ESJ57 一般講演(ポスター発表) P2-261
*竹内勇一(京大・理), 堀道雄(京大・理), Omar Myint(大阪市大・理), 幸田正典(大阪市大・理)
様々な動物で、威嚇行動が起こりやすい左右の視野(威嚇行動の左右性)についての報告があり、それは脳の構造や機能分化との関係が推察されている。その方向性は、高等脊椎動物では種ごとに概ね決定しているが、魚を含む下等脊椎動物では個体ごとに異なる場合が多い。近年、様々な魚類が個体ごとに左右に偏った頭部形態をもち、それが捕食行動の左右性と対応することが明らかとなってきたが、威嚇行動との関係性は調べられていない。
今回、私たちは闘魚(Betta splendens)の威嚇誇示行動時における偏った目の使用と形態的左右非対称性の関係について報告する。闘魚のオスは、同性個体や鏡に映った自身の像に、激しい威嚇行動を起こす。水槽の周りを鏡で囲った装置内で、どちらの体側を「相手」に見せつけるか(目の使用する方向)を10分間記録した。25匹のうち、5匹は鏡に映った像に対して、主に左体側で威嚇誇示(左目を使用)を、一方で8匹は主に右体側で威嚇誇示(右目を使用)を行った。実験後、捕食行動の左右性との対応が報告されている「頭骨-頸椎骨の角度」、および相手への威嚇に重要な意味をもつと考えられる「鰓蓋の面積の左右差」を計測し、その頻度分布を解析した。その結果、前者は「分断的非対称性」、後者は「対称性のゆらぎ」と定義できた。また、威嚇誇示で使用する目の方向性は、頭骨-頸椎骨の角度との有意な対応があったが、鰓蓋の面積の左右差とは関係性が見られなかった。すなわち、形態の左利き(体が左に曲がった個体)は威嚇行動で主に左目を、形態の右利き(右に曲がった個体)は主に右目を使用していた。これらの結果は、頭部形態の左右差の計測が、脳の機能分化の個体差を調べるのに役に立つこと、またそのような形態的非対称性は、様々な行動の左右性と対応することを示唆している。