ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-062
*増田真佑(筑波大・生命環境), 谷尚樹(国際農林水産業研究セ), 大谷雅人, 上野真義(森林総研), Norwati Muhammad, Soon Leong Lee(マレーシア森林研), 津村義彦(森林総研)
フタバガキ科樹木は東南アジア熱帯林の主要構成樹種であり、何年かに一度、他の樹種と呼応して一斉に花を咲かせる「一斉開花現象」がみられることでも有名である。また、材が有用であるため、大量に伐採されており、フタバガキ林の減少が著しく進んでいる。先行研究では成木数が減少すると他殖率が低下する事例も報告されており、過剰な森林伐採により繁殖可能個体数が減少することで近親交配が増加し、健全な世代交代ができなくなる可能性が懸念される。ゆえに東南アジア熱帯林保全のためには、繁殖可能個体数の減少などの要因がフタバガキ科樹木の交配様式に及ぼす影響を明らかにすることが急務である。
本研究ではマレー半島のPasoh森林保護区内の40haプロットにおけるフタバガキ科樹木S. maxwellianaを事例とし、その交配様式と遺伝子流動を調べた。同種は調査地において2002年と2005年に一斉開花が確認されており、プロット内の開花率はそれぞれ54%, 74%だった。それぞれの一斉開花時にサンプリングした結実種子を11マイクロサテライト遺伝子座で解析することで、開花規模が異なる一斉開花での林内の花粉流動を比較した。
他のフタバガキ科と同じく他殖が優占しており、平均他殖率は両年とも80%以上だった。母樹が受け取る花粉プールの遺伝子多様度は両年とも約0.67と高く、ほぼ同値だった。
また、2005年では各母樹の花粉プール間の遺伝的分化度は母樹間距離の自然対数と有意な相関がみられたが、2002年ではみられなかった。
本発表では、一斉開花の規模の年次変動が、交配距離や他殖率などS. maxwellianaの交配様式にどう影響するかについて考察する。