2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
  時間順 | 内容一覧


2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
目次にもどる

[要旨集] 公募シンポジウム S10

8 月 26 日 (木) シンポジウム概要
  • S10-1: 北川の高水敷再形成プロセスから見た河川管理上の課題 - 高水敷掘削を伴う多摩川の修復との違い - (福島)
  • S10-2: 北川本村地区における砂州変化と出水との応答 (杉尾)
  • S10-3: 北川河川改修事業地における植生回復 (矢原)
  • S10-4: 北川におけるカワスナガニの生息環境と保全 (楠田)
  • S10-5: 河川敷に棲む中型ほ乳類の土地利用様式と、工事による影響の評価 (岩本)
  • S10-6: 第1フェーズを振り返って (小野)

14:30-17:30

S10-1: 北川の高水敷再形成プロセスから見た河川管理上の課題 - 高水敷掘削を伴う多摩川の修復との違い -

*福島 雅紀1
1国土技術政策総合研究所 河川研究室

近年,洪水時の流れや河道地形変化などの物理的作用が植生の繁茂,遷移や流失などに与える影響とその仕組みに関する研究が進められている.その結果,特定の生物種やハビタットといった個別対象だけではなく,様々な仕組みが連動することで自律的かつ持続的な生物生息・ハビタット形成を可能とする系として捉えられる河川のシステムも保全する必要があるとの認識が広がりつつある.1997年 9月の大洪水(ピーク流量:5,000m3/s)を契機として河川激甚災害対策特別緊急事業に採択された北川では,環境に配慮しつつ治水を目的とした河川改修が行われた.河道の流下能力を確保するため,高水敷の掘削,築堤,樹林の伐採などが全川的に実施された.本研究では,このように大規模な河道掘削が行われた北川を対象として,河道の変化と植生群落の変化を相互に関連するシステムとして捉え,河道掘削後の河川敷の将来像を予測した.具体的な調査・検討項目としては,(1) 航空写真による砂礫堆の形成と拡大過程の調査,(2) 地層構造調査と炭素年代測定を用いた高水敷の形成過程の調査,(3) 河道の変化,特に河床材料の変化に伴う植生分布の変化の調査,(4) 河床材料や河川敷に繁茂する植生に作用する洪水流の大きさを表す掃流力の掘削前後での比較検討を行った.その結果,掘削後の数年・十数年・数百年スケールでの河川敷の将来像を予測した.さらに,掘削された高水敷には十年程度でツルヨシやヤナギが繁茂する状態が長期間継続することが予測され,拡幅された河道の粗度が増加し,治水上必要な河積が不足することが懸念された.そこで,十年を目途に樹林の伐採を行うなどの河道管理の必要性が示された.また,土砂収支のバランスの点で北川と対照的な多摩川永田地区での河道修復事業を対象として,北川における河川改修との違いについても言及した.


14:30-17:30

S10-2: 北川本村地区における砂州変化と出水との応答

*杉尾 哲1
1宮崎大学 工学部

北川の激特事業においては,河川生態系への影響をできるだけ少なくするために,低水路の掘削はできるだけ避けて,河積の拡大は高水敷の掘削や高水敷上の樹木の伐採によって行われた.その計画案の検討段階では,高水敷を形成する砂州の地形変化および植生の回復については,洪水の流量規模と関係付けた予測ができなかった.しかし,高水敷掘削や樹木伐採を計画する場合に,これらの実施後に砂州の地形および植生域が自然の流量変動に伴ってどのように変化するのかを流量規模を基に予測することは,将来の河川形態を検討する上で極めて重要である.
 本研究では,本村地区と川坂地区の砂州を対象として,出水の前後の砂州の地形変化や砂州上の植生域の変化をモニタリングすることによって,出水時の流れや流量規模などと関連付けることによっていろいろと検討している.ここに,本村地区の砂州は激特事業では高水敷が掘削されなかったが,川坂地区の砂州は高水敷が掘削されている.
 本発表では,本村地区の砂州について,砂州の地形変化および植生の繁茂と破壊を年最大流量と関係付けて説明できた成果を示す.解析に用いた資料は,熊田流量観測所で観測された1955年以降の48年間の流量と,1967年以降に撮影された12枚の航空写真,および砂州の5断面において採取された砂州内の砂礫の鉛直方向の粒径分布の測定結果である.これらの資料から,本村地区における最近35年間の砂州地形の履歴が理解できた.また,砂州上の植生による被覆状況と年最大流量との関係を解析した結果,植生の回復と破壊が繰り返されている様子が理解できた.特に,2,300 m3/sを限界流量として砂州上の植生による被覆状況が変化している結果が得られた.ここに,北川の平均年最大流量は1,850 m3/sであることから,本村砂州においては,平均的には植生の量が増加することが分かった.


