ESJ57 一般講演(口頭発表) C2-10
*小山明日香,露崎史朗(北大・環境科学院)
高ストレス環境下において、先駆種による後続種の定着促進作用(facilitation)は遷移を規定する重要な機構である。泥炭採掘跡地では、植生の消失により乾燥、霜害、土壌流出といった複数のストレスが生じ、植物の定着が著しく制限される。先行研究において、スゲなどが隆起した構造とリターの蓄積により形成する谷地坊主が、その周囲で後続種の定着を促進することが明らかになった。
谷地坊主は、リターの被覆により乾燥・霜害を緩和し、構造により土壌移動を防ぐと予想されるが、これらがどのように実生定着に作用するかは不明である。また、ストレス要因やその強度が季節や年により変動するとき、谷地坊主による影響は変化するかもしれない。そこで、1)谷地坊主が後続種の実生定着を規定する要因は何か、2)谷地坊主による影響は時間的に変動するか、を4年間の実生追跡により検証した。
北海道サロベツ湿原の泥炭採掘跡地において、6(1 × 10 m)プロットを設置し、実生数とその生死(夏期・冬期)を4年間記録し、年間及び谷地坊主周囲‐裸地間で比較した。また、一部の谷地坊主にリターの除去処理を行い、実生数を比較した。環境要因として、月降水量、地温及び土壌移動量を測定した。
谷地坊主周囲では、リターの有無に関わらず土壌移動が緩和され、実生数も多かった。夏期の降水量は年変動が大きく、実生生存率は乾燥年に低下したが、谷地坊主の緩衝作用は年に関わらずなかった。冬期に実生は半数以上死亡したが、例年死亡率は霜害の強い裸地でより低下した。このように、谷地坊主による実生定着への効果は季節的に変化するが、谷地坊主は年変動する夏期の乾燥ストレスを緩衝しないため、定常的にfacilitationを示すようだ。