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陸域生態系の動態を支配する土壌有機物プール:ブラックボックスの解明に向けて

企画者:和穎朗太(農環研)、藤井一至(京大・農)、平舘俊太郎(農環研)

概要:

土壌には多量の有機物が蓄積し、その量は、炭素量に換算すると大気の約2倍、陸上植物バイオマスの約3倍にものぼる。このため、最近では温暖化によって、土壌有機物が主要なCO2の発生源になるのではないかと危惧され、CO2のフラックス測定が盛んに行われている。しかし、有機物が分解をまぬがれてなぜ土壌に蓄積するのか、分解性の低い土壌中の有機物の正体は一体何なのか、このような基本的な素過程については一致した見解が得られておらず、「ブラックボックス」として扱われてきた。

一方、近年の土壌有機物研究の発展は著しく、土壌有機物の化学構造や蓄積メカニズムについての新しい知見が次々と発表されている。土壌中には、植物や微生物の死骸から高分子の腐植物質まで多様な化学形態の有機炭素が存在するが、その大半はミクロ・ナノサイズの粘土鉱物粒子と複合体を形成して存在しており、長い滞留時間(102〜104年オーダー)を持つ。これまで高分子と考えられていた腐植物質の分子量は、従来の想定よりもかなり小さいことも明らかになり、その難分解性の理由として土壌中の金属イオンや微小な土壌鉱物との反応が関わっていることが明確になってきた。また、分解と蓄積プロセスを繋ぐカギとなっている溶存有機物の動態や、土壌有機物中の窒素やリンの無機化過程などの理解も進んできた。このように、これまでブラックボックスであった土壌有機物の実態は徐々に解明されつつある。

本シンポジウムでは、生態系において栄養塩の循環を制御しており、かつ炭素貯留においても重要な機能を果たしている土壌有機物について、その分解プロセスやその制御因子、そして土壌有機物蓄積メカニズムについて、最新の知見や仮説を紹介し、生態系動態の理解につなげることを目指す。土壌は難解と思われがちであるが、配布資料を準備するとともにできるだけ平易な発表を準備し、土壌が専門でない方々とも新しい知見を共有できる有意義なシンポジウムとしたい。