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ESJ57 一般講演(ポスター発表) P3-051

イヌワシ営巣地の改良事例とその効果

前田 琢(岩手県環保研センター)


日本に生息するイヌワシ(Aquila chrysaetos japonica:環境省レッドリスト1B類・国内希少野生動植物種)は、1990年代以降、繁殖成功率の顕著な減少が続いている。繁殖失敗の主たる要因は、管理の不足した森林の増加による餌動物や採餌場所の欠乏と考えられる。このため、本種の保護には生息環境の整備が急務で、列状間伐や群状伐採などの手法を取り入れながら、森林に好適採餌環境を増やす試みが進められている。しかし、年月を要する生息環境改善を待つ間に、個体群の縮小が進んでは取り返しがつかないため、繁殖支援のためのあらゆる方策を講じていく必要がある。

岩手県・北上高地は国内で最もイヌワシの繁殖密度が高い地域の1つであるが、餌不足のみならず、冬期の巣への積雪、不安定な土台による巣の落下、クマなどの動物の巣への侵入、繁茂した樹木による巣への出入り阻害など、営巣条件の悪さによる繁殖失敗もみられる。このようなリスクを低減するため、人為的に巣に改良の手を加える次のような試みが実施されている。(1)上方に十分なオーバーハングがない岩棚に作られた巣に屋根を設置し、積雪による巣の埋没を防ぐ。(2)土台部分が貧弱で巣材の落下がみられた巣に安定した巣台を設置し、落下を防ぐ。(3)動物の侵入が確認された巣の侵入路となる部分に柵や板を設置し侵入を防ぐ。(4)樹木やつる草が繁茂した巣のまわりで伐採作業を行ない、巣に出入りするために必要な空間を確保する。

これらの改良事例はまだ多くはないが、改良した巣が繁殖に利用され、雛の巣立ちに成功する例も得られており、人工物や人為操作に対する拒否反応はそれ程大きくはないと考えられる。本発表では各事例の詳細とその後の利用状況を紹介し、イヌワシ営巣地改良の手法について検討する。


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