2004 年 8 月 25 日 (水) - 29 日 (日)

第 51 回   日本生態学会大会 (JES51)

釧路市観光国際交流センター



シンポジウム&自由集会
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2006 年 10 月 08 日 16:53 更新
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[要旨集] 口頭発表: 群集生態

8 月 26 日 (木)
  • O1-W26: ()
  • O1-W27: カエル目幼生による栄養塩回帰が落葉リター食者に与える間接効果 (岩井, 加賀谷)
  • O1-W28: 河川性魚類が底生無脊椎動物に及ぼす影響:流程間での比較 (井上, 宮吉)
  • O1-W29: 河畔林の断続的な伐採が河川性底生動物の群集構造に及ぼす影響 (森, 三宅, 柴田)
  • O1-W30: 仙台湾に面した7干潟に棲息する底生動物のメタ群集構造 (鈴木)
  • O1-W31: 泳ぐ閉鎖系_から_アオウミガメに付着するフジツボ類の分布パターン_から_ (林, 辻)
  • O1-W32: 海藻と植物プランクトンの競争が生み出す中海の海藻群落の空間変異 (宮本)
  • O1-W33: 湖沼におけるキャタストロフ遷移 (中島)
  • O1-W34: 中央カリマンタンにおける大規模開発地域内外の池沼の水質と動物プランクトンの比較 (今井, Yurenfri, Gumiri, 岩熊)
  • O1-W35: 地球温暖化と動物プランクトン:メソコスム実験を用いた動物プランクトン群集に及ぼす高温ストレス影響の解析 (張, 花里)

15:00-15:15

O1-W26:

(NA)


15:15-15:30

O1-W27: カエル目幼生による栄養塩回帰が落葉リター食者に与える間接効果

*岩井 紀子1, 加賀谷 隆1
1東大・農・森林動物

水域食物網では、ある生物の摂食活動や排泄による栄養塩の放出が他の生物に正の影響を与える、栄養塩回帰による間接効果の重要性が指摘されている。これまでは藻類に対する間接効果が主に注目されてきたが、微生物によるリターのコンディショニングを促進することで、リター食者に影響を及ぼす可能性も考えられる。本研究では、止水域においてバイオマスの大きいカエル目幼生の、摂食活動による栄養塩回帰が、リター食者に及ぼす正の間接効果の存在を室内実験により検証した。また、栄養塩回帰や間接効果の大きさについて、幼生の種や摂食した食物項目間で比較した。
ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、アズマヒキガエル、モリアオガエルの幼生に、食物として落葉リター、藻類、イトミミズをそれぞれ単独に十分量与え、室内飼育した。飼育水(幼生添加群)と食物のみを浸した水(対照群)の溶脱塩量を電気伝導度により比較した結果、幼生添加群の方が高く、幼生の摂食活動による栄養塩回帰の存在が示唆された。また、この効果の大きさは食物項目によって異なり、藻類で有意に大きかった。それぞれの水で落葉リターをコンディショニングした結果、幼生添加群のリターのCN比は対照群よりも有意に低かった。さらに、これらのリターを、リター食者である甲殻類のミズムシに与えたところ、幼生添加群に由来するリターを摂食した方が有意に成長速度は速かった。リターのCN比や、リター食者に対する幼生の影響の大きさには、幼生種間、食物項目間で違いは検出されなかったが、食物好適性は種間で異なり、ニホンアカガエル、モリアオガエルでは藻類が好適性の高い食物と判断された。
以上より、カエル目幼生による摂食活動は、栄養塩回帰によってリターの質を向上させ、リター食者に正の間接効果を与えることが示された。野外では、藻類を好適な食物とする、ニホンアカガエルやモリアオガエルの摂食活動による効果が大きいと予想される。


15:30-15:45

O1-W28: 河川性魚類が底生無脊椎動物に及ぼす影響:流程間での比較

*井上 幹生1, 宮吉 将信2
1愛媛大学理学部, 2株式会社ピーシーイー

 河川性魚類の群集構造は、流程に沿って変化する。食物源の多くを他生性有機物(例えば、落下昆虫)に依存する河川上流域では、サケ科魚類等、流下物採餌を行う魚種が優占するが、下流になるにつれてハゼ科魚類等、河床で小型の底生無脊椎動物を食う底生捕食者が多くなり、さらに、一次生産が高まる河川中流域になると、アユやボウズハゼといった藻類を専食するものも現れる。魚類は底生無脊椎動物に様々な影響を及ぼすが、その影響は魚類の採餌様式によって異なると考えられる。本研究では、底生無脊椎動物に対する魚類の影響が、流程に沿ってどのように異なるかについて検討した。
 四国南西部の小河川において、流下物捕食者(アマゴ)が優占する上流サイト、底生捕食者(ヨシノボリ)が優占する中流サイト、および底生捕食者に加えて藻類食者(ボウズハゼ)が出現する下流サイトの3つ調査地点を設定し、野外調査と操作実験を行った。その結果、上流および中流サイトではともに、魚類による底生無脊椎動物密度への影響は認められなかった。一方、下流サイトでは、魚類による無脊椎動物密度の低下が認められた。この密度低下は、底生捕食者による影響ではなく藻類食者によるものであった。また、野外調査の結果より、藻類食魚類による影響が、流程に沿った付着藻類量および底生無脊椎動物密度の変化に反映されていることが示唆された。


