沿岸生態系のひとつであり、河口域に形成されるため陸域の影響を受けやすいと考えられる。そこで本研究においては、マクロなスケールでの研究に有効であるとされるリモートセンシング・GIS(地理情報システム)を用い、海草藻場の時空間変動に対する陸域生態系の影響の解明を試みた。
 研究地として陸域からの赤土流出が問題となっている沖縄本島東岸の海草藻場9地点を選定した。海草藻場の分布、および陸域生態系のデータをGISで解析し、また、赤土流出に関しては既存の資料よりデータを入手した。さらに、海草の種多様性を明らかにするために、現地調査を行い、得られたデータより種数およびシンプソンの多様度指数をさまざまな空間スケールで算出した。以上のデータを多変量解析で分析した。
 調査地には海草7種の生息が確認され、海草藻場面積・種多様性・被度は藻場間で大きな変異が見られた。また過去30年の海草藻場分布データの変遷をGISで解析したが、増加・減少といった一定の傾向は見られなかった。海草藻場に対する陸域生態系の影響に関しては、海草藻場面積との間に有意な相関は見られなかったが、海草の種多様性との間には一部有意な相関が見られた。また、森林面積の変化と海草藻場面積の変化には正の相関が見られた。
 本研究の結果、リモートセンシング・GISが、海草藻場の分布をマクロなスケールにおいて視覚的・定量的に把握する上で有効な手段であることが明らかとなった。また、海草の種多様性や藻場面積の時空間変動に陸域生態系に関する要因が影響を与えていることが示唆された。


12:30-14:30

P1-173: 長野県上伊那地方の水田地域における越冬期の鳥類群集と土地利用との関係

*津森 正則1, 大窪 久美子2
1信州大学大学院農学研究科, 2信州大学農学部

近年、農業形態の変化が農業生態系に及ぼす影響が懸念されているが、そこでの高次消費者である鳥類の群集構造やこれらの影響に関する研究例は少ない。そこで本研究では、長野県上伊那地方の水田地域における越冬期の鳥類群集を明らかにし、鳥類群集と土地利用との関係性について考察することを目的とした。
調査地は立地条件の違いにより、中山間地3地域(山室,上原,小屋敷)、市街地2地域(神子柴,狐島)の計5地域を設定した。
鳥類調査はラインセンサス法を用いて2002年10月上旬から翌年3月上旬に各調査地22回実施した。出現種名、個体数、出現環境と位置、行動等を記録した。土地利用調査を行い、各調査地の土地利用別の面積を計測した。
出現種は、中山間地山室では33種、上原では32種、小屋敷では35種、市街地神子柴では27種、狐島では22種が確認された。全調査地合計で47種11908個体が観察された。TWINSPAN(Hill 1979a)により、調査地は中山間地と市街地に分類され、鳥類は中山間地を特徴づける種群、市街地を特徴づける種群、全調査地に共通な種群に分類された。また鳥類は、出現した環境の割合、採餌行動が観察された環境の割合により、樹林で特に多い、畦畔草地で多い、住宅周辺で多い等、いくつかのグループに分類された。TWINSPANによる分類と環境の割合による分類の結果は対応していた。調査地の土地利用は中山間地と市街地で、特に樹林、住宅の面積が大きく異なっていた。各調査地の土地利用の状況と鳥類相に関連性がみられた。水田地域は多くの鳥類に採餌場所を提供しており、越冬地として機能していた。特定の環境を選考すると考えられる種が観察され、樹林や草地等の環境の重要性が指摘された。


