野外調査の安全マニュアル案

(日本生態学会 野外安全管理委員会 編)

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調査実施前

フィールド事故における保険の役割

 いったん事故が起こってしまったとき、しばしば事故当事者や関係者は経済的に大きな負担を受けることがある。その経済的負担を軽減する上で保険の果たす役割は小さくない。保険には事故以前に加入している必要があるから、調査前の段階で、計画に応じた、保険への加入や保障内容などを確認することは重要である。フィールド事故における保険は、何を保障する保険かにより、大きく、以下の3つの内容にわかれる。

1.事故当事者の傷害(後遺傷害を含む)や生命などに関するもの

 大学や研究機関における職員の事故は、通常、職場の事業所向け傷害保険や労働者災害補償保険(労災保険)などの制度で補償される仕組みになっている。大学生・大学院生の場合には、調査が大学での正課の一環と認められれば、通常入学時に加入する「学生研究教育災害傷害保険(学研災)http://www.jees.or.jp/gakkensai/index.htm」(財団法人日本国際教育支援協会)などの保険制度によってけがや死亡時に補償がされる。通常は、大学の学生課窓口で加入でき、また、保険料も安い。(学研災は多くの大学で掛金を大学が負担して全学生に強制加入させている)。通常の卒業年次を越えて在学している場合は、保険期間が切れている恐れがあるので、追加加入する。

 有職者の場合、事故が就業中に起こったことを明確に示せるかどうかが保険適応の可否を決める可能性がある。学生・院生の場合も、大学での正課の一環のなかで起こったことを立証する必要が生じることがある。これを証明するのは意外にやっかいな作業である。調査計画書が事前に書類として提出されていることは、この意味できわめて重要である。また、多人数によるフィールド調査の場合には、旅行用傷害保険に加入することも選択肢として考えられる。~ フィールド調査に関する保険加入にあたっては、保険金の法定受取人に対して、保険加入の意味と保険金の一部(とくに捜索費用・救援費用)の供出を要請する可能性があることを加入時に書面にて連絡しておくことが望ましい。とくに、調査者が行方不明となって、捜索が長期に及んだ場合、その費用の分担に関して捜索本部と行方不明者の親族の間で齟齬や確執が生じることも考えられる。そのような場合でも、組織的な捜索を円滑に行う費用の確保のために、法定受取人との間に事前の約定を済ませておくことは有効である。

 フィールド調査の場合注意すべきこととして、一般の傷害保険が登山行為やスカイスポーツ中の事故をその補償対象に含めないのと同様に、初めから危険性を伴う行為として通常の保険の補償対象外になる可能性がある。とくに、氷河や渓谷、岩場での調査、ザイルを用いた高所調査、クレーンを用いた林冠調査などはハイリスクな行為として、保険適用の対象外になる可能性がある。また、旅行用傷害保険は種類によっては、業務中の事故は補償対象外となる物があるので、注意が必要である。

2.捜索・救出などの費用に関するもの

 フィールド調査における事故が実際に発生した場合に、必ずしも上記保険のみで事故者本人やその関係者が負担するべき金額を全て担保できるわけではない。とくに行方不明になった場合の捜索費用などは大きな額になる可能性があり、別にこれらを補償する保険に加入する必要がある。たとえば、初動捜索(ヘリコプターチャーター、関係者現場派遣など)に数百万円の現金が必要となるケースが多いが、通常の保険や共済では、こうした捜索費用の素早い支払いは行われない。行方不明者の捜索などで現地に関係者が長期間派遣される場合や、空からの捜索を警察・自衛隊・海上保安庁以外の民間に依頼した場合には、数百万円から一千万円前後の捜索費がかかる可能性があり、関係者には多大な金銭的負担が発生する。

 この点を埋めるのが、山岳保険やハイキング保険と呼ばれる、掛け捨て型の捜索・救援費用特約付き傷害保険である。最もハイリスクな本格的な登山活動まで補償するのが山岳保険(ザイル等使用の場合など)、森林調査や動物調査で実質的にハイキング程度のリスクと見なされる場合はハイキング保険(または野外活動保険)が有効である。山岳保険やダイビング保険の多くは、大手保険会社が引き受け会社となり、取扱代理店と共同で保険の企画設計を行っている。このため、補償内容は各社でかなり異なる。 いずれの保険においても、所属団体(研究者の場合は研究室の教員ないし大学事務組織)に行動予定表を提出することは必要最低条件である。予定表がない場合、保険金支払いが拒否される場合もある。

