ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-315
*榎木勉(九大・演習林),池崎翔子(九大・生資),宮沢良行(九大・演習林)
福岡県篠栗町に位置する九州大学福岡演習林内にある管理放棄ヒノキ人工林(約50年生)において、下層植生が有する物質循環に関する機能の評価を目的として、ヒノキならびに天然更新した広葉樹の成長量とリターフォール量およびリターフォール中の炭素・窒素濃度を測定した。流域内における地形の不均一性を考慮し、斜面位置(上・中・下流)と斜面上の位置(谷部と両岸の斜面部)に対応させた9個の試験区を設定した。それぞれの試験区には10m×10mの調査プロットを3個ずつ設置した。毎木調査はプロット内に出現する樹高2m以上の樹木および各プロットに4個ずつ設置した2m×2m のサブプロット内に出現する稚樹(0.3≦H<2m)を対象とした。リターフォールは各プロットに開口面積0.5m 2のリタートラップを1個ずつ設置し、一ヶ月ごとに1年間収集した。
ヒノキの現存量は下流で大きく、成長量にはサイズ依存性があった。リターフォール量は地形や現存量との間に明瞭な関係がなかった。広葉樹の分布は常緑樹と落葉樹で大きく異なり、下流では常緑樹が下層を優占していたが、上流域では落葉樹も含めた様々な樹種が分布していた。広葉樹の成長量にはサイズ依存性があったが、リターフォール量には現存量や地形との間に明瞭な関係がなかった。ヒノキと常緑樹には生育場所によるリターフォール中の窒素濃度の違いがなかったが、落葉樹の窒素濃度は下流で高かった。以上の結果から、林分スケールでは窒素が生産性の制限要因にはなっていないことが示唆された。また、下流ではヒノキの現存量が大きく、下層に到達する光資源量が少ないため、落葉樹にとっての窒素利用可能量が相対的に増加したことでリターフォール中の窒素濃度が増加したと考えられた。一方、常緑樹はその様な光環境の違いに対し窒素利用様式をあまり変化させなかったと考えられた。