ESJ57 一般講演(口頭発表) G1-11
*郡 麻里(首都大・理工・生命(客員研究員),中越信和(広島大・院・国際協力),可知直毅(首都大・理工・生命)
河道内に繁茂する樹木は本来ヤナギ科など風散布型の細かい種子をつける種が主であるが、近年はアキグミなど動物散布型の比較的大型の液果をつける樹種も河川の砂礫堆に大群落を形成する事例が報告されている。河原でアキグミ群落が急増した原因は、護岸工事により河道が直線化され流路が狭められた結果、河床が深掘れし、砂州が相対的に陸地化して植物の生育立地自体が洪水で破壊されるような大規模撹乱を受けにくくなったこと、およびダム建設等により上流からの砂礫の供給が制限され河床に巨礫が露出するなど、アキグミの定着・生残に適した立地が人為的に広く形成されたことが指摘されている。一方で、定着年代は、たまに起こる大規模な晩秋の洪水の翌年に一致していることから、「種子など細かい粒子は運ぶが小石などの礫は運ばない」レベルの掃流力の洪水が2次的に種子散布を担っている可能性が出てきた。
そこで、本研究では、河道内のアキグミの群落形成や分布拡大の要因を探り今後の群落動態を河川撹乱と関連させて予測するための基礎情報として、実際に秋洪水のない年にどの程度の効率でアキグミの果実が鳥に利用されているか、および河道内のどのような空間に種子が供給されているのかの実態を定量化した。徳島県吉野川中流域の砂州上にランダムにシードトラップを設置し、同時に袋掛け実験で果実の持ち去り量と時期を把握した。果実食鳥類のセンサス結果および散布パターンから、河原のアキグミは他の樹種と比較しても潜在的に高い種子散布効率を持つことが示された。たまたま系統的に獲得していたグミ科の特性と窒素固定細菌との共生による大量の種子生産が、現在の微妙な河川環境に「外適応」した様である。謝辞:トラップ設置にあたり国交省徳島河川国道事務所および徳島大工学部の鎌田磨人教官研究室にご協力頂いた。