ESJ57 一般講演(ポスター発表) P2-292
*田中陽介(九大・システム生命), 粕谷英一(九大・理)
排泄行動は動物の生存に必須であるにもかかわらず、これまでほとんど注目されてこなかった。しかし排泄物自体は、病原体への感染や同種他個体への作用、捕食-被食者間相互作用などに関与している。そのため排泄物をどのようにして排泄するかは、動物にとって重要な問題であると考えられる。オンブバッタAtractomorpha lataは、フンを排泄中に、後脚でそのフンをけり飛ばす行動(以下「フンけり行動」と呼ぶ)をとる。オスメスとも、平均すると体長の約10倍の距離までフンを飛ばす(田中、未発表)ことから、フンけり行動には何らかの適応的意義があると予想される。本研究では、フンけり行動の適応的意義の解明を目指して、以下の3つの実験を行った。
まず、フンに病原体や有害な物質が含まれること等により、フンが直接排泄者に影響を与えているか明らかにするため、飼育実験を行った。飼育容器内のフンを取り除く頻度を変えて孵化幼虫を飼育し、生存率や成虫までの日数、成虫時の体サイズなどを比較した。2つ目に、フンが同種他個体の行動に影響しているか明らかにするため、成虫または1齢幼虫が、同種他個体のフンに近づくかまたは遠ざかるかを室内実験により調べた。3つ目に、捕食者がオンブバッタを探索する際に、フンを手がかりとしているか明らかにするため、捕食者であるカマキリとアリを用いて、オンブバッタのフンのある場所への滞在時間が長くなるか等を調べた。上記3つの実験の結果、排泄者や同種他個体、捕食者に対するフンの効果は、いずれも有意ではなかった。このことから、フンけり行動には他の適応的意義がある可能性や、実験条件の問題によりフンの効果が検出されなかった可能性が考えられる。