ESJ57 一般講演(ポスター発表) P3-160
*奥村栄朗, 奥田史郎, 伊藤武治(森林総研・四国), 酒井敦(国際農研センター)
四国では人工林率が極めて高く、原生状態に近い天然林はごく僅かしか残されていない。南西部の愛媛・高知県境にある三本杭(1226m)周辺にはブナ、カエデ類等の落葉広葉樹を主とする天然林がまとまって残っていて、四国におけるブナ林の分布南限でもある。しかし、近年ニホンジカの増加により、ササ原等の裸地化、林床植生の消滅、樹木の枯死・減少等、森林の顕著な衰退現象が生じてきた。そこで、シカが自然植生に及ぼす影響の調査を2005年より開始し、その中で天然林の剥皮被害について継続調査を行ってきた。なお、この研究は林野庁四国森林管理局の調査委託によるものである。
山頂周辺の林内に0.10haの固定プロット6ヶ所を設定し、胸高直径3cm以上の生立木について樹種、直径、剥皮被害の程度を記録した。剥皮痕は関根ら(1992)に従って被害程度を区分し、樹幹部について地際からの上下端の高さを測定した。以上から楕円近似により剥皮痕面積の推定値を算出し、この推定値が加害可能な樹幹(2m以下)の表面積に占める割合(%)を「剥皮被害指数」として被害程度を示す指標とした。以上を毎年行い、新規被害および枯死木の発生状況を記録した。
調査開始時、既に林床植生はほとんど無く、アセビ等の不嗜好樹種を除く立木には高頻度で剥皮痕があった。主要な上層木のコハウチワカエデで55%、シカの嗜好度が高いリョウブ、ヒメシャラで95%以上に剥皮痕があった。3年間に総てのプロットで新規被害と枯死木が発生し、全体ではコハウチワカエデの9%、リョウブ、ヒメシャラの10%、シロモジの45%が剥皮により枯死した。全樹種では約5%の立木が枯死し、その80%は剥皮による枯死であった。
一方、この間の糞粒法によるシカの生息密度推定結果は、ほぼ30頭/km2前後の高密度で推移した。