目次へ

会長からのメッセージ −その1−

「生物多様性の年に」 −学会長就任のご挨拶−

 2010年1月より,学会長となりました,中静です。2年間,どうぞよろしくお願いします。すでに,この文章を書いているのが3月の大会のさなかです。これまで,きちんとご挨拶をせずに申し訳ありません。

 2010年は生物多様性年で,しかも10月には名古屋で生物多様性条約の第10回締約国会議が開かれることになっています。学会発表を見ても,生物多様性に関わるものがかなり多くなっています。3月17日に,「企業と生物多様性」というシンポジウムでコメントしたのは,「生物多様性問題はもはや生態学を超えている」ということでした。「生物多様性」という言葉自体が意図的に造語されたともいわれるように,生態学プロパーの問題をはるかに超えて様々な側面と広がりをもっています。生物多様性条約の目的も,保全だけではなく,持続的利用や利益の衡平な配分など応用的な分野や社会経済にからむ問題も大きなテーマになっています。また,当然研究者だけのテーマではなく,保全の運動を行っているNGOや,CSRに取り組む企業,行政,と多様なステークホルダーが関わっています。とはいえ,生態学的な知見は無視できず,こうした多様なステークホルダーが求める多様なアウトプットにサイエンスとしてどう答えてゆくのかが,生態学に求められている重要なタスクとなっています。

 日本生態学会は,これまで自然保護委員会を中心として数々の自然保護に関わる提言や要望書を提出してきましたし,生態系管理委員会でも自然再生に対する提言を行ってきました。会員個人としても政府や自治体に各種のアドバイスを提供していただいていると思います。最近の生物多様性や温暖化の問題は,そうした学会と社会への関わりの幅をこれまで以上に広げている,ということは間違いありません。2010年はそうした意味で,日本生態学会にとっても大きな転換の年になるのかもしれません。

 生態学を学ぶ者にとっては,社会からの要請にこたえるような人材を育成することも必要になってきます。生態学のコアの部分だけでなく,社会が求める能力を併せ持つ人材が多くなればそれだけ生態学会の影響力も増すだろうと思います。この点は,若手のキャリアを広げる点でも重要で,生態学会としての取り組みも強化すべきだと思っています。やはり,大会で若手キャリアパスのフォーラムに参加してくださった若い研究者の視線が忘れられません。

 日本生態学会の会員数は2009年末で4000人を超えました。また,今年の大会では参加者が2500名を超え,実に60%以上の会員が参加する,とてもアクティブな学会です。巨大な学会や大会となってきたわけで,それだけ社会に対する影響力を増しています。それにこたえる科学と社会的責任を考えながら,学会長としての職務をはたしたいと思っています。いろいろなご助言をお願いします。

中静 透

トップへ