12:30-14:30

P1-174: 水生昆虫による松本市のため池の評価 -カメムシ目,コウチュウ目,トンボ目を指標として-

*山本 恵利佳1, 土田 勝義1
1信州大学 農学部

ため池や水田などに生息する水生昆虫は,生息地の減少や生息環境の悪化により個体数が減少し,保全対策が必要となっている.水生昆虫の生息地の一つであるため池では,護岸改修や水生植物帯の減少,農薬や生活雑排水の流入,魚類の放流,餌生物の減少,生息地間のネットワークの分断などが衰退の要因として指摘されている.
そこで本研究では,水生昆虫の生息状況とため池の環境要因という2つの視点からため池を水生昆虫の生息地として評価し,ため池ごとに水生昆虫の保全目標と維持または改善していくべき環境要因について考察することを目的とした.
調査は長野県松本市の山間部と市街部に位置するため池のうち8ヶ所で行った.水生昆虫の豊かさの指標として生活史の一部または大部分を水中で過ごし,ほとんどの種が肉食性で高次消費者である水生カメムシ目,コウチュウ目,トンボ目(幼虫)を用いた.
水生昆虫の生息状況からの評価では,種数と個体数,大型の高次消費者の種数,種多様性,成虫と幼虫の分布,希少種の分布,各種の出現率の6項目を評価項目とし,各評価項目の結果に1-5点の点数をつけた.ため池の環境要因からの評価では,水生昆虫の生息や衰退と関わりのある要因として構造や水質,水生植物,周辺の土地利用などに関する調査項目を設けた.このうち指標とした種の採集種数や採集個体数などと相関が見られた,水生植物が生育し水深の浅い岸辺の割合,植被率,水生植物の種数,指標とした種の幼虫の採集個体数,の4項目を評価項目とし,各評価項目の結果に1-5点の点数をつけた.
評価を行った結果,山間部のため池では繁殖地や出現率の低い種の生息地となることを目標とし,市街部のため池ではまず始めに出現率の低い種の個体数を増やすこととを目標とすること,ため池の環境要因からの評価において点数の低い評価項目を各ため池における保全対策の重点項目とすることが考えられた.


12:30-14:30

P1-175: 港北ニュータウンにおけるモウソウチク林の分布拡大

*湯本 裕之1, 倉本 宣2
1明治大学大学院・農学研究科, 2明治大学・農学部

1960年以降の燃料革命などの時代の変化に伴い、人々の生活から身近な場所にあり、薪炭生産を目的に利用されてきた雑木林は、その地域資源としての必要性が低下していき管理が放棄されるようになった。同じように竹林も市民の日常生活としての必要性が低下し、管理放棄されるようになった。管理放棄された竹林は分布拡大し、雑木林や畑地や住宅地に侵入することで生物多様性の低下、景観の悪化、経済的な損失などの問題を招いている。現在、自然に分布を拡大しているのは主にモウソウチクPhyllostachys pubescens Mazelである。
そこで本研究では1984年、1992年、2003年の3年代での港北ニュータウンにおける竹林の分布の変遷を把握する。1984年と1992年は航空写真と地形図(1/25000)によって、2003年は踏査によって港北ニュータウン全域に生育している竹林の分布を把握した。竹林群落の面積をGIS(Geographic Information System)で解析し、竹林群落の面積の増減、周辺の土地利用、地形、方位との間に相関関係があるのかを調べた。
竹林群落の面積は1984年は64.65ha、1992年は9.96haと54.69ha減少しており、群落数は1984年は80個、1992年は28個と52個減少していた。しかし、ニュータウンの宅地造成などによる伐採の影響を受けていないと考えられる竹林群落が9個あった。それらの竹林群落の総面積は1984年が1.601ha、1992年が1.948haと0.347ha増加していた。また、それぞれの群落の平均拡大面積は0.347±0.793haであった。
港北ニュータウンに生育している多くの竹林群落は消失または減少していた。しかし、造成の際の影響がなかったと考えられる群落では面積の増加が見られた。残された竹林は住宅地や道路に囲まれているものが多いため、これ以上の顕著な拡大は見られないと考えられる。本発表では2003年の分布も考慮し、周辺の土地利用、地形、方位との相関関係を含め、3年代の竹林の拡大様式の比較を行う。