15:45-16:00

O1-W29: 河畔林の断続的な伐採が河川性底生動物の群集構造に及ぼす影響

*森 照貴1, 三宅 洋2, 柴田 叡弌3
1北海道大学苫小牧研究林, 2愛媛大学工学部, 3名古屋大学農学部

河畔林の断続的な伐採が河川性底生動物に及ぼす影響を,河畔林のもつ日射遮断機能に注目して調べることを目的とした.
岐阜県北部を流れる山地小渓流2河川において河畔林が現存する20m区間(対照区)と河畔林が伐採された20m区間(伐採区)で環境条件および底生動物の群集構造の比較を行った.
相対光量子束密度は対照区より伐採区で高かった.底生動物の生息密度は伐採区において高く,分類群数は河畔林の有無による有意な影響は認められなかった.各摂食機能群の中で刈取食者と捕食者の生息密度が伐採区において高かった.これは光量の増加に伴う付着藻類の一次生産量の増加が,底生動物(特に刈取食者)の増加をもたらした結果と考えられた.
付着藻類の現存量は伐採区より対照区で高かった.伐採区でヤマトビケラなどの刈取食者の生息密度が増加したために,付着藻類の一次生産量を上回る過剰な消費が起こり,付着藻類の現存量を低下させたものと考えられた.
断続的な河畔林の伐採は,光環境の改変を介して付着藻類に影響を及ぼし,高次の栄養段階に属する底生動物の群集構造に影響を及ぼすことが考えられた.


16:00-16:15

O1-W30: 仙台湾に面した7干潟に棲息する底生動物のメタ群集構造

*鈴木 孝男1
1東北大学大学院生命科学研究科

 東北地方に存在する干潟の底生動物に関しては、これまで、体系的に調べられたことはなく、一部の干潟を除けば生物多様性の実態は未知のままであったし、相互の関連などに関しては検討されたことがなかった。そこで、仙台湾に沿って分布する中規模の干潟の内、松川浦、鳥の海、広浦、井土浦、蒲生、松島、万石浦の7つの干潟について底生動物の群集組成を調べ、相互に比較を行った。調査方法は、環境省の自然環境保全基礎調査浅海域生態系調査(干潟)に準拠した。
 出現種総数は161種で、最も多くの種が生息していたのは、最も干潟面積の広い松川浦の98種で、以下、万石浦91種、蒲生70種、松島61種、井土浦48種、広浦48種、鳥の海47種であった。蒲生干潟は干潟面積が最小であったが、出現種数は中程度であった。
 底生動物のほとんどの種は、仙台湾を介して移動分散を繰り返し、各干潟に加入していると考えられることから、仙台湾沿岸域全体でメタ群集を形成しているとみなすことができる。そこで、干潟間の関連の強さの指標として、各干潟に出現した底生動物の共通係数(共通種比率)を求め、比較検討した。その結果、干潟間の共通係数は干潟間の距離におおむね反比例していたが、近距離にあって共通係数が高い干潟群と、距離に関わらず共通係数がほぼ同程度になる干潟群に分けられた。また、蒲生干潟は小さな潟湖でありながら、松川浦や万石浦など大きな潟湖(浦)と共通する底生生物も存在していた。
 これらのことから、仙台湾沿岸域に離散的に立地する干潟には、小規模な範囲で移出入を繰り返している生物群と、広域的に移出入を行っているとみなされる生物群が存在することが示唆された。