 なお、「捜索費用」と「救援者費用」は定義が異なるので注意が必要である。

捜索費用: 遭難した被保険者を捜索、救助または移送する活動に要した費用。被保険者の遭難が明らかでなくとも、下山予定期日後48時間経過しても下山しない場合、親族が警察・消防団・公的機関・救助隊等に捜索依頼をしたことをもって「遭難の発生」と見なす(結果的に何事もなく無事に戻ってきても初動捜索費用は支払われる)。山岳登攀などのリスクの高い行為に適用される。

救援者費用: 事故において保険契約者、被保険者、親族が負担した遭難救助費用、交通費、宿泊費、移送費用、諸経費をいう。事故によって緊急の捜索・救助活動の必要性が警察などの公的機関により確認された場合にのみ支払われる(警察の遭難事故証明書の発行など、事故が起こったという公的確認が条件)。山岳登攀などのハイリスクの行為(ザイル使用の場合など)には適用されない。

3.調査に従事する者が与えた存在に関するもの

 フィールド調査における事故では、研究者は他の人にけがをさせたり他人の物などに対して与えた損害を賠償する責任を問われることもありうる。大学や研究機関における職員の事故・過失に対する保障は、賠償責任保険などの制度で補償される仕組みになっている。また、訴訟された場合の訴訟費用に関する保険もある。研究機関によっては、機関自体が加入している場合もあり、自分や共同研究者が属する期間の加入状況を事前に知っておく必要がある。
  学生や院生の場合には、1.で述べた保険への上乗せプランとして、学研災なら学研災付帯賠償責任保険のような、賠償責任保険がある。

4.救援者費用や捜索費用をカバーする保険の例

(1)富士火災海上保険株式会社の傷害総合保険+救援者費用あるいは捜索費用

 この保険は、勤務中か否かを問わず、24時間担保される。ただし、担保範囲は国内に限る。
  ハイキング程度の場合で行方不明に成った場合の捜索費用は、救援者費用によりカバーされる。カバーの範囲には、山菜狩りや渓流釣りなども含まれ、補償の上限は、500万円である。
  登山用具を用いた「山岳登攀」の場合は、捜索費用によりカバーされ、上限は、死亡・後遺症の保険金額以下で200万円を超えない範囲。たとえば、死亡・後遺症の保険金が100万の場合は、捜索費用の上限は、100万円になる。

 ただし、
・リーダーがピッケルを安全・用心のため使用の場合は、山岳登攀になるか否かは、非常に微妙でケースバイケースかと思われる。
・リーダーが用心のためピッケルを使用し、メンバーが軽装であれば、一般的に危険な場所とは思いにくいので、山岳登攀ではなく「一般ハイキング」で、「救援者費用」からの支払いになると思われる。
旨の説明が保険会社からなされている。

費用

保険料 2320円の場合
   死亡・後遺症  100万
   救援者費用   500万

保険料 6660円の場合
    死亡・後遺症  100万円
   救援者費用   500万円
   捜索費     100万円

保険料 13010円の場合
   死亡・後遺症  200万円
   救援者費用   500万円
   捜索費     200万円

ただし、捜索費は、死亡後遺症への保障額の範囲内という条件。

(2)mont-bell社が扱う保険(引受会社 富士火災海上保険)

webからの加入可能(http://www.hoken-montbell.com)。各プランの中から掛金が最も安価なもののみ掲載した。(2006年12月時点)

<<ここに表がはいる>>

mont-bell社の場合、野外活動保険では同プラン内で掛け金を増額すると死亡・後遺障害の補償額が増える。また、山岳保険の場合は死亡・後遺障害と遭難捜索費用が増える。

(3)海洋および海外での事故に関する保険

 海洋の事故についてはダイビング保険(DAN JAPAN)またはダイバーズ保険(遠井保険事務所:引受会社AIU、PADI:引受会社損保ジャパン)という商品がある。また、海外の場合は、移動中の交通機関の事故への補償を厚くする意味で海外旅行傷害保険を併用することが望ましい。

その他、主要な野外活動・山岳保険は代表的な以下のHPを参照されたい。

 (有)セブンエー(三井住友海上・東京海上日動代理店)http://e7a.jp/

 (有)木村総合保険事務所(富士海上火災代理店)http://kshj.co.jp/mountain/

 北大環境科学院の学生向け保険 http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~tsuyu/misc/on_insurance.html


Last modified: Thu, 27 Mar 2008 08:56:41 +0900 (JST)