2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:54 更新
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[要旨集] 公募シンポジウム S12

8 月 27 日 (金) シンポジウム概要
  • S12-1: 霞ヶ浦湖岸植生再生事業を活用した土壌シードバンクの研究 (西廣, 西口, 鷲谷)
  • S12-2: 個体群の再生事業を通じた絶滅危惧種の生態的・遺伝的特性の解明 (高川, 西廣, 鷲谷)
  • S12-3: 湖沼生態系の再生に必要な研究ー釧路湿原達古武沼再生への取り組みから (高村)
  • S12-4: 自然条件下での外来種除去実験_から_深泥池における外来魚個体群と群集の変化 (安部倉, 竹門, 野尻, 堀)
  • S12-5: 標津川自然再生事業で取り組む基礎,応用研究 (河口, 中野, 中村)
  • S12-6: 小清水原生花園における火入れによる植生再生と管理 (津田, 冨士田, 安島)

09:30-12:30

S12-1: 霞ヶ浦湖岸植生再生事業を活用した土壌シードバンクの研究

*西廣 淳1, 西口 有紀1, 鷲谷 いづみ1
1東京大学農学生命科学研究科

 絶滅危惧植物個体群の再生や生態系修復事業の立案においては、土壌シードバンクの種多様性や密度に関する知見が不可欠である。土壌シードバンクは一般に不均一性が高いため、それらの把握のためには大規模な実験が必要になる。本研究では、霞ヶ浦で開始された土壌シードバンクを用いた植生再生事業を、大規模な生態学的実験と捉え、シードバンクから再生できる種の範囲、種の多様性の高い湖岸植生帯を再生させるために必要な環境条件、土壌シードバンクの組成を把握するために必要な実験規模を検討した。
 霞ヶ浦の湖岸植生帯再生事業は、コンクリート護岸化によって植生帯が喪失した場所に植生帯の基盤となるゆるやかな起伏のある地形を造成し、その表層に土壌シードバンクを含むと予測された湖底からの浚渫土砂をまきだすという手法で行われた。事業を開始した2002年のうちに、事業地(合計 約65,200m2)では、レッドデータブック記載種6種および霞ヶ浦の地上個体群からは近年消失していた沈水植物12種を含む、合計181種の植物が出現した。沈水植物や湿地性の植物は地下水位10_から_-30cm程度の範囲内で、沈水・浮葉・抽水・湿地性植物といったタイプ毎に特異的な比高の場所に定着した。最も多様な種が出現した地下水位0_から_10cmの比高範囲において、調査面積と出現種数および種毎の個体密度の関係を分析したところ、出現種の把握には12m2、密度の調査には10m2のまきだし面積が必要であることが示唆された。
 本事業および事業と深く結びついた研究により、霞ヶ浦における湖岸植生の再生、湖岸植生の再生手法の開発、これまでほとんど研究されてこなかった湖底の土壌シードバンクに関する基礎的知見の蓄積が、同時に満たされつつある。


09:30-12:30

S12-2: 個体群の再生事業を通じた絶滅危惧種の生態的・遺伝的特性の解明

*高川 晋一1, 西廣 淳1, 鷲谷 いづみ1
1東京大学 農学生命科学研究科

 絶滅危惧種の個体群の保全・再生のためには衰退要因の解明が必要であり、問題となっている生活史段階とその環境要求性の解明が欠かせない。しかし多くの場合本来の生育環境条件は既に喪失しており、環境要求性を明らかにするには何らかの操作実験が必要となる。また保全対策は、対象種に関する知見が限られている状況でも早急に講じる必要がある。そのため、現在の知見から環境要求性に関する最良の仮説を構築し、科学的「実験」として保全対策の実施・モニタリング・評価を行うことで、個体群再生を図りつつ仮説を検証するというアプローチが最も有効となる。
 国内最大の個体群が存在した霞ヶ浦のアサザ(絶滅危惧_II_類)は、1996年からの急激な衰退により現在絶滅の危機に瀕している。一部の湖岸では個体群消失後も土壌シードバンクから実生が出現しているが、それらは全て定着に失敗しており、定着適地の環境条件の解明が課題となっていた。アサザの定着適地はその発芽特性から、「湖の季節的水位低下で水面から露出する裸地的環境」であると推測されている。この仮説に基づき、実生出現密度の最も高い湖岸において、裸地的環境を含む地形の造成と消波構造物の設置が2001年に行われた。演者らはこの場を利用して、推測される定着適地の環境を含む様々な波浪・冠水・光条件下での生存率・成長を比較した。その結果、実生定着には冠水頻度が低く明るい環境が必要であることが明らかとなり、仮説が検証された。
 事業により実生定着が実現したが、シードバンクからの再生は失われた遺伝子型の回復が可能である反面、ボトルネックによる遺伝的多様性の減少や近交弱勢の顕在化が懸念される。演者らは現在、系統保存株での受粉実験から得た子孫と野外の実生集団の適応度の測定および遺伝解析を行うことで、今後再生される個体群における遺伝的荷重の影響の検討を試みている。


