ESJ57 一般講演(ポスター発表) P2-150
*原口 岳(京大・生態研),内田 昌男(国環研),柴田 康行(国環研),陀安 一郎(京大・生態研)
古典的な食物網理論では、生食連鎖と腐食連鎖は別個に理解されてきた。しかし近年、二つの食物連鎖は高次消費者を介して連結されており、この連結が群集やエネルギーの動態を理解する上で重要な要因である事が明らかになっている。このような連結性が変化する要因を解明する事は、より一般的な食物網理論を構築する上で有用である。我々は二つの食物連鎖は地上部と地下部という空間分割を伴う事に着目し、地下部由来の双翅目昆虫の捕食を通じて地上部と地下部を連結している樹上クモ類を研究対象とした。樹上クモ類は、生態系の空間構造を大きく変化させる森林植生の遷移に伴って腐食連鎖の依存度を高めるという仮説の下、食物網構造の指標として安定同位体、有機物の生産年代指標としてΔ14C を用いて遷移段階ごとの樹上食物網を調べた。
茨城県北茨城市に位置する老齢林と、周辺に点在する伐採後の経過年の異なる森林でエサ及びクモを採取し、各種同位体を分析した結果を報告する。
双翅目は樹上から採集されたエサと比べて古い炭素起源 (高いΔ14C) を示し、この事と先行研究から双翅目は腐食連鎖、樹上昆虫は生食連鎖上に位置づけられると判断された。安定同位体比から各エサの寄与率を求めると、クモの種によって樹上エサと地下部由来エサを異なる比率で利用しており、調査地の林齢による傾向はなかった。また、双翅目の寄与率が高いほどクモの炭素起源は高く、双翅目を介して腐食連鎖由来のエサ流入が起きている事も確かめられた。以上より、樹上の生食連鎖への腐植生資源の流入は二次遷移過程を通じて一般的に見られる一方、一部の捕食者は老齢林でも生食連鎖に強く依存している事が明らかになった。樹上における腐食連鎖の寄与の全体像を明らかにするには、個々の捕食者の機能特性と植生遷移に伴う群集変化に着目して研究を進める必要がある。