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ESJ58 企画集会 T13-2

日本列島弧の海岸の生物多様性の特徴と現状

加藤 真(京大院・人間 環境)


日本列島弧は、海の生物多様性の著しい高さを享受している。この多様性の背景には、サンゴ礁生態系の存在、複雑な海岸線が作る多様な沿岸環境の存在、そして日本海溝に至る大きな深度勾配がある。海の生物多様性は、地下資源の少ない日本にとって、最後で最大の資源であると言ってよい。しかし、日本は海の教育をおろそかにしてきただけでなく、海岸線の改変や、海の汚染、富栄養化、砂堆における海砂採取、川と海の連環の断絶などによって、誇るべき多様性を急速に失いつつある。

日本列島弧は、熱帯の海の生物多様性を付与されていることに加え、この海域で特別に多様化した固有の生物群を宿しているが、その代表が礫浜で適応放散したミミズハゼ類である。急峻な山脈をしたがえ、雨量の多い日本列島は、海岸には数多くの礫浜を持つ。ミミズハゼ類の分子系統解析と、その系統をもとにしたハビタットの変化や脊椎骨数の変化の追跡によって、ミミズハゼはこのような多様な礫間隙に適応しつつ、多様化したことが明らかになった。

瀬戸内海はアジアで最大規模の内海で、きわめて特徴的な生物相を有していたが、現在では海岸の改変や汚染、生物多様性の減少が著しい。そのような瀬戸内海にあって、周防灘は海岸や海域での人為の影響が最も少なく、干潟・海草藻場・磯・海藻藻場・礫浜・砂堆などが最もよい状態で残されており、瀬戸内海を代表する生物相や生態系が息づいている随一の場所である。そこには、一つの海岸に7種のミミズハゼが生息する海岸も見られる。周防灘は、海洋保護区にこそふさわしい場所であり、原子力発電所を建設するのに最もふさわしくない場所である。さらに、辺野古の海草群落、泡瀬の海草干潟、奄美諸島の入江など、世界に誇るべき日本のかけがえのない海の自然が、不当に低い評価をされたまま、開発によって失われる危機に直面している。


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