16:15-16:30

O1-W31: 泳ぐ閉鎖系_から_アオウミガメに付着するフジツボ類の分布パターン_から_

*林 亮太1, 辻 和希2
1東京大学海洋研究所, 2琉球大学農学部

群集構造の時間的・空間的変動を記載し、それらを種間相互作用、非生物的環境要因、各種の生活史戦略や行動・形態から解明することを目的とした群集生態学の研究の中で、パッチ状環境での種間競争の理論的研究から個々の種が独立に集中分布している場合には種間競争に比べて種内競争が卓越する状態になり、競争種の共存が促進される可能性は集中分布モデルとして知られている(Shorrocks et al.1979; Ives 1988)。こうした種間相互作用の研究において、ウミガメの体のように決められた空間が自分で泳ぎ回り、そこに様々な生物が生活するという環境は他に例がない。
そこで本研究では定置網で混獲されるアオウミガメの体に付着するフジツボ類においても独立集中分布モデルの仮定に合うかを明らかにし、また付着する生物からアオウミガメの海中での生活史について何らかの情報を得ることを目的とした。
2002年4月から2003年2月まで沖縄県宜野座村漢那漁港の定置網に掛かったウミガメを調査した。調査はウミガメの体表に付着する生物とそのウミガメの体長・体重などの基本的データを記録し、付着生物に関してどこにどのような付着生物が何個付着していたかを記録した。採集した付着生物はサンプル管に保存、後で形態によって3タイプに区別し、フジツボはタイプごとに独立集中分布の仮定に当てはまるか検討した。
今回の調査の結果明らかになったのはアオウミガメに付着するフジツボには付着場所によって形態が異なることと、個々の形態種は種内で集中分布し、種間では独立あるいは排斥しあう傾向を有し、独立集中分布モデルの仮定に矛盾しないことである。ウミガメの体は樹洞や水溜りのように内部の群集構造の経時的変化を完全に把握しうる環境ではないが、生物種の共存機構を解明するため興味深い材料であると考えられた。


16:30-16:45

O1-W32: 海藻と植物プランクトンの競争が生み出す中海の海藻群落の空間変異

*宮本 康1
1京都大学・生態学研究センター

  湖沼の沈水植生は水質の強い影響下にある。淡水湖では透明度が、汽水湖では塩分が植生の構造特性を決定する重要な要因として考えられている。演者は汽水湖の「塩分説」に疑問を抱き、日本有数の汽水湖である中海を対象として、沿岸に生育する海藻群群落の構造特性(現存量・機能群組成・種多様性)が(1)透明度と塩分のどちらに支配されているのか、(2)その環境特性に応じてどのような空間変異を生じるのか、を明らかにするための野外調査を行った。2003年の7月から8月にかけて、中海沿岸に設けた15の調査点を対象に、潜水により水面から水深2.5mの範囲の8水深にて海藻の被度を測定し、さらに、船上にて湖水の透明度・塩分・クロロフィルa量の測定を行った。
 海藻群落の3つの構造特性(現存量・機能群組成・種多様性)は透明度に応じた変化を示したが、塩分に応じた変化は示さなかった。透明度の高い場所では大型の機能群が優占し、群落の現存量と種多様性が高くなる傾向が認められた。この傾向は、透明度の増加に応じて海藻の分布域がより深い水深へ拡大し、これに伴い出現種数が増加することが原因であることが示された。また、海藻群落の3つの構造特性は、海水の流入口(中浦水門)からの距離に応じて変化したが、これは、透明度が海から離れるほど低下することが原因であった。以上の結果は、中海内で海藻群落の局地的な構造特性を決定する要因は、塩分ではなく透明度であることを示している。
  透明度がクロロフィルa濃度と非常に良い正の相関を示したことから、透明度と海藻群落の間の負の関係は、植物プランクトンと海藻の競争関係を示すものと考えられる。発表時には、彼らの間で生じる栄養塩と光を巡る競争関係と、この競争の結果を決定する「海水流入の効果」についても言及したい。


16:45-17:00

O1-W33: 湖沼におけるキャタストロフ遷移

*中島 久男1
1立命館大学 理工学部

湖沼生態系において、栄養塩負荷が時間的に緩やかに変化した場合においても、水界群集の状態が短時間のうちに急激に変化することがしばしば観測されている。たとえば、湖沼の富栄養化に伴う植物プランクトンの優先種の交替や、植物プランクトン密度の急激な変化などがある。最近、Scheffer et. al. (2001)、 Scheffer and Carpenter (2003) は、これらの現象を Catastrophic (Regime) Shifts として捉えることが、生態系の管理の上で重要となることを主張している。
キャタストロフ遷移の大きな特徴として、(1)系のパラメータが連続的に変化しても、系の状態が不連続に変化すること、(2) パラメータ変化によって状態が不連続に変化した場合、パラメータの値を変化直前の値に戻したとしても、状態は元に戻らず、パラメータの値をさらに大きく戻して初めて状態が元に戻るといった、『履歴効果』が存在することである。生態系管理の観点からキャタストロフ遷移についての大きな問題点として、(1) 履歴効果により、一度変化した生態系を本の状態に戻すことに、かなりの困難さを伴うことがあること、(2) 現在の生態系が望ましいものであったとしても、それが望ましくない状態へと遷移を起こす危険性がどれほどあるかを予測することが、きわめて困難であることが挙げられている。
本研究では、植物プランクトンの系や植物プランクトンと水生植物の系を対象として、数理モデルによる解析を行い、(1) キャタストロフ遷移を引き起こす相互作用のネットワーク構造の解明と、(2) キャタストロフ遷移を予測する手法を確立するための基礎モデルの構築を目指している。
Sheffer, M. et. al. (2001), Nature 413, 591-596.
Sheffer, M. & Carpenter, S. R. (2003), Trends Ecol. Evol. 18, 648-656.