12:30-14:30

P1-176: 名勝としての海岸マツ林を構成しているクロマツ個体の年輪成長速度

*藤原 道郎1, 岩崎 寛1
1兵庫県立大学 自然・環境科学研究所/兵庫県立淡路景観園芸学校

兵庫県西淡町に位置する慶野松原は,瀬戸内海国立公園に属するとともに名勝としての指定も受けている海岸クロマツの景勝地である.大径木のクロマツは磯馴松(そなれまつ)と呼ばれ,直径は大きく,樹高,下枝高,葉群高がともに低いことが特徴であり,海岸マツ林の重要な要素となっている.しかし,1970年代からのマツ材線虫病などにより,大径木を含むマツの大量枯死が続き,裸地が目立つようになったため,地元関係団体や有志を中心にマツ苗木の植栽活動が続いてきた.ところが,植栽密度が高かったため,形状比,下枝高,最下葉群高の高い個体が増加するとともに,植栽木による大径木のクロマツの被陰も生じてきた.上述のような傾向は,現在多くの海岸マツ林でみられており,多面的機能を持った海岸マツ林を,長期的視点に立ち地域住民主体で適切に維持管理を行う手法が求められている.そこで,名勝としての海岸クロマツ林保全のための維持管理手法および適切な空間配置を提案するために,クロマツ個体の年輪成長速度と発生年代や定着位置との関係を求めた. 80から120年生個体の年平均肥大成長速度は1.4から2.2mmであるのに対し,20から40年生個体では2から6mmと個体差は大きいものの高齢木よりも肥大成長速度は速かった.約100年前はマツの個体数も少なく,風,砂の移動が激しく,マツの成長は制限されていたのに対し,40年ほど前には,マツの密度も高く,防風効果が大きく,風,砂の移動さらに乾燥の影響も少なくなったために,成長速度は速いものと推察された.汀線からの距離と成長速度との間に明確な関係は見出せていないが,今後より詳細な研究を行い成長速度の時空間変異を明らかにしていく予定である.なお,本研究は東京情報大学学術フロンティア推進研究「アジアの環境・文化・情報に関する総合研究」および西淡町受託研究「慶野松原維持管理計画策定事業」の成果の一部である.


12:30-14:30

P1-177: 温暖化に伴う潜在自然植生の変化

*楠本 良延1
1独立行政法人農業環境技術研究所

近年、地球規模での温暖化が進行している。温暖化に伴い潜在自然植生がどのように変化するかの考察を行った。
前回までの発表で、植生の単位性に基づいた群集レベルのアプローチおよび、植生連続性に基づいた種レベルでのアプローチにおいて、神奈川県全域を対象地として野外調査から得られた831地点の自然植生データとGISを用いて、環境要因に基づく潜在自然植生の推定と地図化を行った。過程は(1)自然植生のデータベースを構築。(2)様々な環境データをGISにより作成。(3)植生ベータベースと環境データをロジステック回帰分析により生育モデルを作成。(4)得られたモデルより地域スケールに対応した定量的な潜在自然植生の推定と地図化を行った。
今回は得られたモデルを用い気候の環境変数を操作し、対象地の潜在自然植生の植物群落がどのように変化するかを考察し、温暖化に対する脆弱性の検討を行った。本研究において推定可能な14タイプの植物群落について、ほとんど全てのタイプにおいて温暖化の影響での面積の増減が認められた。特にブナクラスに位置するオオモミジガサーブナ群集、ヤマボウシーブナ群集、イヌブナーブナ群集においては顕著な面積の減少が認められた。そして、種レベルのアプローチにおいても同様の結果を得た。また、幾つかの問題点と課題も明らかになったので報告する。


12:30-14:30

P1-178: 景観構造が管住性ハチ類の種多様性に及ぼす影響:武庫川流域における調査

*遠藤 知二1, 森島 玲奈1, 勝又 愛1, 北垣 優子1, 西本 裕2, 橋本 佳明3, 中西 明徳3
1神戸女学院大学人間科学部, 2小林聖心女子学院, 3兵庫県立人と自然の博物館

管住性ハチ類を利用した保全生物学の研究は、(1)送粉者(ハナバチ類)や捕食者(カリバチ類)など、複数の機能グループを同時に扱えること、(2)営巣ハチ類とそれらに寄生する天敵類からなる被食者-捕食者系を同時に扱えること、(3)簡便に調査でき、かつ結果が短期的な変動要因に左右されにくいことなどから、近年さかんになりつつある。現在まで、これらの管住性ハチ群集が環境の地域特性に応じてどのように構成されているかについて、いくつかの調査が行われてきたが、比較的狭い範囲での調査に限られていた。ここでは、河川の流域全体というやや広い範囲にわたって、さまざまな環境要素を含む景観構造が管住性ハチ類の種多様性や種構成にどのように影響しているかを検討する目的で調査を行った。調査は、兵庫県南東部を流れる武庫川流域を対象に、環境省メッシュマップの2次メッシュを4等分した区画(約4.6x5.7km)内で森林環境を1-3地点任意に選び、37区画合計41地点で管住性ハチ類を誘引、営巣させるトラップを設置した。トラップは内径の異なる竹筒とヨシ筒20本(竹筒トラップ)からなっており、1地点あたり5基のトラップをそれぞれ10-20m離れた立木の1.5-2mの高さに固定した。2002年4-5月にトラップを設置し、同年11-12月に回収するまで野外に放置した。その結果、全体で管住性ハチ類21種1343の巣が得られ、地点あたり平均種数は、5.27種(SD=1.95、レンジ1-9)だった。調査地点を中心として異なる半径(200、400、800、1600m)の円内の森林面積と種数の関係を検討したところ、いずれの空間規模でも森林面積が60%程度を占める地点で種数が最大になり、それよりも森林面積が多くても少なくても種数は減少する傾向があった。このことは、複数の環境要素の混合が種多様度に影響を与えていることを示唆している。発表では、GISにもとづいた分析結果をふまえて報告する。


