野外調査の安全マニュアル案

(日本生態学会 野外安全管理委員会 編)

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調査実施前

調査直前の準備

体調管理

 フィールドに行く以前の体調の管理は、極めて重要である。野外調査の直前は、仕事が立て込み、無理をしがちではあるが、十分な睡眠をとり、万全の体調で調査に出かけることが大事である。また、疲れ気味である場合は、その事実を認め、移動・行動中の休息時間を多めに取るなど、体力と注意力の維持に努めなければならない。なお、本当に体調に不安がある場合は、思い切って調査を中止すること。データよりは、命や健康のほうが遙かに重要である。
  大きな怪我は無いが、例えば道に迷うなどでフィールドで遭難した場合、基礎体力がある人のほうが、そうでない人よりも生還の可能性が高い。野外調査に行く機会が多い人は、日頃から運動をするなど体力維持に努める必要がある。特に、加齢とともに基礎体力・筋力は低下するので、中年以降は、意識的に体力維持・向上に努めるとよい。とくに、肺活量、柔軟性(股関節、脚部)、腰以下の筋力を意識的にトレーニングすると効果が大きい。

予防接種について

各国に必要な予防接種の種類、最新の感染症流行状況などの情報は、厚生労働省検疫所ホームページ 「Forth for traveler's health 海外旅行者のための感染症予防情報」http://www.forth.go.jp/index.html や、国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/index-j.htmlを参照されたい。
  渡航先によっては、複数のワクチン接種が必要であったり、1種類のワクチンでも期間をおいて数回接種する必要があるものがあるため、海外調査の出発の最低6ヶ月以上前から必要な予防接種を調べ、最寄の検疫所に接種の相談をする。途上国では、先進国よりも医療事情が悪かったり、病院に受診しても言葉の問題により症状を正確に伝えることが困難な場合があるため、血液型、アレルギーの有無、既往歴など自分自身の簡単なカルテを現地の言葉で書いたものを用意していくことも必要である。また、途上国では、下痢や食中毒、寄生虫に感染を防ぐために、生野菜、生水は避け、必ず火をとおしたものを食べるなどの予防も必要である。多くの感染症は蚊を媒介とすることから、虫除けスプレーを用いたり、なるべく肌をださないようにするなど、蚊に刺されないための予防対策も重要である。感染症によっては、国内でワクチンが認可されておらず、自分でワクチンを準備し接種してもらえる医療機関を探さなくてはならない場合もある。予防接種を受けたい場合は、最寄りの検疫所や検疫衛生協会に事前に相談する必要がある。以下に主な感染症とその予防接種について述べる。

・破傷風
  土壌中の破傷風菌が、傷口から体内に侵入することで感染。渡航先に関係なくフィールド調査する研究者が受けておいたほうがよい。ヒトからヒトへは感染しない。3種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日咳)は、1回接種で10年間免疫が有効。接種方法―3回接種(初回0.5ml→3-8週間後に2回目0.5ml→6-18ヶ月後に追加0.5ml)

・A型肝炎
  A型肝炎ウイルスに汚染された水や野菜、魚介類を生で食べることにより感染。基本はヒトからヒトへの感染で、食物を介さないこともある。特に、途上国に中・長期(1ヶ月以上)滞在する場合や40歳以下のヒトは、うけることが望ましい。接種方法―3回接種(初回0.5ml→2-4週間語に2回目0.5ml→6ヵ月後に3回目0.5ml)

・B型肝炎
  感染者の血液や体液を介して幹線。特に東南アジアで感染が多い。検疫所ではワクチンの接種はおこなっていないため、必要な際は近くの医療機関に相談する。接種方法―3回接種(初回0.5ml→4週間後2回目0.5ml→6ヵ月後3回目0.5ml)

・狂犬病
  動物にかまれることによって感染する危険性が高く、発症すればほぼ100%死亡し、治療法はない。ヒトからヒトへは感染しない。特にアジア、アフリカ、中南米に長期滞在したり動物と直接接する研究者、調査地が奥地で十分な医療機関にかかれない場合はうけたほうがよい。接種方法―3回接種(初回1,0ml→4週間後→2回目1.0ml→6-12ヵ月後3回目1.0ml)3回のワクチン接種後、6ヶ月以内に咬まれた場合には、0日、3日に2回接種が必要。6ヶ月経過後に咬まれた際には、0,3,7,14,30,90日の6回のワクチン接種が必要。

・日本脳炎
  日本脳炎ウイルスは豚の体内で増殖し、コガタアカイエカなどの蚊によって豚から人に伝播される。死亡率が高く後遺症を残すことが多い。ヒトからヒトへは感染しない。国による定期予防接種は、北海道を除く各都府県でおこなわれてきたが、マウス脳による製法の日本脳炎ワクチンの使用と、重症のADEM(急性散在性脳脊髄炎)との因果関係が認定されたため、厚生労働省は平成17年5月に定期予防接種における日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えの勧告を出している。現在、よりリスクが低いと期待される組織培養法による日本脳炎ワクチンを開発中であり、その供給が可能になり次第、接種勧奨を再開する予定である。なお、東南アジアなどに滞在し日本脳炎に感染するリスクが高い人で予防接種を希望する場合には、現行の日本脳炎ワクチンの接種ができる。接種方法―3回接種(初回0.5ml→1-4週間後2回目0.5ml→12ヵ月後3回目0.5ml、この後4-5年間免疫有効)

