2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] 企画シンポジウム L02

8 月 27 日 (金) シンポジウム概要
  • L2-1: ()
  • L2-2: 北の一様,南の多様:大規模多種力学系の理論から (時田)
  • L2-3: 増えるも減るもお里次第:北方性魚類の資源変動と気候変動 (森田, 福若)
  • L2-4: 高緯度ほど強くなる植食性昆虫の寄主選好性:化性-変動仮説の検証 (石原)
  • L2-5: 潜水性海鳥の分布と体温維持機構 (新妻)

09:30-12:30

L2-1:

(NA)


09:30-12:30

L2-2: 北の一様,南の多様:大規模多種力学系の理論から

*時田 恵一郎1
1大阪大学サイバーメディアセンター (http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/%7Etokita/)

様々な生態系において、種の数とそれぞれの個体数を調べると、ある特徴のあるパターンが普遍的に見られることが知られている。そのような、いわゆる種の豊富さのパターンを決定するメカニズムの解明は、環境保全に関わる巨大な分野に大きな影響を与えることが予想される一方で、R. Mayのいう「生態学における未解決問題」の一つであり、これまで論争の的となってきた。種の豊富さのパターンについては、様々なモデルが、単一の栄養段階のニッチに対する競争的な生態学的群集に適用されてきたが、より複雑な系に対しては謎が残されている。そのような系とは、複数の栄養段階にまたがり、補食、共生、競争、そして分解過程をも含む、多様な型の種間相互作用をもつ大規模で複雑な生態系である。本講演では、そのような多様な生態学的種間相互作用をもつロトカ・ボルテラ方程式と等価な、多種レプリケーター力学系に基づく種の豊富さのパターンについての理論を紹介する。この理論により、生態系の生産力や成熟の度合いに関係する単一のパラメータに依存して、様々な地域、様々な種構成における種の豊富さのパターンや、その時間変化などが導かれる。また、パラメータの値の広い範囲で、個体数の豊富さの分布が、野外データによく合致する、左側に歪んだ「カノニカル」な対数正規分布に近い形になることも示す。さらに、よく知られる生産力と種数の関係も得られ、面積と生産力にある関数を仮定すると、有名な種ー面積関係が再現されることも示す。これらの巨視的なパターンの、野外や実験における検証可能性についても議論する。(English ver.: http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/%7Etokita/Papers/2004_8ESJ.pdf)


09:30-12:30

L2-3: 増えるも減るもお里次第:北方性魚類の資源変動と気候変動

*森田 健太郎1, 福若 雅章1
1北海道区水産研究所

魚類資源の変動機構は、古くから水産業研究の中核課題となってきた。中でも、サケ、タラ、ニシンといった北方性の魚類は昔から食卓に上がることが多く、比較的長期の漁獲データが蓄積されている。本発表では、これらの北方性魚類を例に、魚類の個体群動態について紹介したい。まず、大きな特徴として上げられるのは、再生産関係(親子関係)の不明瞭さである。これは、観測誤差やプロセス誤差が大きいことによるものなのか、それとも、強い密度依存性が働いているためなのか論争がある。いずれにせよ、親魚の量とは独立に稚魚が沸いてくるような場合が少なくない。タラやニシンでは、卓越年級群と呼ばれるベビーブームによって漁業が成り立っている(いた)と言っても過言ではない。そして、そのベビーブームの発生は海水温とリンクしていることが多い。興味深いことに、産卵場が北にある個体群では水温と稚魚の豊度に正の相関が見られ、産卵場が南にある個体群では水温と稚魚の豊度に負の相関が見られている。また、北太平洋全体の大きなスケールの気候変動として注目を浴びているものに、アリューシャン低気圧の大きさがある。北太平洋のサケの漁獲量は20世紀後半に著しく増大したが、これはアリューシャン低気圧が活発になってきたこととリンクしている。アリューシャン低気圧が活発になり強風が吹くと、湧昇や鉛直混合が強まり一次生産が高まるというメカニズムがあるらしい。実際、冬の風の強さと夏の動物プランクトン量に強い相関があるという報告もある。以上のように、海水温やアリューシャン低気圧の大きさが魚類の資源変動と相関しているという知見は多い。しかし、海の中を調べるのは容易ではなく、その因果関係を解明するのは難しい。海水温と卓越年級群の相関も、水温の直接効果ではなく、餌や海流などを介した相関であると考えられている。魚類の資源変動と気候変動の因果関係は今後の研究課題である。