17:00-17:15

O1-W34: 中央カリマンタンにおける大規模開発地域内外の池沼の水質と動物プランクトンの比較

*今井 眞木1, Yurenfri Yurenfri2, Gumiri Sulmin2, 岩熊 敏夫1
1北海道大学大学院地球環境科学研究科, 2パランカラヤ大学農学部

 インドネシア中央カリマンタンにおいて、1995年から泥炭湿地林が伐採、または焼き払われて、水田農耕地に変換された。また、水田開発に伴って、この地域の周辺には大小多くの水路も建設された。この大規模開発(Mega Rice Project)によって100万ヘクタールの地域が切り開かれた。<BR>
 本研究では、大規模開発地域内外の比較的小さい池沼(人工、天然を含む)計およそ60箇所から、環境要因の測定、水、底質および動物プランクトンの採集を行った。これらを比較し、開発による環境変動が動物プランクトン群集に与える影響を評価することを目的とした。大規模開発地域は開発段階の違いにより、さらに4区域ABCDに分かれている。また、この大規模開発地域とは流域を異にするカティンガン川沿いの泥炭湿地林の残る未開発地域にて調査を行い、これら計5地域の環境(物理化学的特性)と生物相を比較した。<BR>
 物理化学的要因に関しては、pHは開発地域で未開発地域より有意に低く、濁度は開発地域内のB区域で最も高く、A区域または未開発地域とは有意に差があった。溶存酸素に関しては有意な差は見られなかった。また、クロロフィルa量は開発地域に比べて未開発地域で有意に高かった。<BR>
 クロロフィルa量が高く、珪藻などの付着藻類や水草の多い池沼ではCladoceraやCopepodaなどの動物プランクトンの種数、個体数ともに多い傾向がみられた。開発地域では、フタバカゲロウ(フタバカゲロウ属)、ユスリカ(ユスリカ属)などの水生昆虫は見られたが、Cladoceraの個体数は非常に少なかった。<BR>
 森林伐採や開発によって池沼の物理的環境も単純化し、水辺の付着藻類の多い環境を好む動物プランクトンに影響を与えるかもしれない。今後さらに分析を進め、開発による動物プランクトン群集組成や生物多様性への影響を解析する予定である。


17:15-17:30

O1-W35: 地球温暖化と動物プランクトン:メソコスム実験を用いた動物プランクトン群集に及ぼす高温ストレス影響の解析

*張 光玄1, 花里 孝幸1
1信州大学山地水環境教育研究センター

地球温暖化は将来にわたって生態系に影響を与える深刻な問題として受け取られている。中でも、水資源として人間生活と密接にかかわっている湖沼の生態系に及ぼす温暖化の影響の評価・予測は重要な課題である。
その湖沼生態系の重要な構成員である動物プランクトンは、高温ストレスによって様々な影響を受けるものと予測されている。しかしながら、まだ極めてわずかな情報に基づいてなされているのみで、特に群集レベルの実験結果はいまだにその数が少ない。
そこで、本研究では、高温ストレスが動物プランクトン群集に及ぼす影響を、個体群密度、種組成や動物プランクトン群集内の相互関係の変動に注目し、メソコスムを用いて解析した。
実験では、小型メソコスム水槽(80L)を用い、長野県の美鈴湖の泥を加えて動物プランクトン群集を発生させたた。メソコスム水槽は、異なる水温(20°Cと28°C)とエサ密度(7.8×103と1.3×103 cells/ml, Chlorella)を設定し、動物プランクトン群集の変動を分析した。主な分析項目として、各動物プランクトン個体群の密度、species diversityやrichness、種組成、relative importance of predatory interactions、linkage density(interactive connectance)を用いた。
動物プランクトンは高温ストレスに対し、分類群によって異なる反応を示した。特に、高温による個体群密度や多様性の減少はミジンコ群集で顕著に現れた。また、無脊椎捕食者のカイアシ類は高温の水槽では出現しなかった。
以上のことから、高温ストレスは、動物プランクトンの現存量だけでなく、その群集構造にも大きな影響を与え、ひいては生物間相互作用を介して生態系の機能にも大きな影響が及ぶものと考えられる。