・ポリオ
  主な伝染源は感染者の糞便から排出されたウイルスで、さまざまな経路で経口感染する。南アジア、中近東、アフリカへの渡航者は追加接種が望ましい。特に昭和50年から52年生まれの人はポリオワクチンの効果が低かったことが報告されているため、追加接種をうけたほうがよい。接種方法―1回接種(経口接種0.05ml)

・コレラ
  コレラ菌を病原体とする経口感染症。ワクチンはあるが効果に問題があるため、あまり勧められていない。衛生面や食生活での予防を重視している。接種方法―3回接種(初回0.5ml→2回目1.0ml→6ヵ月以内追加接種0.5ml)

・ペスト
  野ウサギや野リスなどに寄生しているペスト菌を保有したノミによって媒介する。ヒトからヒトへ感染する。予防接種の副反応が強く、効果も必ずしも十分ではないため、あまり勧められていない。法律的には認可されているが、国内ではワクチンを保有している医療機関がないため、接種を希望する場合はワクチン個人輸入する必要がある。接種方法―3回接種(初回0.5ml→3日後2回目接種1.0ml→3日後3回目1.5ml)

・ジフテリア
  ジフテリア菌の飛沫感染でおきる。ヒトからヒトへの感染が可能。ロシア、東ヨーロッパに長期間滞在する際、受けることが望ましい。破傷風といっしょに3種混合ワクチンに含まれるので、定期予防接種で12歳にときにうけていれば20代前半までは免疫がある。その後は1回の接種で10年間有効。接種方法―3回接種(初回0.5ml→3-8週間→2回目0.5ml→6-18ヶ月追加接種0.5ml)

・マラリア
  マラリア原虫をもった蚊(ハマダラカ、夕方から夜にかけて発生)によって媒介。予防薬(クロロキン)をマラリア流行地域到着1週間前から飲み始める必要があるため、それまでに医師から処方をうけることが必要である。マラリア予防薬は人によっては副作用があり、また予防薬を内服していてもマラリアに感染することもある。予防薬を扱っている医療機関については、各検疫所に問い合わせること。

・黄熱
  ネッタイシマカなどによって黄熱ウイルスが媒介される。中央アフリカや南アメリカなどの熱帯地域の国への渡航には、黄熱病予防接種に関する国際証明書(イエローカード)が必要である。また、黄熱の流行国からインドや東南アジアの国へ入国するときも証明書の提示が要求される。この証明書は、接種後10日後から10年間有効である。1回接種0.5ml

・ダニ脳炎
  TBE(Tick-borne encephalitis)に感染したマダニによって媒介。ユーラシア大陸では一般的な感染症であり、感染した場合確実な治療法はない。日本では北海道で確認されている。ワクチンは日本では正式認可されていないため、マダニの多い場所で仕事をおこなうハイリスクの人で接種を希望する場合はワクチンを個人輸入し接種に応じてくれる医療機関で接種をおこなう。輸入元は、オーストリア Baxter社(http://www.baxter.at/、http://baxter.com/)やドイツ Chiron社がある。

 

事前の天気予測

 気象の基礎的な知識については、後述する。ここでは、調査の計画にあたって必要なチェックポイントを簡略に述べる。

1:国内の場合

 Webの短期予測天気図、気象レーダー、衛星画像を用いて、数日後の気圧配置と雲の配置をあらかじめ予測する。天気図は印刷しておいて携帯すると良い。

 気象庁予報部(http://www.jma.go.jp/jma/index.html

 Weathernews.jp(http://weathernews.jp/

 国際気象海洋(http://www.imocwx.com/index.htm

最近のWeb情報では、高層気象の情報も取れるので標高の高い山岳地では寒気の流入やリッジ・トラフの配置も併せて把握しておくとより正確な予測が可能である。

 北海道放送(http://www.hbc.jp/pro-weather/index.html

日本海側地域や盆地などでは特定の気圧配置で起こる局所的気象現象(冬の積乱雲の発達や「だまし好天」など)に注意し、最悪のケースでの天気の推移を予測する。複雑な気圧配置の場合は、複数の気象会社(および気象庁)の短期・長期予測(会社ごとにかなり違うことがある)を比較して判断材料とする。比較希望的観測ではなく、フィールドで最も悪い天気になった場合の対処法を考えることが大事なので、気圧配置を見ながら「悪い予測」をする。雨具、防寒具、着替え、防水野帳などの装備品も、この「悪い予測」に沿って揃えるようにしたい。

2:国外の場合

 先進国と途上国で手に入る情報の種類が全く異なっている。欧米諸国の場合は、日本とほぼ同様に天気図などの主要な気象情報が開示されているので、それらのページを参照する。途上国の場合、短期・週間予報レベルであれば、国の首都などに限って予報を得ることが出来る。しかし、天気図やレーダー画像の入手は難しい場合が多い。

 JAL(http://weather.jal.co.jp/

 Yahoo(http://weather.yahoo.co.jp/weather/world/

 WNI(http://weathernews.jp/world/

 局所的な気象現象としての、スコールの時間帯(熱帯)、モンスーン期の降雨時間帯(インド・ネパールなど)、夏期の降雪(北方林・極地・高山)、積乱雲の発達時間帯と落雷箇所などは事前情報として、地域に詳しい者から情報収集を行い、研究チームの共有情報としてまとめておきたい。

