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ESJ57 一般講演(口頭発表) F2-07

摩周湖生態系に顕在する水銀

*武内章記 (国環研), 田中敦, 五十嵐聖貴 (道環研)


産業革命以後, 化石燃料の使用や産業廃棄物の焼却などによる地球規模での水銀汚染の進行が懸念されている. それと同時に水銀を濃縮した魚介類等の摂食による人間や野生動物への健康被害も懸念されているために, 様々な生態系における水銀蓄積濃度の現状把握が求められている. そこで本研究では, 北海道東部に位置する摩周湖生態系に生息する魚類と甲殻類の筋肉中の水銀蓄積濃度の実態把握と同時に, 炭素と窒素同位体比を用いて水銀の生物濃縮メカニズムを明らかにした. 水銀の乾重量濃度はニジマスが691.5±631.9 (1σ) ppb, ヒメマスが223.5±40.8 (1σ) ppb, ウグイが853.6±535.6 (1σ) ppb, そしてウチダザリガニは341.8±187.9 (1σ) ppbであった. ニジマスとウグイに比較的高濃度の水銀蓄積濃度が検出されたのと同時に, 変動幅が大きいことが明らかになった. 各々の炭素と窒素同位体比の平均値はニジマスが−21.4±2.1‰と5.8±0.8‰, ヒメマスが−24.2±0.6‰と4.7±0.3‰, ウグイが−18.4±0.9‰と5.0±0.4‰, そしてウチダザリガニは−19.1±0.1‰と3.2±1.0‰であった. こうした結果から, ニジマスだけが摩周湖生態系において異なる炭素同位体比を含む物を餌にしているのと同時に, 食物連鎖の上位に位置していることが明らかになった. さらに比較的高濃度の水銀が蓄積しているニジマスとウグイは比較的高い窒素同位体比を持っていることが明らかになった. 摩周湖は集水域が極めて小さく河川のない閉塞したカルデラ湖であるのと同時に, 周辺に工場などの汚染源が皆無である. そのために, そこに生息している生物に蓄積している水銀は自然起源だと考えられる.


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