ESJ57 一般講演(ポスター発表) P3-006
小林 哲(佐賀大・農)
通し回遊種モクズガニの河川におけるサイズ組成と成長過程をもとに,自然状態での生存時間を推定した.モクズガニを福岡県西郷川下流域と周辺海域において手網を用いて採集した.雌雄を合わせた甲幅(CW)組成から,FISAT II package(FAO)のBhattacharyaの方法を用いて,ポリモーダルなサイズ分布のコホート分割を行い,コホートの各平均値からサイズ動態を分析した.河川感潮域の下流部から海域(Site I: モクズガニの繁殖域)では,繁殖期間中に少なくとも4つのコホートからなる成体が採集された.各コホートの平均サイズは1996年秋から97年夏にかけては38.0, 46.9, 55.1, 65.6 mm CWであり 1997年秋から98年夏にかけては38.6, 45.6, 54.9, 62.0 mm CW であった.一方感潮域上部から淡水域下流部(Site II: モクズガニの成長域)での,1997年1月から1999年3月にかけて(29ヶ月間)のほぼ毎月の調査からは,毎年秋と初夏に着底する2つのコホートの成長過程が確認された.両コホートとも着底後2歳+で成体サイズ(平均約 35 mm < CW と 45 mm < CW)に達していた.11月時点で感潮域(Site I)に出現した成体の99%以上が,着底後2歳+(約24と29ヶ月)と3歳+(約36と41ヶ月)であると推定された.これらは脱皮成長せず繁殖を終えるとSite Iで死亡する.これまでの飼育および野外調査で得られている胚発生期間(0.5-2.5ヶ月),幼生発生期間(0.5-3ヶ月),各成体の繁殖期間(3-6ヶ月)を今回の結果と合わせると,モクズガニの自然条件下での生涯にわたる生存期間(寿命)が推定される.福岡の個体群では,多くの個体がおよそ2歳+(約30ヶ月)から4歳+(約50ヶ月)であることが明らかになった.