 

調査前 天気の読み(海・川編)

1.天候

 基本的な点は山編と同じであるが、海の場合は、波、風および潮汐に特に注意する必要がある。また、河川、河口域、沿岸では、河川の増水(洪水)に伴う環境変化にも留意が必要。

2.潮汐・潮位

 特に潮間帯での調査では確認が不可欠である。潮汐表で確認し、各調査地ではどの潮位なら安全に作業できるかを事前に把握する。なお、潮汐表に掲載されているものはあくまでも予測潮位であり、実際(実測潮位)は、天候や海況(高気圧や低気圧の接近時、強風時)に応じて大幅に異なることも頻繁にある。

3.波、風

 気象庁および信頼できる民間気象団体発表の最新の気象情報を常にチェックすること。波予想は現況から60時間後までの予測が入手可能(web情報)。ただし、波予想は特定の観測点の情報を基に外挿した予測結果なので、各調査点の波高とは必ずしも一致するとは限らない。局所的な地形や風向・風力にも大きく影響されるので、調査地点の実際の波あたりの特性について十分理解したうえで、慎重な計画を立てることが重要である。

4.台風

 台風や大型の低気圧が通過する場合には、たとえ予想進路からかなり離れていても、接近前後の数日間はうねり(波とうねりのちがい)等により調査が不可能な状態になることがある。また、波予想のみではうねりの大きさまではわからない場合がある。台風は突然発生して襲来することもあるので(例:2007年10月発生の台風20号)、気象情報は最新のものをこまめにチェックする必要がある。

5.河川の増水

 河川、河口域は急な増水による注意する。特に直前に大雨があった場合、また調査中に予想される場合は、気象情報をここ数日間の状況を含めて確認すること。河口域では、大雨後も数日間濁ることがあるので、スキューバ、スノーケリングの調査の場合についても、事前の気象について留意する必要がある。

6.ダムの放流

調査前 天気の読み(山編・海編)

 海・山を問わずフィールドでの調査研究には、常に天気に関する情報の把握が必須となる。直接気象を計測する気象学・海洋学・砂防系の分野はもとより、植物生態学・動物生態学においても森林内の気象の直接計測を行うことは多い。また、山の中や渓流の調査では、気象遭難(疲労凍死など)・土石流・雪崩などから身を守り、安全確実に調査を遂行するための重要なツールとなる。概して、フィールド科学系の研究分野で気象学ほど普遍的に役に立つものはないと言ってもよいくらいである。専門の気象計測については別の機会に学ぶとして、ここでは山中の行動を安全に行うための初歩の気象学について説明する。

1.天気図とひまわり画像、天気予報の使い方

 近年、気象予測技術およびそのインフォマティックス(情報伝達技術)は驚異的なスピードで進歩を遂げ、携帯電話やWWWで天気予報はおろか天気図やひまわり画像、降雨レーダー画像まで簡単に手に入るようになった。日常生活では、これらの情報を利用していれば生活に何ら支障はない。また、日帰り程度の短い調査旅行ならば既存の天気情報でも充分対応できる範囲である。以下のHPは国内のサイトとして非常に利用価値が高いので積極的に利用したい。

 ・WNIサイバーウェザーワールド(http://www.wni.co.jp/cww/
  日本の気象関連のWebサイトの中で最も一般的なサイト。実況の地上天気図・AMEDAS・ひまわり画像などが無料で手に入る。地上天気図とひまわり画像の合成画像を簡単に見られるのが強み。紅葉前線や桜前線、洗濯指数なども掲載される。気象の勉強には毎日このページを見ることをお勧めする。

 ・国際気象海洋株式会社(http://www.imoc.co.jp/index.htm
  WNIよりも専門家指向が強く、気象予報士受験志望者などにも対応できる質の高い一次データを提供する。特に、高層天気図がリアルタイムでアップされる点や、気象庁発表の予報文が原文で掲載されるなどの点は他のサイトにない大きな特徴である。3000m級の高山で仕事をする場合には特に重宝する。

 しかし、標高の高い山岳地域や海洋島などの調査研究旅行では、こうした情報が電波状況によって全く利用できないことがある。AMラジオや短波ラジオの電波しか受信できない場所では従来通りの天気図作成と気象予測が必要となる(この作業は気象学の根本を学ぶ作業であるため、是非収得することを勧める)。また、山岳の気象は一般に地上のそれよりも変化のスピードが格段に速く、その変化幅も大きい。加えて、山岳地には地形や気流の影響により、その地域固有の気象変化の「クセ」があり、この地域差が大きい場所では通常の天気予報が全く当てはまらないケースが出てくる。
  こうした山岳地特有の気象条件は、これを熟知し前もって対応を行っている者とそうでない者の間に時に決定的な差をもたらすことになる。すなわち、同じ気象条件下でもあるものは確実に調査を遂行して下山できるし、あるものは遭難事故を起こしたりデータなしで撤退することになる。フィールドの専門家としては、後者は是非とも避けたい事態であり、そのためにはAMラジオと目の前の雲、および地域気象の知識から翌日の天気の変化傾向を推定する技術を会得して欲しい。

2.天気図作図・読図の基本

 天気図の描き方は多数出版されている技術書やHPに譲り、ここでは最小限の情報のみを記す。天気図読図法が書かれた書籍で、典型的な気圧配置とそれがもたらす気象変化パターンを頭に入れるとよい。

