| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


第16回 日本生態学会大島賞/The 16th Oshima Award

金華山島のニホンザル-結実の年変動と競争・繁殖・種子散布-
Japanese macaques on Kinkazan Island: Relationships between nut fruiting and competition, reproduction, and seed dispersal

辻 大和(石巻専修大学理工学部)
Yamato Tsuji(Faculty of Science and Engineering, Ishinomaki Senshu University)

 1999年の夏に初めて金華山島(宮城県)を訪れて以来、私はこの島のニホンザルを対象に生態学的な研究を続けてきた。学部時代はサルの行動観察と並行して植生調査を実施し彼らの土地利用を植生と関連付けた。大学院進学後、食物環境の年変動がサルの諸生態におよぼす影響に興味を持ち、修士課程では、秋から冬にかけてのサル食性や土地利用を調べ、これらの項目が堅果類の結実の年変動に対応して変化することを明らかにした。博士課程では、食物資源の年変動がサルの社会的な属性(順位)を介して個体群パラメータに与える影響を評価した。堅果類が豊作の年はメスの社会的順位に関わらず採食成功や死亡率・出産率は横並びだったが、凶作の年は食物を巡る競争が高頻度で発生し、採食成功や個体群パラメータの順位差が拡大した(高順位の個体が有利になった)。結実の年次変動から受ける影響は、その個体の社会的ステータスにより異なることが分かった。社会・行動に関するデータに強みを持つ霊長類学と、生態学のトピックを融合した、ユニークな仕事になったと自負している。学位取得後は、研究テーマをサルによる種子散布に変更した。霊長類が植物の適応度にどの程度貢献するか、同所的に生息する他種との比較を通じて明らかにしようと考えた。複数年にわたって収集したサル糞の分析により、散布される種子の構成、一度の散布イベントで運ばれる種子の個数、種子の健全率が年ごとに異なることや、それが堅果類の結実の年変化に起因することを明らかにした。次いで、散布者の「個体差」が散布効率に与える影響を調べた。個体識別されたサルを対象に調査したところ、個体の社会的順位の違いが種子散布特性に影響することや、順位差の程度は堅果類の結実によって年変化した。つまり、社会的な要因は、生態学的サービスにも影響を与えることが分かった。長期継続調査は、短期間での成果を求める近年の研究体制からは敬遠されがちである。しかし、私が短期で調査を終えていたなら『社会的な要因と外的な要因の融合』というアイディアは生まれなかったはずである。私が金華山のサルたちを通じて学んだのは、腰を据えた調査だからこそ見えるものがある、ということである。


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