12:30-14:30

P1-179: 高速道路における中型獣のロードキルと道路周辺環境との関係

*大竹 邦暁1, 飯塚 康雄2, 佐伯 緑2, 藤原 宣夫2
1中電技術コンサルタント(株) 環境部, 2国土交通省 国総研 環境研究部 緑化生態研究室

 本研究では,ロードキルの発生場所を,動物の移動経路が道路によって遮断されている場所,即ちコリドーの設置地点候補ととらえ,生態系ネットワーク構想に資するために,その分布や景観構造の特性を検討することを目的とした。
 中型獣の行動範囲は繁殖年周期に応じて変動するため,ロードキルの発生場所もこれにあわせて変化すると考えられる。演者らの茨城県水戸近郊地域におけるホンドタヌキを対象とした研究では,ロードキル発生地点の季節変化が発生地点周辺の景観分布とホンドタヌキの繁殖年周期に応じた利用空間の変化から説明できることが示唆されている。
 関越自動車道の埼玉県新座市から花園町までの区間(延長65km)では,現地調査から道路法面においてホンドタヌキをはじめとする中型獣の生息痕が広く確認された。また日本道路公団の資料からは,この区間では1999年から2001年までの間に302件の中型獣(イヌ及びネコを除く)のロードキルが記録されており,その多くがホンドタヌキのものであること,発生件数及び分布区間は季節変動を示し,9月から11月に調査区間全域で多発する一方,2月から4月にかけては丘陵地帯に集中していることがわかった。また,9月から11月にかけて広範囲で多発する傾向は,水戸近郊域でも同様であった。
 この季節変動を中型獣の繁殖年周期に対応させて説明するため,調査区間の道路構造と周辺緑地の状態(日本道路公団の資料による)及び道路から1kmの範囲内の植生・土地利用分布(旧環境庁の第2・第3回自然環境保全基礎調査の現存植生図による)を説明変数とし,キロポスト単位で集計したロードキルの多少について判別分析を行った。得られた式に基づきロードキルの発生頻度と環境要素との関連について考察し,水戸近郊域の結果と比較した。


12:30-14:30

P1-180: 四万十川上流域梼原町FSC認証植林地における強度間伐施業の生態的効果

*木島 静香1, 中越 信和2
1広島大学大学院国際協力研究科, 2広島大学総合科学部

FSC(Forest Stewardship Council: 森林管理協議会)の森林認証は環境配慮と経済的効果の2点を両立させるための制度である。本研究では、FSC認証地域における間伐を中心とした人工林の管理が下層植生の生物多様性に与える影響を明らかにすることを目的とした。
調査地は、FSC森林認証を取得した四万十川上流域の高知県高岡郡梼原町におけるおよそ40年生の人工林とし、間伐の頻度に従って、分類した。また、比較対象のために伐採跡植林地、広葉樹混交林、クヌギ植林地を設けた。植生調査は、10m×10mの方形区を設置し、種名、植被率、高さを調査した。地上部現存量の代替として、植被面積×高さによって求めたPVI(Plant Volume Index)を用い、PVI値の大きい種から並べた種順位-PVI曲線を比較した。
最も傾きが大きかったのは、広葉樹混交林であった。また、管理放棄後20年以上経った植林地では、広葉樹混交林に近い傾きを示した。最も傾きが緩やかだったのは、伐採跡植林地で、2回間伐を行った強間伐林、2回目のみ強間伐林も傾きは緩やかであった。また、種数と地上部現存量の総和の関係を強度、頻度、間伐後の年数から比較した。強間伐では、種数、地上部現存量が共に多かった。間伐の頻度に関しても同様の結果が得られた。一方、2回強間伐内における間伐後の年数、及び1回目のみ間伐と間伐なしを比較すると、種数に差はみられず、地上部現存量では、1回目のみのほうが多かった。また、1回目のみと2回目のみを比較すると、2回目のみのほうが、種数が多かった。以上から、地上部現存量には間伐、種数には間伐後の年数が影響しており、種数と地上部現存量が多い状態を維持するためには、強度の間伐及び定期的な管理が必要であることが示された。