(1)ラジオの気象通報(地上天気図)
   NHK第二放送で9:10、16:00、22:00の3回、各20分。

(2)天気図用紙
   日本気象協会発行のものが3種類あり、初心者は大きくて描きやすいNo.1書式を、経験者はエリアの広いNo.2書式か携帯性の高いラジオ用小型天気図帳を薦める。いずれも安価である。

(3)等圧線をひく
   気圧の尾根・谷の形に十分配慮し、できる限り正確にひくことを心がける。山岳地では、前線にはならない小さな気圧の谷や特定方向からの風の吹きつけで天候が大きく変化するためである。

(4)読図
   自分がいる位置の西側にある低気圧や前線周辺の観測点データに注目する。これを元に雲の配置や風の方向を把握し、低気圧の移動速度を元に翌日の天気の変化傾向を予測する。

<<図が入ります>>

3.インターネットでダウンロードできる天気図の例(IMOC)

 

4.観天望気

 雲・風・体感気温・空の色などから短期間の天気予測を行うことを観天望気という。雲や風は直接的に気象現象を起こす主体であり、その変化を正確に分析することは今も昔も気象予測の原点である。仮に天気図が無い場合でも、最低限の雲の知識があれば行動の安全性が確保される場合も多い。このため、雲を見る目を体系的に学習することはフィールドワーカーにとって必須の作業といえる。また、雲と気圧配置の関係性を理解すれば、天気図と観天望気を組み合わせた局所予想が可能となり精度は飛躍的に向上する。

(1) 十種雲級を理解しよう
  様々な雲を出現高度と形状(層状か雲塊状か)によって分け、さらに雲が水滴か氷かなどで細分することによってカテゴライズされたのが十種雲級である。観天望気の最も基本となる分類体系であるが、覚えて使いこなすには少々慣れが必要。

<<表が入ります>>

(2) 雲形を理解しよう

(3) 観天望気と天気図のリンク

有害生物への対処

 室内での研究と異なり、野外研究ではさまざまな有害生物、危険生物に出会う確率が高い。自分のフィールドに生息する可能性のある有害生物に対しての正しい知識と対処法をあらかじめ調べておく必要がある。有害生物の分類はいくつか可能であるが、ここでは加害の状況により便宜上、「有毒生物」、「咬刺裂傷加害生物」、「病原体媒介および吸血、寄生生物」の三つにわけ、いくつかの具体例をあげ、その害への予防、対処法について紹介する。また主に日本に生息するものを中心に言及するが、特に海外における有害生物については情報不足による事故もあるので、初めて訪れる場合は、事前に現地の協力者やその地で活動をした経験のある人にアドバイスをもらっておくことが必要である。特に熱帯地方には有害生物が多いので注意を要する。

1.有毒生物

 有毒生物には、毒針、毒牙などを持った動物が人間を攻撃してくる場合(攻撃型)、ウルシなどの植物やドクガなどの幼虫との不用意な接触などによるかぶれ、炎症を引き起こす場合(接触型)、毒キノコなどのように摂取することによって食中毒を引き起こす場合(食中毒型)などがある。この類型化も便宜的なものであるが、いずれにせよ単なる物理的な傷をあたえるのではなくて人体に有毒物質をもたらすので、専門家による対処法が必要なケース多いのが特徴である。このうち攻撃型の有毒動物と食中毒を起こす生物が重篤な結果をもたらす場合が多い。

(1)攻撃型の有毒動物

 攻撃型といっても、相手がむやみに人間を攻撃するのではなくて、多くの場合が自らの防衛のために攻撃を仕掛ける場合がほとんどであるので、これらの動物を発見したら事前に、こちらから注意を喚起して相手の攻撃を回避することが肝要である。しかし、藪の中の地下に巣をつくるようなクロスズメバチ類や物陰に潜む有毒ヘビなどは、人間が気づかぬうちにこれらの有害生物に近づき攻撃を受ける場合があるので、刺されたり咬まれたあとは速やかな事後処理が必要である。事後処理の例は後述する。有毒、無毒の咬傷・刺傷に対する治療者の専門的措置法については、医療研修推進財団のサイト(http://www.pmet.or.jp/manual1/con02_10.htm)が参考になる。

・攻撃型の有毒動物の例

  陸上節足動物: スズメバチ、ミツバチ、アシナガバチ、マツモムシ、オオムカデ、カバキコマチグモなど。また、サソリ類やセアカゴケグモなどの毒グモ類などの外来種の生物も最近注意すべきである。特に、ハチ刺されによる事故は頻繁におこり、毎年国内で数十人の死者がでているので、ハチ類は森林での調査をする人がもっとも注意すべき有害生物である。

