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ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-067

タデスミレの個体群動態におけるニホンジカ摂食の影響

*尾関雅章, 大塚孝一(長野環境保全研), 平尾 章(信州大・山岳研)


タデスミレは,スミレ科の多年生草本で,本州中部に局在し,環境省版レッドリストでは,絶滅危惧IB類にリストされている.高さ20〜40cmの地上茎に白色の1〜7花をつけるが,開花や花数は個体サイズに依存し,サイズ(地上茎の基部直径・高さ)の大きい個体で開花確率が高く花数が大きい傾向がある.

このタデスミレの自生地周辺では,近年,ニホンジカの個体数が増加しており,シカの摂食によるタデスミレの絶滅リスクの増大が危惧されることから,このシカの摂食がタデスミレの個体群動態に及ぼす影響について検討した.

調査区は,タデスミレの自生するミズナラ林の閉鎖林冠下と,林冠木が一部伐採された疎開林冠下に設けた.調査区内のタデスミレを標識し,2007年から2009年まで各個体のサイズ(地上茎の基部直径と高さ)・着花数および各個体の開花期のシカによる摂食の有無を調査した.この調査結果から推移行列モデルを作成し,個体群成長率(λ)に関する解析を行った.

タデスミレの開花期におけるシカの摂食率は,疎開林冠下の調査区で高かった.また,シカによる摂食は,開花確率の高い大型個体で多く発生する傾向が認められた.そのため,シカの摂食にともなうタデスミレの個体群構造の変化として,地上茎高分布の小型個体への偏りと開花率の低下が生じ,その傾向は被食率が高い疎開林冠下で顕著であった.λは,閉鎖林冠下と疎開林冠下ともに1を下回ったが,疎開林冠下でより小さかった.

これらのことから,タデスミレの個体群動態へのシカの摂食の影響は,摂食圧が,現在と同程度の状態で推移した場合でも,タデスミレの種子生産と実生の新規加を制限することにより,λを減少させ,個体群の縮小を促す状況にあることが示唆された.


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