09:30-12:30

L2-4: 高緯度ほど強くなる植食性昆虫の寄主選好性:化性-変動仮説の検証

*石原 道博1
1大阪女子大学

 植食性昆虫の多くには特定の植物種や植物個体への選好性が見られる。一般に植食性昆虫の幼虫は移動能力に乏しいため、メス成虫が幼虫の生存や発育に良好な質の高い寄主植物を選んで産卵することは適応的であると考えられる。一方で、産卵する植物が必ずしも子の生存や発育にとって良好な植物でない場合も多くの昆虫種で報告されている。この矛盾の理由として捕食者の存在など様々な要因が考えられているが、植物の質に生じる時間的変動も重要な要因の1つである。もし植物の質が時間的に変動し、その変化パターンが植物種間あるいは個体間で異なるならば、質の高さの順位が季節によって入れ替わってしまうことも頻繁に生じるだろう。このような場合には、特定の植物種あるいは植物個体への選好性を植食性昆虫が進化させることは難しくなると考えられる。特に、植食性昆虫が多化性で、かつ多食性であるならば、シーズンが長い低緯度ほどこのようなことが起こりやすいだろう。反対に、高緯度では、寄主植物のシーズンが短く、昆虫の世代数も減少するため、昆虫が寄主植物から受ける質変動の影響は低緯度よりも小さくなり、昆虫に質の高い特定の寄主への選好性が進化しやすくなると考えられる。この考え方は、南北方向に広範囲に生息する植食性昆虫の場合には、高緯度ほど寄主選好性が強くなることを予測する。本研究ではこの予測を化性-変動仮説(Voltinism-Variability Hypothesis)と呼ぶことにする。演者らは、温帯地方から冷帯地方にわたって広く分布し、ヤナギ類を広く寄主として利用するヤナギルリハムシを用いて、この仮説の検証を試みた。本講演ではその結果が化性-変動仮説を支持するものであるかを検討したい。


09:30-12:30

L2-5: 潜水性海鳥の分布と体温維持機構

*新妻 靖章1
1名城大学農学部

ペンギン類やウミスズメ類に代表される潜水性の海鳥類は,主に極域といった冷たい海に限定され分布している。それら海鳥の分布を限定する要因は,餌の有無といった生態的な要因,捕食者を隔てる繁殖地の有無といった物理的要因などがあるだろうが,本公演では,海鳥類の潜水時における生理的要因から考察する。
潜水性の内温動物の生理的な特性,例えば心拍や体温,をモニターするためにはデー・ロガーを用いることで可能である。この研究分野は,近年Data-logging Scienceとして急速に発展した。この技術を用いて,ハシブトウミガラス(Uria lomvia)の潜水行動と体温を同時に記録することに成功した。
ペンギン類やウミスズメ類は南極や北極の海洋生態系の高次捕食者であり,その潜水性能は高い体温を維持することによって達成されると考えられている。高い体温下では,筋収縮に関する酵素の活性を上げることができ,すばやい酵素反応は大きな力を生むことができる。しかし,水は空気に比べて25倍早く熱を奪うため,海鳥のような小さな動物が極域といった寒冷な海に潜り,体温を維持することができるのだろうか?それに加え,高い体温は肺,血液,筋肉などに蓄えた酸素を早く消費してしまう。どのようにして,潜水時間を長くすることができるのだろうか?などなど,疑問は多い。はじめにウミガラスの潜水時における体温維持機構について考察する。小さな海鳥類の体温維持機構について明らかにしたうえで,生理学の面から見た場合,このような海鳥類が暖かい海に進出することができるのかについて,極単純化した熱収支モデルから予想する。