ESJ57 一般講演(口頭発表) K2-02
野村尚史(科博・植物園)
本講演では、ツワブキの陽地型・陰地型・渓流型の各葉形態・構造にみられる可塑性と光合成馴化能力の関連について、強光・弱光の光環境で行った共通圃場試験の結果を元に考察する。
南琉球のツワブキ(Farfugium japonicum、キク科)には、海岸に生育する陽地型と林床に生育する陰地型、渓畔に生息する渓流型の3つの生態型が知られている。陽地型は強い日射と蒸散に対応するため小型の丸葉となるが、陰地型は弱い日射を獲得するために大型の丸葉となる。一方で、渓流型は増水時の流水に耐えるため小型の細葉(狭葉)となる。これまでの研究から、これら生態型は南琉球地域での単系統性が担保されると同時に、集団間・表現型間での頻繁な遺伝子交流が維持されていることが判っており、さらに表現型への選択圧が生育環境ごとに異なることで、その分化が維持されていることも判明している。したがって、ツワブキ種内の葉形態は、環境適応による表現型変異の好例といえる。
共通圃場試験の結果では、細胞の形態と密度によるLMAの違いが、各生態型の特性を生育環境に適合させていることが判明した。陰地型では、柵状組織の層数が少なく細胞も寸堂なため、強光下でP areaを高めることが出来ない。反面、陰地型はLMAが小さいため、弱光下では陽地型よりP massを高く維持することが可能となる。陽地型は、柵状組織の層数が多く細胞が細長いため、強光条件でP areaを高められるが、弱光下でLMAを下げることが出来ない。一方の渓流型は、海面状組織の細胞数が多いために、陽地型・陰地型の双方よりLMAが高く、強光下で育成した場合のPmax per massが陽地型に近いことを除けば、常にP massが劣る。この結果から、渓流型で葉内間隙とコンダクタンスの減少によってP areaが抑制されるとの仮説は、支持されなかった。