ESJ57 一般講演(ポスター発表) P2-231
*高野雄太,井上みずき,星崎和彦(秋田県立大 生物資源)
アカネズミは、堅果類の豊凶によって個体数が変動することが知られている。個体数の変動は繁殖や移出入などにより変化するといわれているが、遺伝的構造もそれに伴って変化するはずである。本研究では、mtDNAチトクロムb領域を用いて、オスとメスそれぞれのハプロタイプ組成が個体群動態にともなってどのように変化するのか、近隣のハプロタイプ構成と比較して調べた。
調査地は、焼石岳南麓に位置するカヌマ沢および、その東部に隣接する大荒沢とした。2地域は少なくとも1km離れている。調査は、カヌマ沢では2009年の6月〜11月まで、大荒沢では同年10、11月にそれぞれ3日3晩行った。捕獲には生け捕りワナを用いた。ワナは、カヌマ沢では約1haに80個、大荒沢では右岸と左岸それぞれ約0.3haに45個ずつ設置した。捕獲個体は、性別・繁殖状態・齢区分・捕獲地点を記録し、組織片を採取後、その場で放逐した。また、採取した組織片のDNAから、mtDNA チトクロムbの塩基配列(388bp)を決定した。
捕獲された122個体のうち111個体を解析し、27のハプロタイプが確認された。最も多いハプロタイプは、いずれの地域でも優占して分布していたが、各地域のみで分布が確認されたハプロタイプもあった。優占したハプロタイプは一年を通じて変化しなかったが、遺伝的多様性はメスよりもオスで高く、春から秋にかけて徐々に高くなった。一方、個体数は、春から秋にかけて減少し、秋の幼体出現時期に増加した。これらのことから、遺伝的多様性はアカネズミの繁殖や移動を反映して、季節的に変化することが示唆された。また、オスとメスの遺伝的多様性の違いは、オスがよく分散した結果であると考えられる。ただし、アカネズミの個体数は堅果類の豊凶とともに変動するため、年ごとに異なる結果が観察されるかもしれない。