12:30-14:30

P1-181: 農地における水系の生態学的評価

*足達 優子1
1広島大学大学院国際協力研究科

水田は、原生自然環境としての湿地と機能的に類似した構造を持っており、多くの野生生物が水田環境を原生自然環境の代替環境として利用してきた.しかし、近年の農地整備により水田の構造は大きく変化し、現在の水田では生物が生存しにくい状況になっている.人と各種の生物が共存しながら好適な環境を維持すること、生物多様性を守りながら生産活動を行うことが広く求められており、土地改良法の改正によって今後の農業農村整備事業では環境との調和へ配慮することが原則とされた.
その個体数が減少してきた種にメダカOryzias latipesが挙げられる.本種は、以前には水田地帯ではどこにでも見られた種であり、水田生態系における食物連鎖を支える上で大きな役割を果たしてきた.しかし、現在ではその数が激減し、絶滅危惧種II類に指定されるまでになった.その要因の一つとして、農地の変化による水路のコンクリート化による水生植物の減少、流速の上昇など様々な問題が挙げられている.そこで、本研究では特にメダカの生息地としての農地の構造について検討することにした.
 本研究では広島県黒瀬町乃美尾地区の水田地帯を対象地とする.本地区は2000年までに圃場整備が行われた地域で、水路はほぼコンクリート水路となっており、本地区のすぐ脇を流れる黒瀬川から用水を引き、排水には灌漑排水だけではなく家庭排水も含まれる.本地区では、圃場整備が行われたにもかかわらず、メダカの生息が確認された.そこで、農事歴に沿って代掻き前、代掻き後、田植え後、中干し後、落水前、落水後にメダカの分布と生息環境調査を行った.
 一年を通して、メダカの個体数は用水路に比べ排水路の方が多く、また、非灌漑期には幹線排水路と土砂吐けで多くの個体が確認できた.これらのことから、水路の構造や機能がメダカの分布に大きく影響していることが示唆された.
本研究ではこの地区の水田地帯において、メダカの生息状況を把握し、メダカが生息する条件を調べることができた.それを踏まえて今後の農地のあり方についての一つの指針を示す.


12:30-14:30

P1-182c: 東京湾における海草藻場の長期空間動態

*山北 剛久1, 仲岡 雅裕2, 近藤 昭彦3, 石井 光廣4, 庄司 泰雅4
1千葉大学理学部生物学科, 2千葉大学大学院 自然科学研究科, 3千葉大学環境リモートセンシング研究センター, 4千葉県水産研究センター

 沿岸生態系における海草藻場の重要性の認識の広がりと共に、その保全や再生の試みが行われつつある。しかし、海草藻場の変動機構の解明は不十分であり、特に広域・長期スケールでの変動機構の解明は、生態系単位での適切な保全策の作成に不可欠である。海草藻場の空間変動に着目した研究は近年増加してきたが、多くは短期間の遷移パターンの解析にとどまっている。一方、リモートセンシングや地理情報システム等の技術の発展に伴い、航空写真等を利用して過去の海草藻場の長期変動を解析することが可能になってきた。
 そこで本研究では、千葉県富津干潟の海草藻場を対象に、既存の航空写真および現地調査を基にRS/GISを用いて、過去20年以上にわたる海草藻場の長期空間動態を解析した。
 現地調査との比較から、海草藻場の分布は航空写真から直径1m程度のパッチの形状・面積まで判別可能であることが確認されたが、海草種(アマモ、タチアマモ、コアマモ)ごとの識別は十分できず、特に小型種が不明瞭になる点も明らかになった。
 1967年から2003年までの藻場面積の経年変化を解析したところ、最大179ha(1986年)から最小60 ha(2001年)まで変異が認められた。分布面積は1970年代の埋め立てにより減少したが、埋め立てを免れた分布域から沖に向かい拡大し、その後の変化はわずかであった。また、藻場の沖側の分布限界が年を追って後退する傾向、および浅い部分のパッチがやや減少する傾向が見られた。
 本研究により、高解像度の航空写真は浅海の藻場の研究に有効な手段であることが示された。面積の変動を引き起こす要因としては、埋め立てに伴う潮流の変化、砂州等の地形変化、さらに東京湾の水質の変化などが考えられる。これらの環境変数と藻場の分布動態との関連性について解析し、海草藻場の広域長期にわたる変動の機構を明らかにしたい。