09:30-12:30

S12-3: 湖沼生態系の再生に必要な研究ー釧路湿原達古武沼再生への取り組みから

*高村 典子1
1国立環境研究所

 環境省が行っている釧路湿原の自然再生事業に東部3湖沼(シラルトロ湖、塘路湖、達古武沼)が取り入れられた。演者は、阿寒湖町エコミュージアムセンター、道環境科学研究センター、道立孵化場、北大、北教大の研究者らと、平成15-16年度、達古武沼の環境劣化の原因究明とその対策を明らかにするための調査研究を実施している。本調査研究は、達古武沼の再生を流域全体で考える姿勢が貫かれている点に大きな特徴がある。調査結果をもとに、湖沼再生の目標設定、再生のために必要な適切な処置や事業の提案、事業効果の監視手法の検討などが行われる予定である。
 日本の湖沼研究は「湖沼学」として約100年前に始まった。戦後、IBPの生産生態学、富栄養化の機構解明や防止・対策の研究を通して、この30年間に大きく進展したといえる。また、幾つかの湖沼では、水質やプランクトンのモニタリングデータの蓄積がなされてきた。現在の湖沼科学は、富栄養化問題の克服の過程で、築き上げられてきたように思える。が、残念ながら、この間、水質の改善が実現されないままに、沿岸域の破壊、水位管理、外来漁の侵入、温暖化、化学物質など、富栄養化以外の撹乱の影響も顕在化してきた。また、これまでの研究の成果が、湖沼保全や管理に生かされるようなしくみが作られてきていない。湖沼は、すでに人為的な改変を大きく受けており、治水やその利用においては、漁業者、農業者、周辺住民など、多くのstakeholdersをかかえ、その管理方法に関して合意形成が難しい場でもある。湖沼科学は、自然再生事業を通し、より広範な総合的科学としての発展が望まれている。


09:30-12:30

S12-4: 自然条件下での外来種除去実験_から_深泥池における外来魚個体群と群集の変化

*安部倉 完1, 竹門 康弘2, 野尻 浩彦3, 堀 道雄1
1京都大学理学部動物生態学研究室, 2京都大学防災研究所水資源研究センター, 3近畿大学農学部水産学科水産生物学研究室

 「自然再生法」や「外来生物規制法」によって今後,外来生物除去や在来生物群集の復元事業が各地で行われると予想される.これらは,通常野外で実施困難な「特定種の除去実験」に見立てることができる.すなわち,事前・事後のモニタリング調査を有効に計画・実施することによって個体群生態学や群集生態学の課題解明に活かすことが期待できる.
 本研究では天然記念物である深泥池(約9ha)を野外実験のサイトに選んだ。深泥池には、低層湿原とミズゴケ類の高層湿原が発達し多数の稀少動植物が共存している。ところが、外来種の密放流により生物群集が激変したことが判ったため、1998年からブルーギルとオオクチバスの除去と生物群集調査を実施している.本研究の目的は、1)深泥池における外来魚侵入後の魚類群集の変化、2)1998年以後のブルーギル、オオクチバスの個体群抑制効果、3)外来魚の侵入直後、定着後、除去後の底生動物群集の変化を示すことである。深泥池では、1970年代後半にオオクチバスとブルーギルが放流された後、12種中7種の在来魚が絶滅した。1998年に約84個体いたオオクチバスは、除去により2001年には約37個体に減った。1999年に7477個体だったブルーギルは,2003年時点で4213個体とあまり減っていない.そこで,内田の個体群変動モデルを適用した結果,個体数の95%を除去し続ければ、最初5年間は減らないが、2004年以降減少すると予測された。
 底生動物群集では、ユスリカ科とミミズ類が1979年以後増加した。1979年に沈水植物群落に多く生息していたヤンマ科やフタバカゲロウは1994年には減少し,抽水植物群落に分布を変えた。イトトンボ科,モノサシトンボ科,チョウトンボ,ショウジョウトンボは2002年に増加した。毛翅目は1979年以降激減し種多様性も減少した。2002年にムネカクトビケラが増加したが種多様性は回復していない。野外条件における「特定種の除去実験」に際しては,他の人為影響の排除が望ましいが,保全のために必要な他の生態系操作との調整が今後の課題である.


