ESJ57 一般講演(ポスター発表) P2-214
牧野渡(東北大・生命)
日本列島に広く分布する動物プランクトンのなかには、日本列島の形成過程を反映した集団の分断化の結果、互いに「隠蔽種」であると認識されるほど遺伝的に分化したものが存在する。これらの「隠蔽種」の分集団のなかには、日本列島の現在の地形が完成した後に分布を拡大し、他の分集団と二次的に接触している場合も見受けられる。しかし、二次的接触がみられる地域において、分集団同士が側所的に分布しているかというと、必ずしもそうではない。例えば、ヒゲナガケンミジンコの一種Acanthodiaptomus pacificusの「北方系統」と「南方系統」は仙台市・山形市付近で明瞭な側所的分布パターンを示し、両系統は同所的に出現しない(ひとつの沼に両系統が出現することは、ない)。他方、ケンミジンコの一種Cyclops kikuchiiでは、「北方系統」と「南方系統」の分布境界が極めて曖昧で、かつ両系統がしばしば同所的に出現する。このC. kikuchiiのケースは、動物プランクトンの個体群遺伝構造を論じる際によく言及される、先住効果に基づく「Monopolization Hypothesis」の論理展開とも一致しない。その理由について、本研究では、「Monopolization Hypothesis」をもう一度詳細に検討することと、A. pacificusとC. kikuchiiの繁殖様式の違いを考慮することを通して、考察する。