  毒蛇: ハブ、マムシ、ヤマカガシ、ウミヘビ。海外においても有毒ヘビは多いので注意する。

・対処法

 ハチ類の毒に対する反応は個人によって異なり、ハチ毒に対する抗体を多く持つ人ほど、刺された時に重篤な症状(呼吸困難、血圧低下などを伴う急性アレルギーによるアナフィラキシー・ショックなど)を起こしやすい。森林での作業をするものは、以前にハチに刺されたか経験にかかわらず、事前に、医療機関において、ハチ毒(現在、スズメバチ、ミツバチ、アシナガバチについて簡便に検査できる)に対するアレルギーの有無・程度を調べておくことを勧める(http://www.anaphylaxis.jp/list/index.htmlに処方箋をだせる医療機関リストあり)。抗体値の高い人は、あらかじめエピペン(エピネフリン自己注射キットの一商品名; http://www.epipen.jp/)などの処方箋をもらい購入し、ハチに刺された時アナフィラキシー・ショックが起きるようだったらエピペンを注射する。ここでの注意はエピネフリン自己注射キットは、一時的に症状を緩和させるためのものなので、即刻、付近の専門医療機関(皮膚科、アレルギー科など)にいって治療を行う。また、抗アレルギーの内服薬を処方してもらうことも有効な対策のひとつである。程度の軽い場合は抗ヒスタミン剤やステロイド剤の軟膏や内服薬も有用であるのでこれらをあらかじめ常備薬に入れておく。このほかにポイズン・リムーバー(毒吸出し器)も、刺された直後なら有効であるといわれているが、賛否両論がありその使用は自ら判断して使用する。エピペンにせよ、ポイズン・リムーバーにせよ、フィールドに持っていくだけなく、すぐに対処できるように作業現場にもっていくことが必要である。

 ハチ刺されに関しては以下の本を参照されたい。

「蜂刺されの予防と治療~刺す蜂の種類・生態・駆除、蜂刺され対策と医療~」(林業・木材製造労働災害防止協会)。

「スズメバチはなぜ刺すか」松浦誠。北海道大学図書刊行会。

 山に入る場合には長靴、厚手の服を着る、帽子を着用する、などしてハチ類対策をする。また、一般にハチ類は黒いものに対して向かっていく習性がある場合が多いので黒っぽい色の服は避けるなど工夫する。巣から離れて行動している集団性のハチはやたらと攻撃するものではないので、ハチ類が体にたかったり、周りにきた場合も手でいきなり払ったりするのではなく、ハチが去るのを静かに待つ。ある程度、距離ができたらゆっくりと離れるか、屋内の場合、十分に安全を確認して排除する。しかし巣の近くのハチ類は積極的に攻撃してくる場合があるので、威嚇行動を受けたり巣の近くに来てしまったら即刻その場を立ち去る。

 また、車の運転中に車内にハチ類がはいっていても、パニックになって払ったりするのは危険であり、車を止めて静かに車外に排除すればよい。室内ならなおさら冷静に排除できるはずである。同様に木登りや岩登り中の有毒生物との遭遇はパニックにならずに対応することが肝要である。

 ハチ類に刺された場合、ミツバチの場合、毒針を体に残すので、それを取り除かないと新たな個体の攻撃を受けるので速やかに取り除き、巣のない方向(大体、歩いてきた方向に戻ればよい)に移動する。スズメバチ類やアシナガバチの場合もその場からできるだけ立ち退き、更なる攻撃や新たな個体の攻撃を避ける。ただしあわて過ぎてパニックに陥らないように心がける。あわてると毒の周りが早くなる可能性がある。俗に使用されるアンモニアは効果がない。

 毒ヘビに対してハイリスクな場所に行く場合は、そのヘビ毒の血清がある医療機関などを把握しておくことを勧める。特に沖縄県の離島調査の際は、ハブ血清が用意されている最寄の医療機関をチェックしておく。また、ハチ毒によるアナフィラキシー・ショック対処薬のエピペンはヘビ毒によるアナフィラキシー・ショックにも有効な場合がある。また、ポイズン・リムーバーなどによる毒の吸出しも咬まれた直後なら有効であるといわれているが、賛否両論もある。毒蛇の攻撃を避けるには、ゴム長靴を履く、厚手の服を着る、毒蛇の居そうな場所は注意する、などの事前対策が第一の予防法である。

毒蛇対策に関しては

「野外における危険な生物 (財)日本自然保護協会編」参照。

 毒蛇にかまれた場合は、医療機関に行って血清を打つしか効果的な治療がない。医療機関に行く前の注意事項として、

・あわてない
   あわてると毒の周りが早くなる可能性がある。

・やたらに縛らない
   国内の毒蛇に対しては圧迫帯の効果は立証されていない。ただしコブラでは有効との見解もある。

・やたらに切らない
  これは「野外における危険な生物」での推奨事項。噛まれた場所を切って毒を吸い出しても効果が無いとする。これに基づけばポイズン・リムーバーは役にたたないことになる。一方、前述の医療研修推進財団のサイトでは有効との見解もある。

・酒を飲まない

・患部を氷などで冷やさない

・勝手に血清を打たない
   抗血清症状が出る場合がある。また、血清を打つ場合は咬まれた毒蛇の種類によって血清がことなるので、咬んだ個体の特徴を覚えておくか、咬んだ個体の死体などがあるなら保存しておく。

ハブに関するサイトはhttp://www.eikanken-okinawa.jp/habu/habu.htm

マムシ、ヤマカガシ毒 http://snake-center.com/library/bite.ph

ハチ、毒蛇に関しては自治体等で出没状況を把握、公開しているところもあり、出没情況についての張り紙などにも注意する。

(2)接触型の有害生物

 陸上植物や海産生物、毒蛾の幼虫など、動きが不活発な生物を気づかずに接触することによって加害されるが、基本的には攻撃型と同じく事前にその存在を知って回避することが最善の対処法である。また、体にたかったアオバアリガタハネクシ(昆虫)を不意に潰して体液に触れかぶれが起こるような場合も、対処法は接触型と同じく存在に早く気づいて排除することである。

