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会長からのメッセージ −その6−

第58回生態学会大会と東北地方太平洋沖地震

 第58回生態学会札幌大会も終盤を迎えたころ、大きな地震が起こりました。まもなく、それが東北地方で起こったものとわかり、参加者には大きな衝撃が走りました。この地震は、30年以内に99.9%の確率で起こるといわれていただけに、いつ起こってもおかしくないと思っていたとはいえ、このように大きな規模で、しかもあの大きな津波被害には、言葉もない状況でした。津波では想像を絶する数の方がなくなられ、まだ何万人もの方が避難所生活を強いられています。被害を受けられた方々には、こころよりのお見舞いを申し上げたいと思いますし、一日も早い復興を祈りたいと思います。

 被災後1か月がたち、気持ちを落ちつけてみると、生態学会大会そのものを成功に導いていただいた大会企画委員会、実行委員会の方々にお礼のご挨拶をしていなかったことに気づきました。たいへんたくさんの方に参加していただいた大会でしたが、スムーズな運営をしていただき、本当にありがとうございました。とくに、この非常事態に、冷静に、しかも、すぐに戻れない学生会員に、こころ温まる対応をしていただいた札幌の実行委員会とそれに協力していただいた方々には、たいへん感謝しています。あらためて、皆様にお礼申しあげます。

 地震の後は、学会員の方もすぐには被災地へ戻れない状況となりましたが、家族が被災地におられた方は、万難を排し、相当な無理をして帰られたようです。私自身は、予定を変更して札幌から東京へ飛び、埼玉にある自宅で1週間ほど待機したあと、仙台に戻ることができました。私の研究室のスタッフや学生は全員無事、被害も思ったほど大きくはありませんでしたし、自宅の片づけは2時間ほどで終わるくらい、軽微なものでした。現在は、私の周辺では研究室の片づけも済み、電気も水道も復旧しましたが、まだガスは復旧しておりません。とりあえず、通常に近い研究活動を再開できる見込みがたち、ほっとしています。しかし、東北大学の中でも、女川フィールドセンターのように、津波で壊滅状態となった場合もありましたし、いくつかの建物はかなり深刻な被害を受けました。また、津波でパソコンもデータも流されたという人もありました。

 さて、生態学会としても、震災の被害を受けられた方や会員の方に、可能な限り支援をしてゆきたいと考えております。どのような支援が学会として可能なのか、みなさんのお考えをお聞きできればと思います。私自身も、被災者に近いところにおりますが、個人的にはとくに困っていることはほとんどありません。しかし、たとえば、現在助けていただきたいことの一つに、植物標本の再整理の問題があります。東北大学の植物園には、ヤナギ科のコレクションをはじめとして多くの植物標本が収蔵されていますが、地震で標本棚が倒れたり、標本が散乱したりしてしまいました。これを再度、整理された形で収蔵しなおさなくてはならないのですが、この作業はだれにでも可能なわけではありません。もちろん、費用もかかりますが、ある程度植物標本や分類の知識をもった人の助けが必要です。全国の植物園や博物館がそうだと思いますが、現在こうした予算は限られていますし、建物などで大きな被害をうけたところが優先的に復旧されると予想されるため、あとまわしになる可能性が大きいと思います。しかし、散乱した標本を長い時間放置しておくわけにはいかず、植物園では非常に困っています。これは、一つの例ですが、被害を受けられたほかの機関でも、同じようなことで困っておられる方があるのではないかと思います。

 また、今回の地震やそれに続く原子力発電所の事故に関して、生態学からの貢献も可能なことがあるかもしれません。ぜひ、そのような情報や提案を出していただき、一方では、それに協力していただける方の善意にも期待したいと思っています。近いうちに、そうした呼びかけを始めたいと思っていますので、ぜひ、ご協力をお願いしたします。

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