ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-176
*野口 雄二郎(東大院新領域),梅林 利弘(森林総研),高橋 由紀子(東大院農学生命),福田 健二(東大院新領域)
植物の水輸送は,乾燥および凍結ストレスや物理的損傷,病原体の侵入などに対して脆弱であり,特に樹木は年間を通じて長距離水輸送を行っているため通水特性は樹木の環境適応を考える上で重要である。樹木の通水特性を明らかにするために,切枝を用いた透水性の測定や染色法による通水経路の可視化がなされているが,測定時の木部樹液にかかる圧力差が野外の立木とは異なるという問題があり,インタクトな樹木における非破壊的な樹液流観察手法が求められている.近年,非破壊観察の有用な手法としてMRIによる水分布の可視化やMRI位相法を用いた水移動の可視化が試みられているが,研究例が少なく樹液流の可視化技術が十分に確立されているとは言い難い.そこで本研究では,コンパクトMRI位相法による樹液流の可視化技術を確立することを目的とし,まず切枝を用いて位相パラメータを求め,それを基にミズナラ苗における樹液流の可視化を試みた.
樹高15mのカツラから枝を採取し,水中で基部直径1.8cm,長さ30cmの切枝を作成した.基部側の切口からKCl水溶液(0.1M)を0.1MPaの水圧で流し続け,基部から4cmの部位から5cm毎に設けた5箇所の撮像部位で横断面のMRI位相差画像を取得した.基部側から2cmの位置に径0.8cmのドリル孔を開け,その前後の画像を比較したところ,全部位で穿孔による水流の変化が検出できた.次にミズナラの苗を対象に非破壊での樹液流可視化を検討した.撮像部位の5cm下部に径4mmのドリル孔を開け,その前後のMRI位相差画像を比較したところ,穿孔による樹液流速の低下を検出できた.
以上の結果から,MRI位相法は立木の水輸送を非破壊で可視化するために有効な手法であり,樹木の水輸送特性を明らかにするために用いることが可能であると考えられた.