ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-189
竹内やよい(京大農)
種子の生存における密度依存性は、その後の分布パタン、ひいては群集の種多様性を決定する要因であり、植物の更新過程を考える上で非常に重要なメカニズムである。一方で、集団内での開花・結実量の豊凶(マスティング)も全体の繁殖成功度に非常に大きな影響を与える。特に豊作時には捕食者が飽食するために生存率が上がる(捕食者飽食仮説)ことがこれまで示されてきたが、マスティングの大きさは、全体の繁殖成功度だけでなく捕食者との相互作用の空間的スケールや、密度依存性の効果の方向性にも影響を与えると考えられる。そこでこの研究では、マスティングの規模が植物の繁殖更新過程、特に密度依存性の方向性とそのスケールにどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。
調査は、マレーシア・ランビル国立公園でおこなった。2004(マスティング規模:小)/2005(中)/2009(大)年に開花、結実したShorea laxa(フタバガキ科)を対象とした。約100ha内の成木10-15個体を対象とし、林冠下にシードトラップを設置して花から種子までのデモグラフィーを追跡した。種子は、成熟・未成熟、健全・被食に分類してそれぞれについて検討した。成木の局所密度の指標を用い、モデル選択により最適なスケールと密度依存性の方向性を評価した。
結果として、種子の生存はマスティング小のときに正の密度依存効果、マスティング大のときに負の密度依存効果があることが分かった。また、この効果の及ぶ最適な空間スケールもマスティング小で狭い範囲、マスティング大で広範囲であった。つまり、種子の生存は密度依存性があるが、マスティング規模によってその方向性が変わることが明らかになった。特に、マスティング大では、広範囲で起こる負の密度効果であることから、大規模なマスティングはより個体の分布の空間的異質性を高めることに貢献することが示唆された。