ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-252
*松倉君予(東邦大・理),広瀬大(日大・薬),鏡味麻衣子(東邦大・理),大園享司(京大・生態研)
ヤブツバキ落葉上に生息する代表的なリグニン分解菌のリティズマ科菌類を材料とし、個体群サイズの地域間比較を行った。ヤブツバキ落葉は、日本国内のヤブツバキ天然分布域の北限にあたる秋田県男鹿及び青森県夏泊、南限の沖縄県石垣島及び沖縄島、緯度の点でそれらの中間に位置する千葉県の銚子(外川、猿田、旭)と館山(那古、富士見、洲崎)の計10箇所で採取した。リティズマ科菌類は定着した落葉を漂白化させ、落葉上で異種と接すると帯線を形成する。この特徴から、種毎の定着面積を測定できる。本研究では、この面積を葉上の個体群サイズとして定義し、リティズマ科菌類の定着面積に対する各種の定着面積の割合を個体群サイズ比として算出し、採取地間で比較した。リティズマ科菌類の種同定は、葉上に形成された子実体形態とrDNAのITS領域の塩基配列を基に行った。分離菌株を確保できた系統に関しては菌糸成長の温度適性も調べた。
調査の結果、日本国内には Coccomyces sinensis と Lophodermium sp. の少なくとも2種が分布していることが分かり、個体群サイズ比において地域間に相違がみられた。すなわち、C. sinensis は男鹿、夏泊及び銚子で100%、館山で97-99%、沖縄、石垣ではそれぞれ33、28%であった。一方、Lophodermium sp. は沖縄、石垣が67、72%、館山1-3%、男鹿、夏泊及び銚子は0%であった。温度適性実験では C. sinensis は20-25度、Lophodermium sp. は25度で菌糸成長のピークがあることが分かった。この結果は、各地の気温差が落葉後の菌糸成長や子実体形成に影響する可能性を示唆している。今後は操作実験を行うことで、個体群サイズ比にみられた地域変異の要因を解明したい。