12:30-14:30

P1-183c: 京都市周辺二次林のマツ枯れ後の動態

*呉 初平1, 岡田 泰明1, 清水 良訓2, 安藤 信3
1京大院・農, 2京大・生態研, 3京大・フィールド研

25年前の京都市周辺林は、斜面下部の一部の広葉樹林を除くと、ほとんどがマツ林で覆われていた。これらの森林は、80年代を中心にマツ枯れによって大きく変化し、斜面下部や中腹では常緑・落葉広葉樹林に、斜面上部や尾根部の標高が高いところに一部マツ林が残るものの、高木種を欠いた広葉樹低質林になっているところも多い。
本研究は京都市周辺林に1978年と1997年に設置した14カ所の調査区でDBH≧4.5cmの樹木の再調査を行い、1997年から5年間の林分構造の変化と成長について考察した。
マツ林(4カ所)、常緑広葉樹林(5カ所)、落葉広葉樹林(5カ所)の林分全体の断面積合計(BA)は、それぞれ9.7-48.2、42.2-51.2、29.6-37.7m2/haとなり、常緑広葉樹林は落葉広葉樹林より大きい値を示した。マツ林は、標高が125mの林分ではBAが9.7m2/haでアカマツのBA相対値が10%、200mの林分では31.1m2/haでアカマツが51%、290mを超える2林分では41.0-48.2m2/haでアカマツが60%前後となり、低標高のマツ枯れがほぼ終了した広葉樹の低質林、マツ枯れが進行している林、高標高のマツ林に分けられた。5年間の林分全体の年成長率はマツ枯れ低質林で3.1%、マツ枯れ進行林で-1.5%、マツ林で3.6-9.8%、常緑広葉樹林で1.0-2.9%、落葉広葉樹林で0.4-1.5%となり、マツ林>マツ枯れ低質林>常緑広葉樹林>落葉広葉樹林>マツ枯れ進行林、となる傾向が伺えた。また、1978年ではマツが混交していたが、1997年には消滅していた常緑・落葉広葉樹林は、マツが混交していなかった林と比較して全体に林分成長率は高く、未だマツ枯れの影響が認められた。マツ枯れ低質林・マツ枯れ進行林・マツ林では混交するソヨゴ、コナラ、常緑広葉樹林ではサカキ、シロバイ、コナラ、落葉広葉樹林ではナナメノキ、アラカシなどの常緑樹の成長が優れる傾向がみられた。


12:30-14:30

P1-184c: ため池のトンボの種構成に及ぼす環境要因の影響

*浜崎 健児1, 山中 武彦1, 中谷 至伸1, 田中 幸一1
1農業環境技術研究所

 ため池は、農業用水を確保するために人為的に整備された水域であるが、灌漑機能だけでなく、様々な生物の生息環境としても機能している事例が報告されている。近年、農業形態の変化や都市化の進行にともない、放棄されるため池や消滅するため池が増加する一方で、ため池の生物保全機能を生かし、水辺の生物多様性を回復させる試みが各地で行われている。ため池に生息する生物の中には、周辺の環境に依存する種も含まれており、池内やその周辺環境と生物群集との関わりを明らかにすることは、生物多様性を保全、回復するうえで重要な課題となっている。現在、日本には、189種のトンボが生息しており、そのうち、約80種はため池を主な生息場所としている。幼虫は水中で生活し、成虫になると周辺の林地や草地を利用するとされているが、どのような環境をどの程度必要としているのか、群集を対象として研究した例は少ない。そこで、本研究では、ため池に出現するトンボ群集を材料として、ため池の環境要因および周辺の土地利用がトンボの種構成に及ぼす影響について解析した。
 茨城県南部のため池21カ所において,トンボ成虫の種数および個体数を5月から8月まで毎月1回ずつ調査した。また、環境要因として、各ため池の水質および外来魚密度、池内の抽水・浮葉植物の被覆率を調べた。さらに、GISを活用して、ため池の周囲500m以内の土地利用割合を1/2,500都市計画図から抽出した。これらのデータを基に、DCA(Detrended Correspondence Analysis)を用いてトンボ種とため池を序列化し、環境要因との関係を解析した。その結果、DCA第1軸は、ため池の周囲25-500m以内の森林面積と正の相関を示し、400m以内の畑地面積、500m以内の住宅地面積および池面積と負の相関を示した。薄暗い環境を好むモノサシトンボやオオシオカラトンボでは同軸と正の相関が、開放的な環境を好むウチワヤンマやシオカラトンボでは負の相関が認められ、各種の生態特性に対応する結果となった。


