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ESJ57 一般講演(口頭発表) D2-02

細胞質性決定機構と染色体性決定機構の空間的共存およびその遺伝子流動への影響

小林 豊(京大・生態研)


細胞内共生体として知られるWolbachiaの中には、感染したオスの表現型を操作してメス化(feminization)するものがある。このようなfeminization Wolbachiaは、遺伝的なメスと競争関係にあるため、垂直感染率が十分に高い場合には、メスをコードする性染色体を駆逐し、メス機能を乗っ取ってしまうことが知られている。Taylor(1990)の理論研究によると、Tを感染率、Rを性染色体がコードするオス比として、T>1-RならWolbachiaが性染色体を駆逐してしまい、逆にT<1-Rなら性染色体が Wolbachiaを駆逐してしまう。Taylorのモデルでは空間構造が考慮されておらず、二者が共存するパラメータ領域は存在しない。一方、フランスのRigaudらの研究によると、feminization Wolbachiaの一種であるArmadillidium vulgareは、高温条件下で感染率が低下するので、地域による気温の差がA. vulgareと性染色体の共存の原因となっているのではないかと推測されている。本研究では、感染率の異なる二集団を想定したモデルを用いて feminization Wolbachiaと染色体性決定機構(ZZ/ZW)が共存する条件を調べる。また、feminization Wolbachiaの感染が二集団間の遺伝子流動にどのような影響を与えるかを、著者らが最近開発した有効移住率の摂動近似法により明らかにする。さらに、感染率を低下させるようなsuppressor遺伝子が集団中に広がる条件およびその平衡状態での空間分布を、摂動近似法および数値計算により明らかにする。


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