・接触型の例

 陸上植物: ウルシ、ツタウルシ、イラクサなど。海外でも接触型の有毒植物は多いので注意する。ウルシ類は特に春先などは敏感な人はそばを通っただけでかぶれる場合がおおい。ウルシ類に対して敏感な人はとにかく避けるしか対処法はない。一般にこれらの植物によって重篤な症状に至る例はすくないが、かぶれが重症な場合は、気管閉鎖などによる呼吸障害なども起こりうる。また重症のかぶれにより注意が散漫になり自動車の運転や機械類の操作に影響を及ぼす恐れがあるので、決して侮ってはいけない。

 海産生物: ガンカゼ(ウニ)、オニヒトデ、カツオノエボシなどの毒クラゲ類、イモガイ、アカエイ、ゴンズイ、オコゼ類など。

 陸上動物:ヒキガエル、アカハライモリなどの両生類(手荒に触ると防御物資を分泌し、目や粘膜を刺激する)。

・事前の用意

 陸海ともに、手袋や長袖を着るなどのなるべく肌を露出しない格好をする。暑い時期には肌を露出しがちであるが、このような生物が生息する場所に行く場合は服装に注意する。ウルシなどにかぶれた場合は抗ヒスタミン剤、ハネカクシ類にはステロイド軟膏などを常備薬に入れておく。

(3)食中毒型の有害生物

 食べることによって、吐き気、めまい、昏倒、下痢、血圧異常などを引き起こすものであり、死亡などの重篤な症状を引き起こす事故例が多いので十分な注意が必要である。しかし、怪しいものは口にしないことで容易に回避することができる。野外での作業の合間に山海での幸を採集して食べることは、つらいフィールド調査をやっているものにとっての楽しみの一つである。しかし、素人判断で誤って有毒な植物や動物を採集して食べることは、フィールドワーカーとしても未熟な証拠である。有毒の危険性の疑いのある食べ物は図鑑だけでなく、経験豊かなものに相談して、食すべきである。研究者は食料品を採集するためにフィールドにはいるのではなく、データを取ることが第一の目的であることも忘れてはならない。

・食中毒型の例

 毒キノコ類に関しては以下のような書物を参照のこと。

「日本のきのこ 」(山渓カラー名鑑。今関六也 本郷次雄, 大谷吉雄).

「毒きのこ今昔 中毒症例を中心にして」 奥沢康正;久世幸吾;奥沢淳治 編著 思文閣 2004.

海外におけるキノコ食は現地のキノコに精通したものが提供するもの以外は食さない。

毒キノコと一言で言っても種類、症状などさまざまなものがある。以下のサイト参照。

 http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf/7bf3955830f37ccf49256502001b614f/dd339fc873e2a94249257083000a3ec6?OpenDocument

 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/kinoko/kinokof.html

 解毒に関しては有効な手立てもあるキノコもあるので何を食べたのかを明らかにすると治療に対して有効である。いずれにせよ食べて中毒症状がでたら医療機関にいくしか有効な手立てはない。

・毒草

 ドクゼリ、トリカブトなど。毒草についても千差万別なので、何を食べて中毒を起こしたのかを特定することが重要である。いずれにせよ中毒症状がでたら即刻、医療機関で治療する。

・その他

 フグ、貝などの海産物の一部に毒を有するものがある。毒の有無は種類だけでなく季節、年度、場所などの状況によっても無毒のものが有毒になったりするので注意が必要である。

2.咬刺裂傷加害生物

 この範疇にはノイバラやタラのような有刺植物も含まれるが、ここでは主に動物によって咬まれたり刺されたり引っ掻かれたりして物理的な傷を受けるものについて記述する。ほとんどの動物はつかまれると咬んだりして抵抗するが、昆虫類、ネズミ類、爬虫類(最近は外来のカミツキガメが注目されている)、鳥類などの比較的小型の動物の場合は、被害により生命にかかわる危険を生じることは少ない。ただし、小型の動物であっても傷口から破傷風や狂犬病などの病原菌が入る可能性があるので注意する。植物や小型動物に対しては軍手をはめるなどして対処すればよい。以下では攻撃や追突による死亡が少なからず報告されているいくつかの大型哺乳類や海産動物についての例を紹介する。

(1)ヒグマ

 日本では北海道のみに生息するが、北ユーラシアや北米に広く分布する。しかし北海道における生息密度は世界のほかの地域に対して高い傾向にあり、北海道の山においてはヒグマは存在しているべきものとして心得るべきである。過去にもヒグマによる重大な殺傷事故が発生しており、毎年数人がヒグマによる傷害、死亡事故にあっているので、日本では最も注意すべき大型哺乳類である。ヒグマは基本的には積極的に人間を襲うことはなく(皆無ではない)、お互いに存在に早くから気づいていれば事故はまず起こらない。それでも山に入ってどちらかがその存在に気づかずに遭遇すると、攻撃を受ける可能性がある。特に子連れのメス熊に遭遇して、メスと子供の間に入ってしまった場合はかなり危険な状態になる。これを予防するには「鈴をつける」、「声を出す」、などして熊に人間の存在を知らせることが重要であるが、逆に鈴をつけているために、鈴の音で熊がいることに気づかずに危険な目にあうことも考えられる。また、攻撃を受けた場合は、熊撃退スプレーや、最終的には鉈などを使った格闘もしなくてはならない。この場合スプレーは風向きや距離を考慮しないと効果がないので、持っているだけでなく使用法について熟知すべきである。また、ヒグマの出没情報は、国有林、警察、地元自治体などで出しているところが多く、その出没地域には立て看板があるので山に入るときにはヒグマ情報に注意する(いずれにせよヒグマは存在するものだと認識すべきである)。