14:30-17:30

S10-3: 北川河川改修事業地における植生回復

*矢原 徹一1
1九州大学大学院理学研究院生物科学部門

宮崎県北川の大規模河川改修事業地では、治水効果の達成と生物多様性保全の両立をはかるためのさまざまな試みが実施された。私の講演では、とくに高水敷掘削後の植生回復をとりあげて、保全・復元的手法の成果を紹介する。高水敷掘削は植生への影響がもっとも大きな河川工事であり、全面的な掘削を行えば、工事後に外来植物中心の遷移が進む。しかし、掘削地に隣接する河岸植生を残すことで、在来種を中心とした遷移を進めることができる。また、平水位以下まで掘削し、ヨシを移植した場所では、ヨシ原の土壌中の種子からさまざまな在来種の発芽が見られ、植生回復も早く進行した。このような保全・復元手法と、徹底した植物の分布調査・個別的な保全措置を組み合わせることで、大規模河川工事下でも、植物の種多様性の保全をはかることが可能である。


14:30-17:30

S10-4: 北川におけるカワスナガニの生息環境と保全

*楠田 哲也1
1九州大学大学院工学研究院環境都市部門

宮崎県五ヶ瀬川水系北川の感潮域に生息する希少種(後にデータ不足種)のカワスナガニを保全することを目的として、個体の分布状況、選好性、忌避性、生活史、生息環境、成体の掃流耐性等を明らかにするために行った現地調査および室内実験の結果を報告する。現地調査を2001年より実施し、2ヶ月間隔で河口より400mごとに感潮域限界の7km地点まで、両岸から流心に向けて最大3ヵ所にてコドラート調査を実施した。調査項目は、カワスナガニの存在数、甲幅、性別、抱卵の有無、その地点の粒径、塩分、水温である。なお、調査開始時に水質を調査し、BOD5は1mg/L以下、重金属等の有害物質はないことを確認した。次いで、カワスナガニの生息環境に影響を及ぼす環境因子を調査結果から河床材料の粒径、塩分、水温とし、HSI(Habitation Sustainability Index)モデルを用いて、これらを統合して生息環境を評価した。さらに、感潮域の流況を再現するために水理シミュレーションを行った。
これらによる主な結論は以下のとおりである.
1)カワスナガニは、北川感潮域の河口から4.8から6.8kmの領域に多く分布する。
2)カワスナガニの全数は40から356万個体の範囲で変化しており、全体としては減少傾向にある。
3)個体は夏季に成長・産卵し、冬季に減少する。
4)選好性・耐性の高い生息条件は以下のとおりである;幼生:海水、15℃以下の低水温;成体:汽水から淡水の低塩分、甲幅の2から3倍の大きさを有する礫床、18から20℃程度の水温を好む。
5)カワスナガニはゾエアI齢の状態で孵化し5期のゾエア期を経て最短で孵化後38日でメガロパ幼生となった。メガローパ幼生以降の生育に未だ成功していない。
6)成体は、ほとんどが最大生息密度の1/3程度で生息している。


14:30-17:30

S10-5: 河川敷に棲む中型ほ乳類の土地利用様式と、工事による影響の評価

*岩本 俊孝1
1宮崎大学教育文化学部

本研究は、新開発の自動方探マルチテレメトリ(MTS)を使い、宮崎県北川河川敷に生息する中型ほ乳類の自然条件下及び工事施工時での行動を追跡することによって、ほ乳類各種の工事進行に伴う行動様式の変化、及び環境要素に対する選好性の変化を分析することを目的として行われた。
 研究対象地である的野河川敷周辺では、2002年1月から河川敷の南半分の掘削工事がはじまり、2002年10月から残りの北半分の掘削工事が始まった。MTSを使っての研究が開始された2000年7月から、ウサギ、タヌキ、イタチの行動追跡が行われたが、そのうち工事の影響を分析できる追跡結果が得られたのは、イタチ1頭、タヌキ2頭についてであった。また、動物をMTSで追跡すると同時に、作業従事者及びトラックや重機にGPSを取り付けその移動を毎日経時的に記録して、工事の進行に対応した騒音・振動の分布図を動物の行動圏内で作成した。さらに、その騒音・振動分布と動物の行動軌跡を重ね合わせ、動物がどのように工事現場を回避するかを分析することができた。
 その結果、(1) タヌキは工事が行われていない夜間においても、明らかに工事現場は回避していること、(2) しかし、工事が始まって数日以内に、好奇心にかられてだと思われるが、工事現場の中を訪問することがあること、(3) タヌキ・イタチともに昼間の滞在場所(休息地)としては、騒音・振動の少ない場所を選んでいること、(4) ただ、多少騒音・振動が大きくても隠れ場所として好適なブッシュがある場合はそこを利用すること、などが明らかになった。そこで、工事現場周辺における騒音、振動分布及び植生分布を元に、タヌキがどこを利用するか予測できる行動モデルを作成して、実際のタヌキの方探結果を比較したところ、よい一致を見ることが出来た。これを今後の工事アセスに利用できる可能がある。


14:30-17:30

S10-6: 第1フェーズを振り返って

*小野 勇一1
1いのちのたび博物館

北川では「激甚災害特別法」に基づき平成9年度より集中して河川改修がおこなわれ,平成15年度で一応終了した.この大規模な河川改修が河川の生態系に与える影響の評価手法や生態系・生物種の保全対策についての知見を得るためにインパクトアセスメントを行った.これは河川生態学術研究会の研究目的の主として旧版の_IV_に合致する内容である.北川研究グループは約15名で構成され,護岸工事,それに伴う植生の伐採や改変,高水敷掘削などによる河床変動,掘削による生物生息地の消失,水質などの変化やその水生生物への影響など多岐にわたる研究テーマについて研究してきた.河口部分が研究地に含まれているのは河川生態学術研究会では唯一のグループである.サブグループとしては植性の変化,砂礫の移動と植生との関連,環境改変に伴うほ乳類の動き,河口域の環境の変化の4つをたてた.現在第1フェーズは報告論集としてとりまとめ中であり,旬日の内に公表する予定である(CDとして配布の予定).今回は論集のうちの一部を本シンポジウムで発表する.