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生態学と持続可能性科学の新しい関係

企画者:谷内茂雄(京都大学生態学研究センター)

概要:

ミレニアム生態系評価(2005年)やIPCCの第4次統合報告書(2007年)が示したように、人間の福利に不可欠となる多様な生態系サービスを維持するためには、生物多様性や生態系の機能を持続的に維持する必要がある。そのためには、地球気候変動などさまざまなドライバーを生み出す私たちの社会経済システムの変革が不可欠である。

このような時代の要請に呼応して生態学においても、1)生物多様性と生態系の現状の診断とその方法の開発、2)生物多様性、生態系の構造や属性と生態系機能の効率や安定性との関係、3)人間活動による撹乱に対する生態系の応答等を中心に、目覚しい取り組みが進んできている。  

その一方で、近年、自然科学と社会科学を横断する学際的なアプローチが急速に勃興し、持続可能性科学(Sustainability Science)や地球環境学といった名称で、生態学の発展の上でも無視できない重要な概念と基本的な枠組みを統合しつつある。その特徴は、生態系と社会経済システムの相互作用まで視野にいれた、社会−生態システム(social-ecological system)の枠組を共有し、人間の福利の持続的維持を目的に、多様な利害関係者によるガバナンスを前提とした、持続可能な社会経済システムのモデル(低炭素、循環、自然共生)の探求を、概念や方法の構築とともに事例研究によって実践的に進めている点にある。その重要な進展は、1)生態系と社会経済システムの相互作用とレジリアンスの研究、2)複雑系のリスクマネジメント論、3)ガバナンスを実現するしくみの研究とその制度設計、4)地域スケールでの持続可能な社会経済シナリオの探求、などである。

この企画シンポジウムでは、進展著しい持続可能性科学の問題意識と考え方の基本枠組みを把握するとともに、生態学の呼応する研究の動きを持続可能性科学との関係でとらえ、そこから生態学と持続可能性科学の今後の新しい研究の方向性・可能性を議論したい。発案動機としては、2008年3月の福岡大会のシンポジウムS02”Interface between ecology and social sciences in global environmental change”と背景を同じくするが、1)モデル研究の動向ではなく、学問の枠組み・考え方のレベルでの全体像の把握、2)なぜそのような枠組みや概念が必要とされてきたのか、その背景となる問題意識・動機の理解の重視、3)国内研究拠点からの世界の研究動向を把握した話題提供者による発表、4)生態学会誌へのシンポジウム論文掲載、を特色とすることで、広く生態学関係者とともに、これからの生態学と持続可能性科学に関する議論を活発化したい。