 ヒグマに遭遇した場合は、単なる威嚇行動か実際の攻撃行動かを見極めるのは難しいが、ヒグマが興奮した状態でなければ、静かにその場を離れる。走って背を見せて逃げるのはヒグマの攻撃を誘発する。出会いがしらはお互いにびっくりしている場合があるが、この場合逃げないで突進してくるような熊は明らかにこちらを攻撃する意図があるとみられる。いずれにせよ、ヒグマがこちらに突進してくるようであれば、熊撃退スプレーの安全ピンを抜いていることを確認して、風向き、距離(有効距離は注意書きに書いてある)を考慮して、発射する。撃退スプレーがない時や対応が間に合わない時は、突進してきたらぶつかる前に地面に伏せてやり過ごせた例もある。俗にいわれる「死んだ真似」や「下り坂を走って逃げる」、は効果が無いと見て良い。ヒグマが蛇を怖がるというのは、登別クマ牧場による実験では、有る程度有効であることが証明されているが、興奮した熊や出会い頭には効かないことは言うまでもない。また格闘するという最悪のケースになった場合は、鉈などで鼻面など弱い部分に打撃を与え、助かった例はいくつかある。ヒグマに攻撃され怪我をした場合、ヒグマが去り意識があり動けるようであれば、ほかの人に助けを求める。攻撃され続けたら、「どうせ殺されるなら」という覚悟で目を突いたり、あらゆる抵抗を試みる。

 ヒグマ対策に絶対ということはない。北海道の森林で調査を行いヒグマに遭遇する危険のある人は、以下の二冊を読むことを勧める。

 ヒグマとの遭遇回避と遭遇時の対応に関するマニュアル。第2版。山中正実。(財)知床財団(北海道斜里町)。2004年。

 よいクマわるいクマ。 見分け方から付き合い方まで。萱野茂・前田菜穂子。北海道新聞社。2006年。

知床財団のヒグマ対策のページはhttp://www.shiretoko.or.jp/bear/

北海道立環境科学研究センターのヒグマに対するページはhttp://www.oshima.pref.hokkaido.jp/os-ksktu/kuma/index.html

 ヒグマ撃退スプレーには有効期限がある。期限切れのものは人家のない場所で、風向きに注意して、発射の訓練に供する。ただし環境や人体への配慮からすべきでない場合もあるので練習には十分に注意する。熊撃退スプレーは登山具店や通販などで購入できる。また例えば以下のサイトにスプレーの説明があり、どういうものが良いかの検討材料にされたい。

 http://outback.cup.com/counter_assault.html

 http://www.be-tackle.com/security/sebre_bear.htm

(2)その他

 ヒグマ以外に日本で注意すべき中大型哺乳類は、ツキノワグマ、イノシシ、ニホンザル、ノイヌ(ノライヌ)、繁殖期のオスのニホンジカ、ニホンカモシカである。特に最近は前三者による傷害事故が多発しているので、注意が必要である。これらの哺乳類に対してもヒグマ撃退スプレーは有効であるので、本州などでこれらに襲われるリスクが高いひとはスプレーの持参を進める(撃退スプレーは対人にも有効なので夜間や郊外の山野で作業する女性などが携帯することも可能であるが、対人使用は自らが傷害加害者となる可能性もあるので注意すること)。また、動物の攻撃による事故ではないが大型のエゾシカ(北海道産のニホンジカ)が自動車に衝突して交通事故を起こす例も増えており特にシカの多い地域での夜間の自動車の走行には注意する。海外では大型哺乳類や肉食動物などが生息する場合があるので、地元の危険生物の情報を収集する。

 海産動物では、サメ類による攻撃での死亡例が報告されている。危険なサメ情報については地元自治体、漁協、ダイビング関係などで把握している場合があるので、潜水調査などをする場合はあらかじめ情報を調べておく必要もある。

 サメ対策に関するページはhttp://www.geocities.co.jp/NatureLand-Sky/4515/ifs.htm

 サメ攻撃予防の例として、サメのいる海域で、海面をむやみにたたかない、血を出さない、あるいは出たものを持たない、きらきらしてものなどを身に着けないなどがあげられる。またサメ対策の棒やナイフなどを携帯する。このほかに、大型のカニやシャコガイに挟まれたり、ダツ、カマスなどの魚類による刺傷例などがある。これらの害を避けるには生態や習性を良く知っておく必要がある。たとえばダツは普段はそれほど恐ろしい魚ではないが、夜間、ライトを照らすとそこに向かって突進してきて時に人体に鋭い口吻が刺さる。より詳しく知りたい人は、以下の本を読むことを勧める。