09:30-12:30

S12-5: 標津川自然再生事業で取り組む基礎,応用研究

*河口 洋一1, 中野 大助2, 中村 太士2
1(独)土木研究所自然共生研究センター, 2北海道大学大学院農学研究科森林管理保全学講座

約50年前,標津川は蛇行を繰り返しながら流れ,下流には大規模で未開拓な湿原が広がっていた.しかし,その後河川改修が進み,1970年代後半までに下流域の蛇行河川は直線化され,治水安全度の向上と地下水位の低下に伴い,周辺湿地が牧草地化された.河道の直線化ならびに湿原の消失に伴い大径木は湿地から姿を消し,現在の標津川周辺ではヤナギ類を中心とした小径の河畔林が見られる.このような環境の変化に伴い,標津川にいたイトウやアメマスといった魚や,大径木に営巣するシマフクロウの姿が見られなくなってきている.地元住民からは,昔,ふつうにみられたこのような生物が棲め,サケ・マスの自然産卵がみられるかつての標津川を取り戻したいという要望が出され,行政が応じる形で蛇行河川と氾濫原復元を目的とした自然再生事業が標津川で始まった.
自然再生事業の対象は下流約4kmの区間で,直線化された河道周辺に現存する旧川(河跡湖)を利用した蛇行流路の復元が計画されている.しかしながら,国内で初めての大規模な蛇行復元であり,技術的検討を要する事が多いため,まずは一つの旧川と直線河道を連結させ,生態学や河川工学等異なる分野の研究者が調査を実施することとなった.この取り組みは試験的蛇行復元と位置づけられ,2002年の春に行われた.今回は,蛇行流路の復元前後に,直線河道と旧川(再蛇行区)で実施した調査結果(水生昆虫,魚類,物理環境)について発表する.直線や蛇行といった河道形態の違いと河道内の縦横断構造の関係,そして水生生物の分布状況を示し,現状での蛇行復元の評価を試みる.さらに,一連の調査で示された現在の蛇行復元区間の問題点を改善するため,今年から取り組みだした倒木投入による水生生物の生息環境改善についても説明する.
今回の発表は,北海道の自然や河川環境の保全,そして自然再生事業に興味を持っている若い人達に聞いてもらいたいと考えている.


09:30-12:30

S12-6: 小清水原生花園における火入れによる植生再生と管理

*津田 智1, 冨士田 裕子2, 安島 美穂3
1岐阜大学, 2北海道大学, 3東京大学

 小清水原生花園は涛沸湖とオホーツク海の間に発達した砂州上の海岸草原で,かつては色彩豊かな花を着ける植物が高密度で生育し,夏には美しい風景が広がっていた.その景観の美しさから1950年代には北海道の名勝や網走国定公園に指定された.その後,蒸気機関車の廃止にともなう野火の減少や家畜放牧の中止など,攪乱要因の排除により1980年代後半頃にはかつてのような百花繚乱の風景を見ることが難しくなってきていた.鮮やかな色彩の花を着けるハマナス,エゾスカシユリ,エゾキスゲなどに替わりナガハグサ,オオウシノケグサ,オオアワガエリなどの移入されたイネ科牧草類が繁茂し,原生花園とは名ばかりの状態に陥っていた.われわれのグループは北海道の調査委託を受け,1990年5月に小面積の野焼きを実施し,その年の夏に植生を中心としたデータ採取をおこなった.しかしながら,たった1回の火入れ実験では研究としては満足な成果が得られなかったので,委託調査が終了した後も個人研究として1992年まで実験をくり返した.実験結果を受ける形で,1993年からは小清水町が中心になって大規模な植生回復事業としての火入れを開始した.研究は現在も続けており,順応的管理とまでは言えないまでも原生花園の管理に情報を提供している.
 半自然草原の火入れは毎年おこなわれるのが普通で,それによってススキなどの草本群落が維持されている.しかし,小清水原生花園の主要構成種にはハマナスなどの木本植物が含まれており,毎年の火入れでは木本種が衰退してしまうと予想された.そこで小清水原生花園では全体を4地区にわけ,毎年場所を移動させながら火入れを実施している.火入れによるリター蓄積量の変化や植生の変化,ハマナスのシュートの動態などを調査し,それらの結果に基づいて現在の4年インターバルの火入れが実現している.