12:30-14:30

P1-185c: 景観の変遷とイノシシ被害の広がり

*酒井 将義1, 中越 信和1
1広島大学・院・国際協力

山陽地方におけるイノシシ、シカ、クマなどの大型哺乳類は近年まで瀬戸内海沿岸部では見られなかった。これは、戦中・戦後の山林利用・開発により人間の活動が内陸にまで及んだ結果これらの生息域を中国山地の奥へと追いやっていたことが理由として挙げられる。しかしこの数十年で中国山地において、特にイノシシによる農作物の被害が頻出するようになり、現在では瀬戸内海沿岸や海を渡った先の島嶼にまで多くのイノシシが出現している。イノシシの個体数推定と管理計画策定の試みは各地で行われているが、産子数も多く雑食で環境も強くは選ばない特性を持つため芳しい結果を挙げていない。本研究では個体数推定による分布から生態を研究する手法をとらず、イノシシ被害を景観構造から説明することを目指すこととする。これは山中に生息している個体数よりも、人里と接触する機会の多さの方が農作物の被害に大きく影響を与えていると考えられるためである。広島県倉橋町は他市町村に比べイノシシ被害の大きい町で、本町において“イノシシが人里と接触する機会の多さ“を人口・農家数・道路密度・土地被覆状況などから推定し、イノシシの捕獲頭数との関連を調べた。捕獲頭数の多い地域は農家数も多く、道路が入り組んでいるところの耕作放棄地が多かった。次にこの傾向をもとに広島県全体を”接触の機会“で色分けし、実際の捕獲頭数と比較した。1979,1980,2000年のLandsat衛星画像を用いて各市町村における現在の土地被覆に至る過程にも注目した。また、現在行っている各市町村へのアンケート調査がまとまれば、全県的に大字単位で”接触の機会“と被害との比較を行い、また時系列を追った農作物被害の拡大からイノシシの分布域の広がりをとらえ、その地域別景観構造の特徴による説明も試みる。さらに、これらから今後の地域別被害予測や”接触の機会“を最小限に抑える農村計画の提言をしたい。


12:30-14:30

P1-186c: 屋敷林の構造_-_地域による相違_-_

*竹原 明秀1, 村田 野人1, 平吹 喜彦2, 福岡 公平2, 三浦 修3
1岩手大学人文社会科学部, 2宮城教育大学教育学部, 3岩手大学教育学部

 屋敷林とは家屋を取り囲むように敷地内に設けられた樹木群で,厳しい気候や自然災害などから家屋を守ること(防風・防砂・防備機能),燃料や建築材を確保することなどを目的として作られた森林である。特に季節風が強い地域や扇状地,沖積平野などにみられ,散居村では「緑の島」を形成している。
 本研究では,農村地域における屋敷林の役割を生物多様性の維持や創出機能という視点から明らかにすることを目的としている。ここでは典型的な屋敷林がみられる4地域(岩手県胆沢町,山形県飯豊町,富山県砺波市,島根県斐川町)において,毎木調査や植生調査,聞き取り調査を行った結果を報告する。
 それぞれの地域の屋敷林の特徴は次のようである。胆沢町:イグネと呼ばれ,北側と西側に配置され,大規模なものが多い。飯豊町:特別な名称はなく,西側に配置され,家屋が視認できる程度に列植されている,砺波市:カイニュウと呼ばれ,南側と西側に配置(北側もある)され,家屋が視認できない程度に列植されている。斐川町:ツイジマツと呼ばれるタイプがあり,北側と西側に配置され,生垣状に刈り込む。
 各地域の屋敷林を構成する樹木は胆沢町(調査地9ヵ所)で総出現種数42種,屋敷あたり平均13.3種,飯豊町(10ヵ所)で44種,9.8種,砺波市(5ヵ所)で54種,17.8種,斐川町(4ヵ所)で29種,8.8種であった。出現頻度が高い上位の樹種は胆沢町でスギ,クリ,ホオノキ,飯豊町でスギ,クリ,アカマツ,砺波市でスギ,カキノキ,ウラジロガシ,斐川町でモチノキ,クロマツ,マテバジイであった。照葉樹林帯に属する斐川町を除き,夏緑広葉樹林帯に属する3地域ではすべての屋敷でスギに出現し,優占種でもあった。スギのように植栽された樹種を除く,各地に出現する植物群はその地域の潜在植生の要素が含まれ,多様な植物から屋敷林は構成されていることがわかった。


