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ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-236

ツキノワグマによる種子散布距離に結実量の変動が及ぼす影響

*小池伸介(東京農工大),正木隆(森林総研),山崎晃司(茨城自然博),根本唯,小坂井千夏,中島亜美,梶光一(東京農工大)


ツキノワグマは夏から秋にかけて多種の果実を利用し、そのうち液果に対しては種子散布者として機能する。ツキノワグマは行動圏面積が大きいことから長距離種子散布者として機能する可能性も指摘されている。一方、ツキノワグマは秋季にブナ科の堅果類に強く依存していることから、堅果類の結実豊凶がツキノワグマの食性や行動様式に大きな影響を与える。そこで、ツキノワグマの種子散布者としての機能のうち秋季の種子散布距離に注目し、堅果類の結実豊凶がどのように影響するのかを明らかにした。

種子散布距離の算出は、種子の体内滞留時間と一定時間当たりの移動距離を掛け合わせることで推定する方法を用いた。また、直線距離と累積距離の2種類の種子散布距離を推定した。

2005年から2007年にかけて延べ13頭の野生個体にGPS受信機を装着して得られた行動データとともに、飼育個体を用いた種子の体内滞留時間のデータを用いて解析を行い、秋季の推定種子散布距離を年次間で比較した。また、同時に糞分析による食性調査を行った。

その結果、食性調査では2005、2007年は堅果類、特にコナラ属(主にミズナラ)の果実が大きな割合を占めたが、2006年は小さく、2005、2007年はミズナラが豊作、2006年は不作であった状況を反映していた。一方、種子散布距離の推定では、全ての年で直線距離、累積距離共に基本的な種子散布パターンに大きな違いは認められなかったが、長距離散布される種子の割合が2006年には共に多かった。

これらの結果から、ブナ科の堅果類が不作の年は、ツキノワグマにとっては冬眠前の脂肪蓄積が出来ないため深刻な状況であるが、ツキノワグマによって散布される液果の種子にとっては、より長距離散布される絶好の機会であるともいえる。


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