ESJ57 一般講演(口頭発表) C1-07
*小原由起(東京農大・地域環境),武生雅明(東京農大・地域環境),中村幸人(東京農大・地域環境)
ある地域において、同様な立地条件下には同様な種組成を持つ群落が形成されることは、多くの植物社会学的研究により明らかにされてきた。こうした異なる立地間の種組成の相違は、世代交代が行われるほどの長期間、どのように維持されるのだろうか?それを明らかにするため、本研究では、樹木よりも世代時間が短い林床の草本植物に着目し、林床草本の空間分布の変動を調べた。
山梨県御正体山のブナ林に1986年に設置された調査区では、10m×10mのメッシュ毎の林床植生の植生調査と、各メッシュに規則的に配置された1m×1mの小調査区において出現する全植物の個体数が種ごとに記録された。そこで2008年(22年後)に同様の調査を行い、変動を調べた。
林床植生の種組成は微地形によって異なり、凸状地にはレンゲショウマやコウモリソウが優占する群落、凹状地にはヤマトリカブトなど全体に共通して出現する種が優占する群落、登山道沿いにはバイケイソウやタニタデが優占する群落が分布しており、両調査年代で大きな変化はないことがわかった。しかし、各メッシュの種組成は最大で6割が変化していることがわかった。植物種に注目すると、両調査年代で分布するメッシュを変化させた植物種が多く、その変化のほとんどが、同じ植生タイプに分類されたメッシュ間で起こっていた。さらに、小調査区で記録した個体数密度は、全体としては両調査年代間で減少傾向にあるが、各植物種の増減には場所によって偏りがあった。これらのことから、林床植生を構成する植物種の分布は基本的には微地形によって規定されており、立地条件ごとの種組成は安定して見えるが、同じ立地内では、それぞれの種が移動したり個体数密度を増減させることで激しく変化しながら個体群を維持していることが明らかになった。