ESJ57 一般講演(ポスター発表) P3-245
*黒河内寛之,當山啓介,宝月岱造(東大院農)
北米原産のニセアカシアが日本に導入されて以来,100年以上の歴史がある.本種は初期成長が著しく早いという特徴があるため,導入当初は肥料木・砂防樹木・庭木・街路樹などに用いられてきた.また,最近では薪炭材・蜜源植物としても利用されている.一方,近年はニセアカシアの旺盛な繁殖力による野生化が問題となっていて,特に河川敷への本種の侵略的な分布拡大は顕著である.
河川敷へのニセアカシアの分布拡大は,生物多様性の低下や出水時の流木化などの問題をもたらすため,河川生態と河川管理との両面から考察する必要がある.ニセアカシア河畔林の効果的な利用・管理のためには,成熟したニセアカシア個体群の生態を正確に把握することが不可欠である.本研究では,長野県千曲川流域に分布する伐採時期の異なるニセアカシア河畔林に着目し,年輪解析とSSRマーカーによる遺伝子解析とを行い,ニセアカシア個体群の伐採後の復元過程を把握することを目的とした.
千曲川流域の6つの調査地に合計9つのプロットを設置し,各プロットのニセアカシアを調査対象とした.年輪解析の結果,伐採後数年以内に生じた個体によりニセアカシア河畔林が再生していた.伐採による刺激により新たな個体が直ちに生じるが,数年でその影響がなくなると推測される.4種類のSSRマーカーを用いた遺伝子解析の結果,伐採後に生じた個体の大部分は栄養繁殖で,遺伝子型の同じ個体は固まって分布していた.ニセアカシアには種子による有性繁殖と根や切り株からの無性繁殖があるが,伐採後のニセアカシア河畔林の復元は無性的に直ちに進行したと言える.上記の遺伝子座を用いたAMOVAの結果,流域レベルでの遺伝的な差は認められなかった.本調査地の範囲では,周囲に広く分布する親個体から生じた種子が定着し,分布が拡大したと推測される.