日本生態学会

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会長からのメッセージ -その1-

「会長就任メッセージ」

 2022年3月16日より、湯本前会長を引き継いで日本生態学会会長に就任しました。就任当日の深夜に東北沖を震源とする大きな地震があり、大会の継続について危機管理委員会で議論しました。何とか予定通り大会を終えることができ、ほっとしています。これから2年間よろしくお願い申し上げます。

 私が本学会に入会したのは修士課程の卒業時でしたが、本格的に大会に参加するようになったのは25年ほど前からです。当時の大会は、まだ自然史的な研究が多かったように記憶していますが、群集生態学や行動生態学の新たな潮流や、保全生物学という学際性の高い新分野が生まれた時期でした。私が所属する大学は伝統的に生態学、特に動物関係の生態学者がほとんどいなかったため、必死に知り合いを増やす努力をした覚えがあります。

 現在の日本生態学会は、生物学の一分野としての組織を超え、生命科学との連携はもちろん、農学、工学、社会学など、異分野を巻き込んだ総合科学として発展を遂げています。多くの学会が会員数の減少に頭を悩ませているなか、幸いなことに日本生態学会の会員数はほぼ横ばい状態が続いており、大会参加者はむしろ増加傾向にあります。また、女性比率も25%と他学会に比べても高い状況にあります。地球温暖化や生物多様性の減少が進むなか、人と自然の新たな関係性を構築するための中核的な学術分野として、社会の期待が大きくなっていることを肌で感じています。

 現在、新型コロナウイルスの蔓延に加え、世界情勢が目まぐるしく動いており、先行きが見通しにくい時代になっています。日本生態学会も大きな転換点にあり、社会のさまざまな動きに対応した学会改革が求められています。そうした状況に対応すべく、私は任期中に以下の4つの課題に重点的に取り組んでいきたいと考えています。

① OA化の潮流に対応したEcological Research の改革

歴代編集委員長らの尽力により、英文誌Ecological Researchは国際誌としての一定の地位を築いてきました。最近は久米出版担当理事らの主導による3誌合同出版(個体群生態学会のPopulation Ecology、種生物学会のPlant Species Biology)が功を奏していると思われます。一方で、ここ数年で世界的に学術誌の出版モデルに大きな変革が見られます。近い将来、主要な学術雑誌がオープンアクセス(OA化)に舵を切ることが予想されるなか、Ecological Researchはどこを目指すのか、雑誌の質や量、資金の問題などが複雑に絡みあい、難しい選択に迫られています。私の任期中には基本方針を固める必要があります。

② 大規模で複雑化した全国大会のシステム化

新型コロナウイルスの蔓延により、過去2年間はオンラインでの大会開催を余儀なくされました。2022年は、直前までハイブリッド形式での大会を準備していたため、新たな開催形態への道筋ができたと言えます。ただ、全国大会は、すでにコロナ前からかなり複雑な方式になっていました。そのうえでのハイブリッド形式の継続は、大会企画委員会や大会実行委員会にいま以上の負担をかけることになります。参加者の満足度と運営側の負担軽減を同時に満たす、持続性のある全国大会のあり方を固める必要があります。

③ ダイバーシティの主流化を実現する取り組み

2022年11月から1年間、日本生態学会は男女共同参画学協会連絡会の幹事会を務めることになります。日本生態学会は開かれた学会であることは確かで、新理事の3分の1が女性であることはその表れです。しかし、会員動向分析やアンケート調査の分析から、無意識のバイアスを含めた課題があることが明らかになっています。幹事会を務めることを契機に、学会としてのダイバーシティ宣言の作成も含めた取り組みを一層進めていく必要があります。

④ 戦略的な若手育成・支援の仕組みづくり

生態学は近年の学問領域の広がりから学際性が高まると同時に、企業や行政などアカデミア以外からの人材需要が増えています。一方で、博士課程進学者が減少しており、将来の学術レベルの低下が懸念されます。生態学会は、キャリア支援専門委員会や将来計画専門委員会が中心になり、学生やポスドクを対象とした研究支援やキャリアパスの紹介に取り組んできました。若手と社会のそれぞれのニーズを汲み取りつつ、より俯瞰的かつ戦略的な視点から、育成・支援の仕組みを作っていく必要があります。

 申すまでもありませんが、上記の学会改革は一朝一夕にはできません。かといって、先延ばしが許される状況でもありません。慎重さと迅速さのバランスを取りつつ、課題に挑戦していきたいと考えています。北島副会長を始めとする理事会メンバーはもとより、会員の皆様のご意見やアイディアも随時参考にしながら、学会のよりよい在り方を模索していく所存です。皆様方のご支援、ご協力を是非よろしくお願い申し上げます。

2022年3月25日 会長 宮下 直

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