ESJ57 一般講演(口頭発表) D2-04
岡嶌亮子(東北・生命)
陸生巻貝のspire index (殻高÷殻幅)は、扁平及び、縦長な貝殻からなる二極分布を示す (Cain 1977他)。扁平な貝は水平面を、縦長な貝は垂直面を這うという傾向から、この二極化は異なる表面上でのバランスに起因するとされてきた。しかし、バランスという単一の要因で、形態は不連続化するのだろうか。また、バランスすなわち重力による影響は生物の形態にどこまで効いているのだろうか。
本研究では、各形状の殻が水平面及び、垂直面を移動する際のバランスを、モーメントによって理論的に推定した(Okajima and Chiba 2009)。殻形態は、尖っているとき、膨らんでいるときの極値をそれぞれ円錐、円柱に近似した。貝が各spire indexにおいて、最もバランスがよくなるような殻の傾きと膨らみをもつと仮定すると、水平面では扁平なほどバランスがよいことが示された。しかし垂直面では、扁平な殻と縦長な殻、双方のバランスがよく、spire index 1.4付近の貝が最もバランスが悪い。一方、実際のデータから、spire indexの分布を求めたところ、自然界において最も頻度が低いのは1.2となった。この実測値が理論値1.4と非常に近いことから、陸生巻貝の殻形態はバランスによって生じているという仮説が物理的に支持された。
更に、上記の結果を導く際の仮定 「各spire indexの貝が、バランスにおいて最適な傾きと膨らみをもつ」を検証する。バランスから、扁平な殻は、殻軸と這う平面が垂直で、膨らみは円錐に近いことが予測される。一方、縦長な殻は殻軸と平面が平行で、膨らみは円柱に近い。しかし、形態形成上での制約により、貝の傾きと膨らみはその逆になりやすい。これらの予測に対し、実際の傾きと膨らみがどのようになっているのかを、計測や観察を通して明らかにする。