ESJ57 一般講演(ポスター発表) P3-140
*渡辺洋一,戸丸信弘(名大院生命農)
絶滅危惧種を保全する上で、限られた自生地において、それぞれの集団内にはどのような遺伝的多様性が存在し、集団間ではどのように遺伝的分化をしているかを評価することは重要である。日本における種のホットスポットの一つとして蛇紋岩地が挙げられる。蛇紋岩地は、土壌のpHが高いことや一部の重金属濃度が高いことから多くの植物の生育を妨げる。そのため、蛇紋岩地には適応的に進化した固有種が多く、それらのいくつかは絶滅危惧種である。東海地方の蛇紋岩地にのみ分布するジングウツツジRhododendron sanctumは環境省のレッドリストで絶滅危惧II類に指定されている絶滅危惧種である。ジングウツツジは、中央構造線付近の断片化した蛇紋岩地にのみ分布しており、遺伝的多様性や遺伝的構造は蛇紋岩の分布に影響を受けている可能性がある。
そこで、ジングウツツジ7集団を分布域全体から抽出し、マイクロサテライト7座を用いた遺伝解析を行った。集団間で遺伝的多様性(アレリックリッチネスとヘテロ接合度)に大きな違いは見られなかった。集団間でDA距離を計算し、近隣接合法により集団系統樹を構築したところ、伊勢湾の東西で大きな遺伝的分化が認められた。STRUCTURE解析より、三重、愛知、静岡の三県でそれぞれ優占する3つのクラスターが確認された。3つのクラスターのうち、静岡県に優占するクラスターは他の2つのクラスターよりFSTが高かった。このことは、限られた蛇紋岩地の分布範囲が原因で、集団がボトルネックを受けた可能性を示している。10km程度離れた集団間でも大きな遺伝的分化が見られたため、ジングウツツジにおいて移植など具体的な保全策を構築する場合には、この遺伝的構造を考慮する必要がある。