12:30-14:30

P1-187c: 屋敷林と鳥類群集の関係

*村田 野人1, 竹原 明秀1
1岩手大学人文社会科学

屋敷林は主に防風のために家屋の背後に植林されたもので、農耕地が広い面積を占める農村地域において鳥類をはじめとする様々な生物の生息場所として重要な役割を果たしている。しかし、燃料や肥料の供給場所という屋敷林の役割は大きく減少し、下草刈りや間伐などの管理は行われなくなり、そこに生息する鳥類群集にも大きな変化が生じていると考えられる。そこで、本研究では農村地域において、繁殖期と越冬期の鳥類群集を調査し、比較を行った。これらは屋敷林を鳥類の生息地として評価する際に必要となる基礎的データの蓄積となる。調査は散居からなり、多くの屋敷林が点在する岩手県胆沢扇状地で行った。調査地は屋敷林4ヵ所と扇状地周辺の二次林2ヵ所を選出した。鳥類の観察はプロットセンサス法を用いて2001年8月、10月、2002年2月、6月の4回各調査地ごとに終日、調査を行い、種名、個体数を記録した。全調査中に26科53種が記録された。そのうち屋敷林を訪れた鳥類は22科34種、二次林を訪れた鳥類は15科29種であった。屋敷林では森林に生息する樹林型鳥類(ヒガラ、カケスなど)と比較的開けた環境を選好する鳥類(カワラヒワ、スズメなど)の両方が見られ、二次林よりも訪れた種数と個体数が多かった。また、屋敷林の種多様度は繁殖期よりも越冬期のほうが高い傾向がみられた。これは越冬期、二次林などの樹林型鳥類が屋敷林に移動したために種数と個体数がいずれも増加したことによると考えられる。以上の結果屋敷林は樹林型鳥類と開けた場所を選好する鳥類の生息地となり樹林型鳥類の越冬地としての役割を持つことが示唆された。


12:30-14:30

P1-188c: 長野県白馬村におけるカタクリ,カンアオイ類の生育立地特性とその変化

*藤原 直子1, 尾関 雅章2, 前河 正昭2
1豊橋市自然史博物館, 2長野県環境保全研究所

 長野県白馬村はギフチョウ(Luehdorfia japonica)とそれに近縁なヒメギフチョウ(Luehdorfia puziloi)の混生地として知られ,両種は村の天然記念物に指定されている.また,ギフチョウは本州の固有種であり国のレッドリストで絶滅危惧_II_類とされている.白馬村においてはこれら2種のチョウの保全を目的とした基礎調査として,これまでにギフチョウの食草であるミヤマアオイ(Asarum fauriei var. nakaianum),ヒメギフチョウの食草であるウスバサイシン(Asarum sieboldii Miq.),また両種の吸蜜植物として重要なカタクリ(Erythronium japonicum Decne.)の分布調査が行われてきた.そこで,1990年_から_1994年に行われたこれらの分布調査結果から,ギフチョウ・ヒメギフチョウの食草および吸蜜植物の生育立地特性を明らかにするとともに,2001年_から_2004年にかけて生育状況の再調査を行い,約10年間での変化の要因について解析を試みた.なお,これらの植物の生育状況の変化は,白馬村の里山の環境変化を指標するものとして意義あるものと考えられる.1990年_から_1994年に行われた分布調査では,白馬村平野部におけるカタクリ,ミヤマアオイ,ウスバサイシンの生育地点が踏査によって確認された.2001年_から_2004年にかけて,過去に調査対象種が確認された約50地点を再調査し,生育地の植生および対象種の個体数・開花の有無などの生育状況を確認した.再調査地点中に,個体数が減少もしくは消失した例が複数確認された.カタクリの生育地では10地点で生育が再確認できなかったが,要因として道路や別荘などの造成,遷移の進行が原因と考えられるものがみられた.各植物の生育立地特性についてはGISを用いて分析し,生育状況の変化と立地特性の相関を検討した.