海洋咬刺傷マニュアル THE MARINE STINGER GUIDE ~海の生き物と楽しく過ごすために~小浜正博 1995.ピークビジョン(沖縄県北谷町)。手に入らない場合は、図書館などで手に入れると良い。

危険な海産動物一般に関してのサイト

http://www.ictweb.ne.jp/~seazoo/kiken/kiken_umi.htm

http://www.onyx.dti.ne.jp/~taka-mai/danger.htm

3.病原体媒介および吸血、寄生生物

(1) 病原体媒介生物

 マダニやツツガムシ、カなどのように吸血することにより人体に病原体を媒介するものである。これらの病原体に感染しても、あらかじめワクチン接種することによって防げる場合がある。その場合はできるだけワクチンを接種する(ただしワクチンの副作用のリスクもある)。病原性の寄生生物であるマラリア原虫も蚊によって媒介される。各種ワクチンについては、予防接種についての項を参照されたい。

 ツツガムシ媒介によるリケッチアのツツガムシ病については、ワクチンはないので刺されないことが重要である。ツツガムシは野鼠などの小型歯類齧歯類に寄生する小型のダニであるので、他の研究者よりも小型齧歯類の研究者のほうがハイリスクである。齧歯類を捕獲して調査する場合には、捕獲個体をエーテルの入ったビニールでしばらく密封して外部寄生虫を殺すことが第一の予防である。また、マダニ媒介によるダニ脳炎(TBE: tick-borne encephalitis)はユーラシア大陸ではポピュラーな病気であり感染したら確実な治療法はなく、TBEウイルスに感染したマダニに刺されないことが一番の対策である。既に日本(北海道)でもダニ脳炎が確認されていることから、接種ができない人はまずはマダニに刺されないように注意する。山に入るときは「つなぎ」などを着て作業して、林から出たときにお互いにダニがついていないかチェックして、またつなぎを脱いでマダニを屋内に入れない、などの注意する。

 北海道においてはエキノコックスの寄生が問題である。これは第一宿主であるエゾヤチネズミなどの齧歯類の解剖の時にはグローブをするなどして感染を防ぎ(ネズミから人間に直接に移ったという例は今のところないが)、最終宿主のキツネなどの糞や体に触った手を良く洗う、できればキツネなどに直接触れることをしないなどの策を講じる。またエキノコックスの卵があるかもしれない生水は飲まないようにする。エキノコックスに感染しているかどうかの検査は医療機関で調べてくれる。

エキノコックス症に関するサイト。

http://133.87.224.209/echinococcus/echinococcus.html

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/iks/0000contents/ekino/

http://www.forth.go.jp/mhlw/animal/page_i/i04-2.html

 この他の劇症をもたらす病原性寄生生物として、アメーバ赤痢や主に海産魚介類に寄生する回虫類のアニサキスがあげられる。これらによる発症は生水や生肉を口にしない事により回避できる。

 また、哺乳類、鳥類の研究者やこれらに触れることのある研究者は、人畜共通感染症に注意する。野生鳥獣の解剖にはグローブを着用する、触った後には消毒、洗浄を励行する。ノイヌやコウモリなどは狂犬病を持っている可能性があり、コウモリ類や中、大型食肉類の研究者は狂犬病のワクチンを事前に接種することを薦める。特に海外では狂犬病はまだ一般的な病気なので注意する。

人畜共通感染症については、以下のサイトを紹介する。~http://www.hokudai.ac.jp/czc/

 感染症や寄生虫一般に関しては国立感染症研究所感染症情報センターのサイトが役にたつ。

http://idsc.nih.go.jp/disease/parasite.html

(2)吸血動物

 ヤマビル、マダニ、シラミ、南京虫、カ、アブ、ブヨ、ヌカカなど、熱帯から北極圏まで、湿地帯から乾燥地帯まで、数多くの種類がいる。中には病原体や寄生虫を媒介するものもいるので注意を要する。これらの吸血動物に吸血されると、痒みや痛みを生じる。特にブヨやヌカカなどは集団で吸血するので厄介である。病原体を媒介する、しない、に関わらず、これらの吸血攻撃はとても不快で、掻き跡の傷口から化膿したり、痒さで注意散漫になり機械類の運転に支障をきたすこともある。

 吸血動物への防御は、長袖や長ズボンをはいたり、防虫スプレーや蚊取り線香などの防虫剤、防虫ネットが有効である。ただし防虫ネットは行動を阻害し視野がせまくなり、また暑い中では使用不可となる場合もある。防虫スプレーや蚊取り線香は極多数の集団で吸血される場合は、無効の場合もあり、また副作用(ディートという防虫物質は催奇性があるという報告もある)の危険もある。カやブヨ、ヌカカなどは活発に活動する時刻などが決まっており、調査時間をずらすことによって避けられる場合もある。吸血昆虫から避けるには、服装、防虫スプレー、防虫ネット、活動時間をうまく組み合わせて行うと良い。また途上国やロシアのホテルなどでは室内でも蚊がいることも多いので、蚊取り線香などは役にたつ場合がある。

アナフィラキシーショック http://www.anaphylaxis.jp/forum/anaphylaxis.html

ポイズンリムーバー http://www.be-tackle.com/security/poisonremover/poisonremover.htm

概略(調査前・調査中)と資料編(参考文献・サイト等も含む)に切り分けて整理

 


Last modified: Thu, 27 Mar 2008 08:56:42 +0900 (JST)