ESJ57 一般講演(ポスター発表) P3-207
*松林順,森本淳子(北大院農),間野勉(道環境研),南川雅男(北大地環研),中村太士(北大院農)
北海道東部に位置する知床半島地域は、海洋生態系と陸域生態系の相互関係が評価され、世界自然遺産に登録された。この海洋と陸域の物質循環に大きく貢献していると考えられるのが、サケ属魚類とヒグマである。産卵のため遡上するサケ属魚類は、海洋から河川へ海由来の栄養を運搬する役割を担う。また、知床半島で食物連鎖の頂点に立つヒグマは、サケ属魚類を捕食することで河川から陸域に海由来の栄養を運搬する役割を担うと考えられている。しかし、サケ属魚類の利用については、捕食行動の観察の記載などにとどまっており、地域個体群レベルでの利用状況は明らかになっていない。サケ属魚類の利用は、長期的に見るとヒグマの個体群維持にも影響を与える要因であり、地域個体群レベルでの利用状況やヒグマの生活史に伴った利用の変動を捉えることは、海洋‐陸域の生態系ネットワークとヒグマの生態を把握する上で重要である。
従って本研究では、ヒグマの食性を定量的かつ個体別に評価することができる、安定同位体を用いた食性分析手法を使って、1.知床半島地域で捕獲されたヒグマ全体のサケ属魚類利用割合、2.ヒグマの生活史に伴った食性の変化、3.サケ属魚類の利用が多く見られる環境の特徴を明らかにすることを目的とした。
有害駆除により回収された知床半島地域のヒグマの大腿骨から抽出したコラーゲンと、知床半島の各地で採取したヒグマの餌資源のδ13Cとδ15Nの値を測定し、各個体の食性をモンテカルロ法により推定した。また、メス個体捕獲地点の環境要因と各個体のサケ属魚類利用割合を用いて主成分分析を行い、サケ属魚類の利用が多く見られる環境の特徴を検討した。本大会ではこの結果を用いて、上で挙げた目的について考察する。