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ESJ57 一般講演(ポスター発表) P2-284

GPS首輪を用いたニホンツキノワグマの食性解析−クマの捕食による行動変化事例

*後藤優介(立山カルデラ博),有本勲(農工大・農),古林賢恒(農工大・農)


これまで富山県において複数頭のツキノワグマにGPS首輪(Lotek 社GPS3300s)を装着し、得られたデータをもとに現地踏査を行うことで個体ごとの食性を解明する調査を進めてきた。そのなかで2006年8月に捕獲した1頭において、秋期に2頭のクマを連続して捕食した個体があり、その行動の詳細について分析を行った。

当該個体は富山県南東部の有峰湖周辺(標高約1100m)において捕獲された体重100kgの雄の成獣である。activity sensor付きGPS首輪を装着し、測位間隔は20分とした。追跡期間は2006年8月19日から2006年10月15日(約55日間)である。首輪の回収後、得られた測位データより一日毎の活動コアおよび休息コアを抽出し、現地踏査を行った。その結果、このクマの行動は亜高山帯の利用、直線距離で約65kmの長距離移動、ミズナラ林への滞在、クマ肉への依存と推移していたことが分かった。また、ミズナラ堅果を利用した期間には明瞭な昼行性を示したのに対し、クマ捕食時には一日の中での活動量が著しく低下し、数日に渡り死体の傍からほとんど離れないという行動の変化が見られた。このことから高栄養のエサ資源には執着的に利用する習性が伺えた。また被食されたクマ2個体は齢査定の結果3歳および11歳であった。積極的に襲って食べたのか、餓死等で死んだ個体を利用したものかは不明であるが、アメリカクロクマにおいて極度の食料不足に陥った際に共食いにより死亡率が上がることが指摘されており、富山においても2006年は堅果類の大凶作年であったことはこの結果を支持している。観察が困難なことからニホンツキノワグマの個体関係について議論されることは少ないが、亜成獣・成獣個体が捕食された事例により、今後ツキノワグマの生態研究において社会性を考慮することの重要性が示唆された。


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