| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-020  (Poster presentation)

刺胞動物と褐虫藻との細胞内共生における共生関係の流動性の評価

*宮澤真琴(東北大・院・生命), 石井悠(東北大・院・生命), 服田昌之(お茶大・院・人間文化), 高橋俊一(基生研・環境光生物), 丸山真一朗(東北大・院・生命), 河田雅圭(東北大・院・生命)

 刺胞動物の中には褐虫藻と呼ばれる渦鞭毛藻類の一種(Symbiodinium属)と細胞内共生関係を築く種が知られている。造礁サンゴにとって褐虫藻との共生関係は生命維持に不可欠であり、海の生態系を支えている両者の関係を解明することは生態学的にも重要な研究課題である。宿主細胞レベルでの褐虫藻の保持能力に着目すると、共生関係が安定に維持されるためには、(1)褐虫藻が同じ細胞内に留まり続ける固定的な場合、(2)褐虫藻が細胞内へ取り込まれる速さと吐き出される速さが拮抗している流動的な場合が考えられ、宿主個体全体としてはその組み合わせとして共生関係を理解できる。しかし、宿主と共生体とがどの程度固定的/流動的な共生関係を保っているのかを示す研究は行われてこなかった。
 本研究では、共生可能な褐虫藻株と、褐虫藻と同様に取込まれることが先行研究により示されている蛍光ビーズをモデル刺胞動物セイタカイソギンチャク Exaiptasia pallidaに与え、取り込まれた後の両者の挙動を追跡比較することで、細胞レベルでの共生関係の流動性を解析することを目的とした。追跡観察の結果、蛍光ビーズは褐虫藻よりも宿主個体全体としては保持されにくいものの、細胞レベルでは新たな取込みや吐出は起こりやすいことが示された。このことは、セイタカイソギンチャクの内胚葉細胞は(2)「流動的な共生関係」を築くのに必要な活性を観察時間内に維持していたことを示唆する。しかし、褐虫藻の追跡観察では、ほとんどの褐虫藻が同一の宿主細胞に維持され続け、(1)「固定的な共生関係」を築いていると考えられた。これらのことから、少なくとも短時間では、褐虫藻がセイタカイソギンチャクと共生関係を築くことができるのは、宿主細胞内からの吐出、あるいは細胞内への取込みが起こりにくくなる機構が働いていることが要因になっていることが示唆された。


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