ESJ57 一般講演(ポスター発表) P1-328
露崎史朗(北大・院地球環境)
アラスカ内陸部北向き斜面では,永久凍土上にクロトウヒPicea mariana林が広く発達している。成熟したクロトウヒ林の林床は,ミズゴケを始めとするコケ類が優占し,イソツツジ等の低木類が定着している。クロトウヒ林の更新には落雷による自然火災が関与しており,特にクロトウヒは林冠種子貯蔵を行い火災後に主に種子を散布する種である。これまで火災は,林冠火災と呼ばれる地表面が不完全に焼失する規模のものである。しかし,近年,アラスカにおける火災規模は,面積・強度ともに増大する傾向にあり,特に地表面バイオマスを消失させる全焼火災が増えつつある。そのため,永久凍土の衰退と森林更新様式の変化が懸念されている。そこで,2004年に大規模火災が発生したフェアバンクス近郊のポーカーフラットにおいて2005年に80個の1 m × 1 mの永久調査区を設け2009年まで植生と環境のモニタリングを行った。
ミズゴケ焼失面積が少ない調査区は,植生の経時的な変化は小さかった。一方,焼失面積が大きな調査区では,植生の変化は大きいがミズゴケ植生に向かうものではなかった。すなわち,焼失面では,初期にヤノウエノアカゴケ・ゼニゴケが定着し,次いでオオスギゴケへの推移が見られ,ミズゴケ以外のコケ類の被度拡大が著しかった。維管束植物では,ヤナギランが初期には優占していたが火災5年後で減少に転じた。焼失面積の大きな調査区では,クロトウヒ林内には見られないカンバ・ヤマナラシ・ヤナギ等の落葉樹の実生が広範に認められ,成長も良好であった。ミズゴケは,小規模な焼失部分では回復している部分も認められるが,全体として回復傾向は認められない。今後,林床のコケ類が全焼するような大規模森林火災が進行すれば,遷移系列が変化し,クロトウヒ・ミズゴケ植生への速やかな回復は困難となるものと思われる。